第30話 新しい未来へ

「わぁ・・・久しぶりの我が家だ・・・」

智は自宅に戻るなり、懐かしそうにリビングで部屋の空気を吸い込む。後ろで龍が荷物を下ろし、智の横を通り抜け、ベランダの窓を開ける。

あれから長い事寝込んだ為に、落ちた筋力を取り戻す為のリハビリが始まり、退院するのに三ヶ月かかった。

その間も龍がずっと寄り添ってくれた。結局、大学は半年も休学したため、一年浪人することになった。

申し訳ないと誤った智に、龍は1人で卒業するつもりはなかったからいいんだと、ずっと智のそばにいれたからいいんだと優しく答えてくれた。

「荷物、僕の部屋に運ばなきゃね」

智が龍に向かい声をかけると、龍は気まずそうな顔をする。

「どうしたの?」

智の問いかけに、更に気まずそうな顔をした龍は深く深呼吸して、引かないでくれと前置きし、智を部屋へと連れていく。

そこには智のベットなどがなく、机が二つ並べられ、ちょっとした書斎の様な部屋になっていた。

「えっ?僕の荷物は?ベットは?」

智は慌てて部屋に入り、辺りをキョロキョロと見回す。

「少し・・・模様替えをしたんだ」

「えっ?」

「すまない。俺は反対したんだ。でも、母さんと叔母さんが勝手に模様替えしてて・・・」

龍はそう言うと、智の肩に手を回し、龍の部屋に連れて行く。ドアを開けるとそこには大きなベットがポツンと置いてあった。

智は状況がわからず、首を傾げていると龍がボソボソと呟き始めた。

「その・・・智が退院した後も、俺が面倒見ないといけないから、ここを寝室にして智の体調を見てくれと・・・その・・・もう恋人同士だから、一緒に寝るのは問題無いだろうとベットまで買ってきて・・・」

龍の話にだんだん頭が追いついてきた智は顔を赤らめる。龍は慌てて言葉を繋ぐ。

「俺は反対したんだ。いくら付き合ってても部屋は別にした方がいいって。なのに、勝手に注文して俺が病院に行っている間に業者に頼んだらしくて・・・いや、智が嫌ならもちろん俺はリビングで寝るから、心配するな」

そう言って智の頭を撫でる。龍の顔を見上げると、顔を赤らめながらも、少し落ち込んだ表情で俯いていた。

初めてみた龍の表情に智はふふッと笑みを溢す。

「僕、嫌じゃないよ。少し恥ずかしいだけ」

「智・・・」

「で、でも、ここ鍵付けれないかな?」

「何でだ?」

「だって、明日は先輩達と鍋するでしょ?見られたら恥ずかしいし、絶対、神崎先輩がからかってくるもん」

「もんって・・・はぁ・・・智は可愛いな」

龍は智を後ろからそっと抱きしめ、智の頭に顔を寄せる。一瞬顔を赤らめた智だったが、背中から伝わる龍の温もりに、回された腕に手を寄せ、少しだけ龍にもたれる。

「明日・・・2人から話があると思うが、あの2人、付き合うことにしたそうだ。だから、何か言われたら逆に揶揄えばいい」

「えっ!?そうなの?」

突然の発言に智は龍の方へ体を向ける。

「あぁ・・・二週間前に会った時に、そう言っていた・・・智、大丈夫か?」

龍は心配そうに智を見つめるが、智は微笑んで龍の頬を両手で包む。

「言ったでしょ?今の僕は龍が大好きだよ。先輩じゃなくて、今、目の前にいる龍が大好き」

智は背伸びして龍にキスをする。

「そうだな。俺も智が大好きだ」

龍は微笑み、智のおでこに、頬にキスをする。智はモジモジしながら、龍を見つめると、龍の耳元に口を寄せる。

「ねぇ、片付けは後にして、少しだけ一緒に寝ない?」

その言葉に龍は一瞬固まるが、智をヒョイっと担ぎ上げベットへ運ぶ。

そして優しく智を寝かせると、その上に覆い被さり、智の髪を撫でる。

「智、好きだ。大好きだ。愛してる」

躊躇う事なく智に愛を囁く。智も真っ直ぐに龍を見つめ、僕もと囁いた。

それから互いに何度も軽いキスを交わし、次第に深いキスを交わす。

唇が離れると、智はうっとした表情で龍を見つめる。

「・・・するの?」

「・・・・・したい・・・が、今日は無理だ」

「・・・・なんで?」

「お前は病み上がりだ」

「僕、もう大丈夫だよ?」

「・・・くそ。煽るんじゃない。色々準備が必要なんだ。だから、今日は無理だ」

「あ・・・そうなんだ・・・ごめんね、龍。僕、勉強しとく」

落ち込んだ表情で呟く智に、龍は俯いて小さな唸り声を上げると、ガバッと顔を上げる。

「いや、今日から練習しよう。俺、買い物行ってくる」

体を起こし、智から体を離すとベットから降りようとする。智は慌てて起き上がり、龍の服を掴む。

「きょ、今日はやめよう。明日は先輩たち来るから、何も予定がない時にしよう。だから・・・今日は沢山キスして」

智の甘えた声に、龍は手を顔に当て苦悩の声を漏らすが、そのまま智を押し倒す。

「軽いのだけだ。じゃないと我慢できない」

「うん。それでいい。僕たちには新しい未来ができて、これから2人の時間がいっぱいあるんだもん。ゆっくり進もう」

智はにこりと微笑むと、龍もそうだなと微笑み返し、何度も啄むようなキスを繰り返し、智を抱きしめた。

智も龍の背中に手を伸ばし、強く抱きしめる。

動き出したもう一つの新しい未来。2人だけの愛しい未来。

ずっとずっと2人で、互いの隣で・・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕の隣は君がいい 颯風 こゆき @koyuichi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ