第21話 未来を変える
話し終えた後もずっと黙ったままの吉永がやっと口を開く。
「にわかに信じられん話だが・・・もし、そうだとして、お前が言う変えようとしたと言う言葉と、わかったという言葉の意味はなんだ」
「俺も何がわかったのか知りたい」
吉永の問いに龍も言葉を添える。智は戸惑いながらも2人に自分だけが知ってる真実を話し始めた。
「僕は2人の葬儀から帰宅しながら、2人が自殺した事が信じられないでいたんです。警察の見解も車が大破した事で詳しく調べられなくて、ただブレーキ痕が無いというだけで判断した。でも、ここに戻ってからストーカーの話を聞いて、あいつに初めて会った時に確信したんです。自殺でも事故でもないと。それに、ある場面を見たんです」
智の脳裏にあの場面が浮かび、目頭が熱くなる。涙が出そうなのを堪えながら智はまた話始める。
「あいつが何かしたんです。頭から血を流す神崎先輩、泣きじゃくる葵さん、2人が車に乗ってしばらくすると車が急にスピードを上げて、そのまま・・・そのまま崖に落ちていく・・・その場面が見えたんです。2人は絶対に自殺じゃない。だから、僕、未来を変えようと思って・・・想い合う2人も、2人を思う吉永先輩の為にも変えようと思って・・・離れてしまった龍とはまた縁ができた。それなら、未来も変えれると思ったんです」
最後まで話し終える頃には智の頬に涙が伝う。
「僕はみんなが大好きです。大学時代が僕にとって一番の楽しかった思い出なんです。龍が相変わらず側にいてくれて、神崎先輩と吉永先輩がいて、葵さんの事は最初は誤解してたけど、今は大好きなんです」
「智・・・・」
龍がそっと智の頭を撫で、涙を拭う。智は鼻を啜りながら、話をつなぐ。
「あいつはターゲットを僕に変えた。それか、僕が被害届を出した事で拘置期間が伸びた。それを根に持っているのかも知れない。どちらにせよ、今の狙いは僕です。だから、今日の事は葵さんには知らせないで下さい」
「・・・お前、また1人で何かする気か?」
龍の問いに智は首を振る。
「僕1人じゃ何もできない。だから、2人に話したんだ。三人でなら何か方法が見つかるかも知れない。未来を防ぐ為にも、今、何かしないと・・・」
「話はわかった・・・葵には黙っておく。だが、神崎には話す。未来の事は言わないが、あいつがまた現れた事は伝えないといけない」
「先輩・・・」
「龍、お前は三嶋からできるだけ離れずにいろ。これからの対処は、また後日、三嶋の体調が良くなり次第話そう」
吉永は席を立ちながら、龍に言葉をかけると龍は力強く頷く。それから、葵をバイトに送っている神崎と会うと告げる。
「葵には三嶋は熱が出て、病院に行ってるからバイトを休ませてくれと言っておく。俺とはたまたま会ったことにしといてくれ」
それだけ2人に伝えると吉永は治療室から出ていく。吉永が去ってから龍は智の手を取り、その手にキスをするとそっと額にあてる。
「智、頼むから無茶はしないでくれ。俺にまた、あの苦しみを味合わせないでくれ・・・」
龍のあの苦しみという言葉に智は胸が締め付けられる。智が死んだあの時の事を言っているのだと察していたからだ。
智は龍の頭を優しく撫でる。
「僕は諦めない。みんなの笑顔も、龍との未来も」
「あぁ・・・絶対に諦めるな。俺も諦めない。この手を離さない・・・」
智の手を愛おしそうに頬に当てる。その姿を見ながら、気付き始めた龍への想いに智は自然と笑みが出る。
「龍、全部終わったら僕の話を聞いてくれる?」
「あぁ。いつでも聞いてやるから、まずは早く良くなれ。良くなって俺達の家に帰ろう」
「うん・・・僕も帰りたい」
智は腕に繋がれた点滴を見ながら、ポタポタと落ちる水滴が時間のように感じた。近づく嵐がこうして静かに音を立てて迫っているかのように・・・
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