第22話 渦巻き始めた嵐

大事をとって一日休んだ智だったが、心配しているだろう先輩達やバイト先にこれ以上迷惑はかけれないと、龍を説得して大学へと向かう。

その間も龍は智の手をしっかりと握り、側に寄り添うように、智を守るように隣を歩く。

智は少し照れながらも、龍の気遣いに気持ちが穏やかになるのを感じていた。怖いと思う気持ちより、龍が側にいるという嬉しさの方が勝っていた。

大学に着くと龍から連絡が入ったのか、吉永と神崎が出迎えてくれた。心配そうに智を覗き込む神崎に相変わらず敵対心を向ける龍。

それに対して神崎は呆れた顔をする。

「あのなぁ。俺にとっても智は大事な後輩なんだ。心配くらいさせてくれよ」

「心配してくれるのはありがたいです。ですが、神崎先輩はいちいち距離が近いんです。それが迷惑だと言っているんです」

「近いか?普通だと思うけど?」

「普通じゃ無いです。そんなんだと葵さんが可哀想です」

「なっ・・・」

龍の口から葵の名前が出た事に神崎は顔を赤らめ、言葉を詰まらせる。

「俺もバレバレですが、神崎先輩もバレバレです。先輩の距離感バグを治さないと、勘違いする人も出てくるし、葵さんが傷つきます。俺は智にはそんな思いはさせません」

龍の言葉に今度は智が顔を赤らめる。

「誰にでも優しいのはいい事でしょうけど、優先順位があります。俺は智が一番だから、他の人には優しくしません」

「何だよ・・・俺にも優しくしろよ・・」

「いやです。先輩はライバルでもあるので、一番優しくしたくありません」

「お前・・・」

「そこまでだ。全く・・・葵はここにいないからいいものを、見ろ。智が居た堪れない顔をしてるだろが・・・あぁ、そうだ。智、講義終わった後に少し時間取れるか?」

龍達の言い合いに呆れた顔で間に入った吉永は、智に顔を向けた。智は間に入ってくれた吉永に安堵しながら、大丈夫ですと頷く。

「じゃあ、15時に大学前カフェに集合しよう。今後の相談だ」

吉永の言葉に三人は頷き、また後で・・といい別れた。


カフェで集まった後、今後の対策について一時間ほど話し合い、帰宅が遅くなると葵が勘づくから帰ると告げ、先輩たちは帰っていった。

智と龍は一旦帰り、家からあの封筒を持ち出すと、その足で警察へと向かう。

対策の一つとして、この写真を警察に提出する為だ。

先日の暴行の被害届も出してあったおかげか、警察の対応もスムーズに行われた。

葵の所には接近禁止命令が出ているが、付近を巡回している警官に強化するように連絡が行き、智達の自宅付近も巡回の対象になった。

実際、暴行された事もあり、これ以上の付き纏いがあった場合は智にも接近禁止命令が出せると警察から言われ、出来るだけ証拠を集めるように促された。

家に帰ってからは、吉永に渡された盗聴器を見つける機械を鞄から取り出し、部屋を歩き回る。

セキュリティーがしっかりしている吉永達の家と違って、智達は普通のアパート住まいだったからだ。以前、葵が家を出て1人暮らししている時は、普通のアパートだったのでいつの間にか盗聴器を付けられていた事があったらしく、その時使った機械だと言われた。

一通り部屋を確認して付けられていない事に安堵すると、今度は玄関に小型のカメラを設置する。これも葵の自宅で使っていたものだ。

それから、以前証拠集めに使っていて便利だからと録音機能が付いたペンを、吉永から2人分貰っていたので、智達はそれをチェックする。

携帯で写真や録音ができればいいが、咄嗟に取り出す事もできないだろうし、取られたり壊されると意味がないという吉永の判断だった。

他にも互いに位置情報のアプリを共有したりと、いろいろ対策を練った。

吉永のスムーズなやり取りが、あの男が今まで葵にどんな事をしてきたのか物語っているように思えて、智は顔を曇らせる。

そして、その恐怖に怯えながら、家族に見放され1人で耐えていた葵の気持ちを考えると心が痛んだ。

葵のそばに吉永がいてくれた事に、智は心から感謝する。そして、今は神崎もそばにいる。智は自分や龍もいる事で、葵の支えになりたいと願った。

そんなに時間はかからないだろう、これから巻き上がる嵐に智は心を決め、強い決意をした。

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