第19話 昔とは違う関係

最近の龍は本当に吹っ切れたのか、自分の気持ちをストレートに表現をしてくる。

歩く時は手を繋ぎたがるし、家に帰れば常に隣にいたがる。極め付けは、事あるごとに好きだと伝えてくるのだ。

急変した龍の姿に、智は戸惑いを隠せなかった。今まで龍に彼女がいた事もあったが、こんなに愛情表現する人ではなかった。

未来でできた彼女とも、遠目から2人が歩いている所を見かけた事があるが、こんなにベタベタはしていなかった。

その事を龍に尋ねるが、龍はサラッと恥ずかしい言葉を返し、智を余計に困らせた。

「今までこんなに好きになった相手がいなかったからだ。未来で作った彼女はお前を忘れる為に付き合っただけだし・・・そう考えると彼女達には悪い事をしたな。でも、きっと昔からお前の事が好きだったんだ。そう思うと全部納得する。言っただろ?いつからかわからないくらい好きなんだ。こんな気持ち、昨日今日でできるものじゃない。きっとずっとお前に対する気持ちが蓄積されてきたんだ」

「そ、そっか・・・」

「今まで友達で来たから戸惑うのはわかる。でも、幼馴染で親友で、そこに恋人が入れば俺達の関係は最高だと思わないか?昔とは違う関係になるが、俺はそれを望んでる」

優しく微笑む龍に智は胸が締め付けられる感覚に襲われる。そして、それを少なからず智も望んでいる気持ちがある事に心が暖かくなるのを感じた。


一ヶ月後、何事もなく毎日が過ぎていた。

葵の顔にも笑顔が戻り、サークルの集まりにも顔を出せるようになっていた。

だが、智はここ最近、違和感を感じる様になっていた。

誰かに見られている感覚だ。龍といる時には感じないが、1人でいると決まって視線を感じる。

辺りを見回しても当然誰かいるわけでもなく、智は自分の不安から来るものかも知れないと龍には黙っていた・・・。

そして、龍がレポートの為に大学に残った日、少し体調が悪かった智は1人で自宅へ戻った。終わるのを医務室で待つように言われていたが、家の方が落ち着くからと大学を後にした。

帰宅途中、またあの違和感に囚われ、自然と足が速くなる。

無事にアパートまで辿り着き、安堵のため息を吐きながらポストを開けると、宛名が書かれていない封筒が目に入る。

それを開けた瞬間、違和感が確信へと変わる。

封筒の中には数枚の写真。

どれも葵や龍、神崎と吉永も映っており、その中にいるはずの智の顔が黒く塗り潰されていた。

あいつだ・・・やっぱり、まだ諦めていない・・・

智の鼓動が激しく鳴る。この先に待つ未来が智の頭の中に思い描かれる。

「ヒュッ・・・」

息苦しさから自分の吐く呼吸が変な音を立てる。目の前が歪み、倒れ込む感覚がする。智は自分のバックに封筒を押し込み、壁つたいに歩き始める。

どうしたらいい?どうしたら・・・

答えの出ない問いかけが駆け巡る。立って居られないほどの強い目眩に、智はその場に座り込む。すると後ろから足音が聞こえ、声をかけられる。

ボヤける視界に入ってきた姿に、智は息を呑む。あの男だ・・・・そう思った瞬間、体が震え始める。

「今日は何もしないよ。まだね」

そう言って不適な笑みを溢す男に、ダメだとわかってても意識が遠のく。

龍・・・龍・・・心の中で届きもしない龍の名前を何度も呼ぶ。

目の前が次第に暗くなり、智は気を失った・・・・

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