第24話 嵐の中で
「龍!」
「桐崎!」
龍の姿を見つけて神崎と吉永が血相を抱えて駆け寄る。
「智がいなくなったってどういう事だ?」
神崎が息を切らしながら問うも、龍は体を震わせ固まま、智の鞄を抱きしめていた。
「桐崎!しっかりしろっ!」
吉永がためらう事なく龍の頬を打つ。その痛みに龍は我に返り、吉永を見つめる。
「さ・・・智が・・・」
「頼む、龍!しっかりしてくれっ!」
神崎が龍の肩を掴み揺さぶると、龍は震えた声で口を開く。
「2限の講義が別だから、終わったら迎えに行くと別れたのに、智が教室にいなくて、辺りを探してたらトイレの入り口に鞄が落ちてた・・・」
智の鞄を神崎達に差し出しながら龍は答える。そして吉永の腕に掴み掛かると苦しそうな表情を浮かべて訴える。
「先輩・・・助けてください。俺、また智を失いたくない。もうあんな想いはしたくない。お願いだ・・・智を助けてくれ」
涙を流しながら必死に訴える龍に、2人は言葉を詰まらせるが、吉永は龍の肩に優しく手を置き声をかける。
「桐崎・・・しっかりするんだ。助けるためには、お前の力も必要だ。落ち着いて思い出せ。俺が提案した対策はどこまで出来ている?」
吉永の言葉に龍は涙を拭いながら一つ一つ思い出す。
「部屋は全部取り付けました。それから、ペンも朝確認したので、智も持っているはずです。携帯は・・・電源が入っていません」
「それだけか?」
神崎の声かけに龍はしばらく俯いたまま考え込んでいたが、ふっと思い出したかのように顔を上げる。
「靴・・・」
「靴?」
龍の発した言葉に2人が眉を顰める。龍は慌てて携帯を取り出すと何かを操作し始める。
「カバンに発信機をつけた時に、俺、まだ安心できなくて智の靴にも発信機を付けたんです。それに気づかれてなければ・・・・あった・・・」
携帯を見つめて呟く龍の携帯を2人も覗き確認する。発信機はここからそう遠くないマンションで止まったまま点滅している。
「警察に連絡する。神崎、お前は念の為、葵の所に行け。この場所は俺達の家からも近い」
「でも・・・」
「いいから、行け!お前は葵を守るんだ。智が言うように変えるんだ。何も失わず、諦めない未来を・・・」
「何を言っているんだ?」
吉永の言葉が理解できないという表情を浮かべ、神崎は2人を見つめる。吉永が警察に電話をかけている間、神崎と龍の間に沈黙が流れるが、龍は神崎に向かって言葉を放つ。
「神崎先輩、葵さんの事を必ず守ってください。智の一番の願いでもあるんです。俺が必ず智を助けます。俺も未来を変える。諦めない・・・」
龍の言葉に神崎は更に眉を顰める。その様子を見ていた吉永は、電話を切り、神崎の肩を叩く。
「いいから、早くいけ!時間がないかも知れないんだ!いいか?俺にとって葵は大事な友達で家族だ。必ず守れ」
吉永に促され、神崎は力強く頷く。
「よくわからないが、葵は必ず守る。だから、2人も必ず智を見つけて、三人で無事に帰ってこい」
そういい残すと、神崎は葵に電話して家を出るなと伝え走り出す。残された2人は携帯に記された場所へと走り出した。
智・・・頑張ってくれ・・・必ず助けに行く・・・もう少しだけ頑張ってくれ・・
走り出した龍の心の中は智への想いで溢れ出す。
やっと気持ちを伝えたのに、これからもずっと側にいると誓ったのに、失いたくない・・・何の為に、誰が俺たちを戻したのか知らないが、俺たちを助けてくれ・・・俺たちにも未来をくれ・・・智と生きたい・・・
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