第20話 嵐の訪れ
「智!」
龍の呼びかけに智はゆっくりと目を開ける。目の前には涙を流し智を見つめる龍の姿があった。
「良かった・・・良かった・・・」
智の手を取り、その手をおでこに当てながら龍は何度も言葉を繰り返す。
「龍・・・ここは・・・?」
「病院だ。エントランスでお前が倒れているのを見つけた人が救急車を呼んでくれたんだ。それで、学生証から大学に連絡が入って、連絡先に実家と同居人の俺の連絡先が記載されていたから、俺にも連絡が来たんだ」
「ごめんね、心配かけて・・・それで、救急車を呼んでくれた人って・・・」
「それが、わからないんだ。救急車がついた時にはその人はいなかったと・・」
龍の言葉に、また智の鼓動は早くなる。
あいつだ・・・あいつが連絡したんだ。何の為に・・・?今日は何もしないって、これから何かする気か・・・?
胸を抑え、呼吸を荒げる智の姿に龍が立ち上がり医者を呼ぶ。すぐに数人の人が駆け寄ってくるが智は龍の名を呼び続ける。
「龍・・・龍・・・お願い、ここにいて。僕のそばにいて・・・」
差し伸べる手を龍は掴み、大丈夫だと何度も声をかける。その声に安堵して智はまた気を失った。
ボソボソと聞こえる話し声に智は目を覚ますと、そこには龍の他に吉永が立っていた。
「智!気が付いたか?どこか、どこか痛むところはないか?」
慌てて側に寄る龍に大丈夫と告げると、龍は安堵のため息を溢す。
「吉永先輩まで・・・心配かけてすみません」
力なく謝る智に吉永は眉を顰め、ベットのそばに椅子を置き腰を下ろす。
「三嶋、これはいつからだ?」
吉永は目の前にあの封筒を翳す。それを見た智は言葉を詰まらせる。
「智、正直に話してくれ」
龍の言葉に智は一瞬躊躇うが、ゆっくりと重い口を開く。
「今日・・・今日ポストに入ってました。でも、ここ最近ずっと誰かに見られてるような違和感がありました・・・」
「何だと!?どうして何も言わなかった?」
声を荒げる龍に吉永がやめろと促す。
「気のせいだと思ったんです。不安から来るものだと・・・でも、今日これが届いて、それから・・・・」
「・・・・会ったのか?」
吉永の低い声に智は小さく頷くと、龍が苛立ちの混ざった深いため息をつく。
「倒れ込んだ時にあいつが現れて・・・救急車を呼んだのも、多分、あいつです」
「どう言うことだ?」
さらに眉を顰める吉永に智は男に言われた事を伝えると、龍が怒りを露わにする。
「なんで、なんでお前が!?」
「龍・・・僕が変えようとしたから・・・それに、わかってたんだ。あいつがまた来る事は・・・僕、全部わかったんだ」
智の言葉に龍は言葉を詰まらせるが、吉永は何の事だと2人に詰め寄る。龍と智は顔を見合わせ、しばらくすると龍は頷く。それを見た智は、吉永に顔を向ける。
「先輩、これから話す事をどうか信じてください。今から話す事は、神崎先輩と葵さんを助ける手立てとなります」
「神崎と葵を?」
智の意味ありげな前置きに、さらに眉を顰める。
それから智は未来の話を始める。智は死んだ事で過去に戻った事、龍も何故か過去に戻ってきた事を告げた。そして、そう遠くない未来で神崎と葵が死ぬ事も告げた。
吉永は黙ったまま、2人の話に耳を傾け続けた。
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