第26話 嵐の残骸
パンッと軽い音が龍の太ももを狙い撃つ。龍はうめき声をあげるが、智の前から動かず佇む。
その足からは血が流れ出していた。
「龍!」
智が龍の背後から叫ぶが、龍は手を翳し、前に出るなと告げる。
「痛いでしょ?威力も強いけど、玉も改造してるから肉に刺さるはずだ」
相変わらずニヤケ顔で男は龍を見つめる。すると遠くからサイレンの音がし、男はまた舌打ちをする。
「本当に邪魔ばっかり。まぁ、いいや。君は諦めるよ。ここで仲良く死んで」
男はそう言うと何発か龍に向かって銃を放つ。それは動きを止めるように、逃げるのを拒むように、足に全て向けて打たれた。
龍が膝を落としたの見届けた後、ゆっくりと近づき銃を頭に向ける。引き金に指をかけた瞬間、智は飛びだし男の腕を掴む。
その衝撃で弾は外れ、智の頬をかすめて壁を撃つ。男は苛立って智の腕を振り解こうとするが、智はその腕にしがみつく。
「智!やめろっ!」
龍が声を荒げるが智はしがみついて離さなかった。男は空いた手で智の髪を掴み、引き離そうとする。ぶちぶちと髪が抜ける音がするが、この手を離せばみんなを失う怖さが智を奮い立たせていた。
しばらく揉み合っていたが、髪を掴んでいた男の手が急に離され、智の脇腹に拳となり当たると智はうめき声をあげて手を離す。男はすかさず、智の頭に銃を向け放つが、智を庇うように龍が覆い被さった。
龍のうめき声に智は顔をあげると、苦しそうな顔で智を守る龍の姿が目に入る。
「りゅ・・・りゅう・・・」
声にならない声が智の口から溢れる。その声に龍はまるで大丈夫と囁いているかの様に笑顔で答えた。
「あぁ・・・本当にめんどくさい!」
男は頭を掻きむしり、今度は龍の頭に銃を向ける。智はやめてと懇願するが、その声は届かない。
カチリと音を立てたと同時にバチンッと電気音が鳴り響く。男はガタンと音を立て倒れ込む。間を開けずにまた、バチバチと音が鳴り響く。その音と共に男は体を揺らし、白目を剥いて気絶した。
「2人とも・・・大丈夫か?」
その声に智が顔を向けると吉永が床を這いながら近づいてくる。手元には男が放り投げたスタンガンがあった。智は吉永の名前を呼びながら手を伸ばす、その手を吉永が取ると、今度は荒い息を吐く龍の名を呼ぶ。
「龍・・・龍・・・」
聞こえてい無いのか、龍からの返事はない。龍の背中に手を回すと、背中がべたりと濡れているのに気づく。
「りゅ・・・龍?せ・・先輩・・・龍、龍が返事しない・・・龍の背中・・・なんでこんなに濡れてるの?」
智の言葉に吉永は体を持ち上げ、龍の背中を見ると一気に青ざめる。
「せ、先輩?龍の背中、どうなってます?なんで、黙ってるんですか?龍は大丈夫ですよね?」
黙っている吉永に智の声は震え出す。吉永は龍の肩に手をそっと置くが、龍からは言葉は発せられず、そのまま体がずるずると横に倒れ込む。
倒れ込んだせいで、智の手に触れた濡れた物の正体があらわになる。それはべっとりと付いた龍の血だった。
それを見た智の体が一気に血の気を失い、震え出す。
「りゅ、龍・・・ねぇ、龍・・・起きて・・・ねぇ、龍・・・」
掠れた声で何度も龍の名を呼ぶが、龍からは声が返ってこない。次第に身体中が大きく脈を打ち、智の息が上がる。
後ろからドカドカと数名の足音が聞こえ、部屋に傾れ込む。
吉永はその数人に向けて声を上げる。
「救急車を呼んでください!早く!」
その声に周りが更に騒がしくなる。智は苦しくなる胸を抑えながら、片手で龍の手を握る。息も途絶え途絶えで、龍の名を呼ぶが声にならない。
騒がしい中、龍の体が智から引き剥がされる。智は首を振りながら、離れようとする龍の手を必死に掴もうとする。
吉永が何かを智に向かって叫んでいるが、智には聞こえない。ただ、目の前にいる龍がどこかに行ってしまうという悲しい現実が、智の息をさらに途絶えさせる。
もうかすりもしない指先を見ながら、龍の姿が消えるのを見ながら、智は暗闇の中へ引きづり込まれた。
「智・・・好きだよ、智」
暗闇の中、龍の声が聞こえる。あぁ・・・龍は無事だったんだね。
「智くん・・・」
「智・・・」
「智、諦めるな・・・」
変わるがわる神崎達の声が聞こえる。良かった・・・みんな無事なんだね。
良かった・・・
あぁ・・・でも、僕、疲れたみたいだ・・・・
龍・・・また泣かせちゃうかな・・・ごめんね・・・でも、僕、幸せだったよ・・・僕も龍が大好きだ・・・あぁ・・・安心したら、ねむくなったきた・・僕、このまま寝てもいいかな・・・すごく眠いんだ・・・
暗闇の中、宙に浮いた智の体がゆらゆらと動く。まるで、ゆりかごに乗っているような感覚が智を包む。
その穏やかさに智は静かに眠りについた・・・
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