第29話 それぞれの温もり
翌日、智と龍の家族が病室に駆けつけた。
泣きながら抱き合い、智が寝ている間の話をしてくれた。
智も緊急事態に陥り、龍も緊急手術を受けている間、連絡や警察へのやり取りは全て吉永がやってくれたらしい。
自分も怪我をしているのに、智達の家族にも連絡を入れ、到着するまで智たちのそばにいてくれて、到着してから警察と一緒に家族へ説明をした。
それから深々と頭を下げ、危険に巻き込んで申し訳ないと謝罪をしたそうだ。
その誠実な態度に家族も心を打たれ、怪我してまでも2人を守ってくれた事を逆に感謝した。
龍が目覚めてから、智の事でだいぶ参っていた龍を支えたのも、また吉永だった。そして、そこには神崎と葵の姿もあったという。
一通り話を終えてから、龍と龍の家族はしばらく水入らずで過ごしてと部屋を出て行った。
ドアが閉まった瞬間、智の母親が父親を手招きし、智のそばに腰を下ろし三人で抱きしめあった。
「龍くんには本当に感謝ね」
「そうだね」
智と母親はふふと微笑み合う。その隣で少し複雑そうに父親が話かけてくる。
「あの・・・それで、どうなった?」
「何が?」
父親の言葉に智は首を傾げる。躊躇しながら話を進めようとした父親を母親が遮る。
「お父さん、その話は今度でもいいんじゃない?」
「いや、龍くんに感謝すればこそ、この話は聞いておくべきだ」
2人の話に智は何の事だと問いかけると、2人は顔を見合わせた後、少し気まずそうに話始めた。
「智がね、眠り始めて一ヶ月くらいして龍くんは退院したんだけど、龍くん、智と一緒に大学を休学するっていい出してね。智はこんな状態だから仕方ないけど、龍くんは大学に行きなさいって話したんだけど、龍くん譲らなくてね」
突然の話に智は困惑する。母親が言うように智だけ休学にすれば良かったのに、龍が何故そんな事をしたのか見当がつかなかった。
そんな智の表情を察してか、2人も複雑な顔をしながらまた話を続ける。
「最初はね、智を守れなかった責任から言ってるのだと思ってたの。ほら、龍くん、昔から智の事、よく面倒見てくれたじゃない?だから、今回もその責任感から来るものだと思ったのよ。そしたね、龍くん、それもあるけど、智が目覚めるまで自分が面倒見たいって言うの。その理由がね・・・・智が好きだからって・・・」
「・・・えっ?」
「自分は昔からずっと智の事が好きだったって・・・一度、この気持ちは良く無いって離れた事があって、それをとても後悔しているから、今度は離れたく無いって言うのよ。お母さん達はずっと2人は一緒に仲良くしてると思ってたから、何の事かわからなかったんだけど、その時の龍くんの顔がとても切なく見えてね」
母親が悲しそうな表情でそう話すと、今度は父親が口を開く。
「智には気持ちは伝えてあるけど、自分の一方的な片思いだと。だから智には無理強いはしない。でも、友人としてでいいから智の側にいさせてくださいって父さん達に頭を下げていたんだ」
「・・・そんな事があったんだ・・・」
ずっと黙ったまま聞いていた智はポツリと呟く。母親は智の手を取り、俯いたままの智の顔を覗き込む。
「ねぇ、智。母さんも父さんも反対はしないわ。もし、龍くんを選んで智が幸せならそれでいいの。お父さんもお母さんも体が弱いあなたの事がずっと心配だった。だから、2人でずっと願ってたのよ。智が元気に笑って毎日を過ごして、その隣に智が信じた大切な人がいてくれたら、それがどんな相手でも反対しない。智を幸せに、智が幸せだと思うならそれが一番の願いだって」
母親の言葉に父親も頷く。そして優しく言葉をかける。
「これは智の気持ちで、智が考える事だから横槍はしないが、もし、心を決めた時は教えてくれるかい?お父さん達は龍くんをずっと見てきたから、龍くんの気持ちを信じてる。だから、智も信じて龍くんの事を考えてあげて欲しいな」
「うん・・・・僕ね、これまでも龍に助けられてきて、今回も龍は僕を庇って大怪我した。どんなに痛い目に遭っても、僕を守ってくれたんだ。気を失って倒れるまで・・・僕、龍の気持ちにずっと気付かなくて沢山龍を傷付けたけど、これからは龍の側でずっと龍を見ていきたいと思ってる。僕、龍が好きだ」
そう言葉にした途端、智の目から涙が溢れる。母親は智に頷きながら、その涙を拭う。そして、また三人で抱き合った。優しく強く抱きしめ合った。
しばらくすると、遠くからバタバタと足音が近づく音が聞こえたと思ったら、病室のドアが荒々しく開かれる。
龍の母親だ。その後ろで龍がやめろっと腕を掴んで止める。その手を振り解き、龍の母親が智を思い切り抱きしめた。
「智くん!ありがとう!」
「え?」
「この女々しい馬鹿息子の想いを受け止めてくれて、ありがとう!」
「やめろっ!」
2人のやり取りに、時間差で理解した智は顔を真っ赤にして俯く。龍はどこまで色んな人に話をしているのか、何も知らないままでいた自分にも恥ずかしくなる。
そんな智の表情を見て、龍の母親がさらに歓喜する。
「ねぇ、美奈さん、結婚式はどうする?」
智の母親の手を取り、興奮した様子で話す様子を智の両親は声を出して笑う。
「母さん、お願いだ。やめてくれ」
龍が恥ずかしそうに、母親の服を引っ張る。智も恥ずかしさから、ずっと顔を上げれず、チラッと龍の顔を見ては目が合い、龍を睨みつけた。
龍はその顔を見て青あざめて、さらに母親の袖を強く引っ張った。
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