第18話 変わっていく関係
一週間後、少し元気を取り戻した葵がバイトにやってきた。智は満面の笑みを浮かべ葵をだきしめる。
「智くん、ごめん・・・本当にごめん」
項垂れた葵が小さな声で謝る。智は体を離し、首を振る。
「葵さんは何も悪くない。葵さんを苦しめる奴が悪いんです。葵さん、僕、葵さんの笑った顔が好きです。だから、笑って欲しいです」
智の言葉に葵は顔をあげ、にこりと笑ってみせる。智も笑顔で返し、仕事しましょうと葵の手を引いた。
バイトが終わると神崎と龍が裏口に立っていた。神崎は智に少し話があると告げ、2人とは少し離れた所に連れて行く。
「吉永から聞いた。お前、何か危ない事を考えてないよな?」
「はい。ただ僕の出来る事で葵さんを幸せにしたいんです」
「そうか・・・もうしばらくお前の提案通り、恋人役をする事になった。でも、俺は葵が好きだとちゃんと確信した。だから、俺は俺であいつの側で守る。お前には言っておこうと思って・・・」
「・・・わぁ・・・僕、2回も振られてるんですか?」
「あ・・いや、そんなつもりじゃなくて・・・」
慌てる神崎に、智は少し悲しい表情をわざと浮かべて落ち込むふりをする。すると、龍がすかさず側に来て神崎を睨む。葵も後ろから慌てて付いてくる。
「おっと・・・違う・・いや、違わない?いや、違う」
気まずそうにする神崎を見て智は声を出して笑う。
「龍、大丈夫だよ。帰ろうか」
智にそう言われ、龍は頷き、智の手を握る。
「・・・なんだ?お前たち・・・」
「違います。まだ、俺が口説き中です。俺、自分の気持ちに目を逸らさないと決めたんで・・・」
龍の真っ直ぐな言葉に2人は黙り込むが、智だけは顔を赤らめ俯く。龍は2人に軽くお辞儀をすると、智に行こうと声をかけ、手を引き歩き始めた。
「俺も見習うか・・・」
葵と肩を並べ歩く神崎がポツリと呟く。葵は何の事?と尋ねるが、神崎は葵を見つめ、そっと葵の手を取る。それから、前を向いて葵の手を引き歩く。
「なぁ、お前が寝込んでる時に俺が言った事、覚えてるか?」
「なんの話?」
「俺が必ず守ると、お前の心ごと守るといった事だ」
「・・・・・」
「俺、今まで好き勝手やってきてさ、誰とも真面目に付き合った事もない。付き合う事じたいが面倒だと思ってたんだ。正直、惚れた晴れたとかわかんなかったし・・・」
神崎は言葉を止めると同時に足も止め、葵をまっすぐ見つめる。葵もいつもになく真剣な眼差しに捉えわれ目が離せない。
「お前を初めて見た時、すっげぇ綺麗だと思った。それからずっとお前が気になった。男ととか今まで考えた事もなかったから、この気持ちが何なのか分からなかった。でも、お前が弱って泣いてる姿見て、守りたいと、愛おしいと心底思ったんだ。今のお前にこんな事言うのは酷かも知れねぇけど、俺も気持ちに目を逸らすのはやめる。俺、お前が好きだ」
「・・・・・」
「好きとか言われると、やっぱり怖いか?」
「・・・そんな事は・・・」
葵は目を伏せ答えるが、神崎は屈んで葵の顔を覗き込む。葵は戸惑いが隠せなくて俯いたままだ。それを察した神崎は、葵を覗き込んだまま、また優しく問う。
「じゃあ、俺の事は嫌いか?」
「・・・・・」
「じゃあ、俺の事信用してるか?」
「・・・してる。いつもふざけてばかりだけど、ちゃんと僕の事を考えてくれてるのはわかってる」
葵の答えに、神崎は微笑む。それから、そっと葵を抱き寄せる。
「今はそれでいい。俺の事も、俺の気持ちも信じてくれ。俺はお前を傷つけない。お前を丸ごと大事にしたいんだ。葵、好きだ」
神崎の想いに葵は何も答えられずにただただ立ち尽くした。神崎は体を離し、葵の手を取り歩き始める。
「無理強いはしない。今は俺の気持ちを知っててくれればいい。それで、お前の気持ちに余裕ができたら、俺のこと、考えてくれないか?」
「・・・わかった」
小さな声で答える葵に、緊張したと笑って戯ける。そんな神崎を見て、葵にも笑みが溢れた。
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