第28話 僕の隣は君がいい
検査が終わってからしばらくすると、体に繋がれていた機械も撤去し、呼吸器も取れた。
検査では異常が見られなかったから、今日一日様子を見て大丈夫そうなら一般病棟へ移すと告げられた。
その話に智と龍は顔を見合わせ、安堵する。
完全に回復するにはリハビリも含めて数ヶ月かかるが、それでもまた日常生活に戻れる事が目の前を明るくさせた。
二時間後には慌ただしく葵達がやってきて、部屋は賑やかになった。
葵は智の顔を見るなり大泣きし、何度も謝ってきたが、智は葵は悪くないと何度も言い返した。
吉永の怪我も何針か縫っただけで済んだと言われ、智は安堵する。
吉永は智の頭を撫でながら、よく頑張ったと誉めると智も笑みを浮かべる。
神崎は吉永からあの話を聞いたのか、ずっと俯いていたが、智が手を差し伸べるとその手を取らずに智に抱きついた。
「俺たちの未来を救ってくれてありがとう」
そう神崎は耳元で囁くと、智は小さく頷く。すると、2人の間ににゅっと手が差し込まれ、無理やり引き剥がされる。
その手の持ち主は、神崎をグイグイと押し出すと、代わりに智の肩に手を回し抱き寄せる。
その光景に神崎は呆れた顔をするも、ふっと笑みを溢した。
「はいはい。いいですよ。俺には葵ちゃんがいますからね」
神崎はそばにいた葵に抱きつくと、葵に手を叩かれ、口を尖らせる。それを見て周りが笑い出す。
穏やかな時間が過ぎていき、神崎達はまた来ると告げ、部屋を出て行った。
智の家族は明日の朝イチの便で来る事になっていたので、龍にもう休めと眠らされる。
夕方目覚めた智は、龍に手伝ってもらい、ほぼ水に近いお粥を食べさせてもらった。
明日まではお風呂にも入れないので、龍に頼んで体を拭いてもらう。最初は躊躇っていたが、いつも頼んでいた病院の介護士が帰ってしまったのもあり、ぎこちない手つきではあったが、丁寧に智の体を拭く。
消灯時間が近くなり、智がいる部屋は、泊まり込みができる部屋だったらしく、龍は手慣れた手付きで側に簡易ベットを組み立てる。それをぼんやりと見つめていた智は龍の名を呼ぶ。
「ねぇ、龍。お願いがあるんだけど・・・」
「なんだ?」
「明日から一般病棟に移るなら、龍もこうして泊まることは無くなるんだよね?」
「・・・・そうだな」
組み立てたベットにシーツをかけながらぼそっと龍が答える。智は龍の袖に手を伸ばし掴まえる。
「少し狭いけど、久しぶりに一緒に寝ない?」
智の急な提案に龍は固まる。
「明日から1人で寝ないといけないと思うと寂しくて・・・。龍とは部屋は別々だけど、僕に何かあった時は龍がすぐに部屋に来てくれてたのに、明日からはしばらく何かあっても龍は来てくれないし、僕もいけない・・・」
寂しそうに呟く智の声に、龍はベットの柵を降ろし黙って隣に寝そべる。智はふふと笑いながら龍にしがみつくと、龍は智の頭に腕を回し、もう片方の手で智を抱き寄せる。
智は龍の胸に顔を擦り寄せ、ボソボソと話始める。
「龍、僕ね。今まで龍が隣にいるのが当たり前に思ってたから、未来で離れた時、とても寂しかったんだ。僕、こんなだから人付き合いも上手くいかなくてずっと1人だった。いつもどうして僕の隣には誰もいないんだろうって思ってた。それがきっと諦めきれなかった神崎先輩への気持ちをがんじがらめにして執着してたんだと思う」
「・・・・・」
「ねぇ、龍。僕は今、本当に心から龍が好きだよ。だから、ずっと僕のそばにいて。僕の隣は龍じゃなきゃダメなんだ」
智の言葉に龍は返事をするように抱き寄せた腕に力を込める。
「智、1人にして悪かった。俺もずっと智が恋しかった。会いたかった。好きだ・・・好きだ、智。愛してる。もう離れないから・・・ずっと智の隣にいる。ずっとずっと俺は智の隣に居続ける。もう離さない」
「うん、うん・・・龍、大好きだよ。僕も愛してる。僕も離さないから、龍も離さないでね」
「あぁ。神にでも何にでも誓う。お前の隣で、お前を愛し続ける。昔も今も未来も・・・」
龍の言葉に智は頷き、約束だよと呟くと、顔を上げ龍を見つめる。龍も智を見つめ、約束だと呟き、そっとキスをした。
その夜、2人は互いの想いを結び直すように抱きしめあって眠りについた。
今までにない幸せな気持ちが2人を包んだ。
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