第17話 想い

龍が落ち着くのを待ってから、智は龍にどこまで知っているのか尋ねた。

「神崎先輩達の死の原因はわからない。でも、お前の・・・お前のそれが終わってから、母さんが手紙をくれたんだ」

龍の話を聞いて、そう言えばと思い出す。

「母さんに、喧嘩をしていたのか尋ねられたけど、違うって言ったら毎年、俺宛に手紙と年賀状が届いてたって聞いて・・・俺に伝えようにも電話もすぐ切るし、帰ってこなかったから伝えられなかったって・・。俺、地元帰ったらお前に会うかも知れないと思って、一度も帰ってなかったんだ」

「一度も!?大学卒業してから一度も帰ってないの?」

「あぁ・・卒業前からだから4年くらい帰ってなかった」

「わぁ・・・なんかおばさんに悪い事したなぁ。僕のせいで寂しい思いさせちゃた・・・」

項垂れる智の頭を撫でながら、俺が勝手にやった事だと呟く。

「それで、手紙を全部読んでわかったんだ。最後に届いた手紙に、お前、神崎先輩の事、書いてあっただろ?」

「そうだ・・・その時、神崎先輩から葵さんと大学時代から付き合ってると聞かされたんだ。それで、なんか辛くなって龍に会いたくて手紙書いたんだ。でも、ずっと返事なくても諦めずに書き続けてきたのに、あの後も返事なくて、僕、諦めたんだ。迷惑かも知れないって・・・」

「そうだったのか・・・。俺はあの手紙でお前が先輩の事を好きなんだとわかった。それもだいぶ前から・・・それでも、お前が先輩の隣を離れないから、俺、また諦めようって思って・・・本当にすまなかった。俺、自分がこんなに女々しいと思わなかった。でも、それだけ好きだったんだ。智がもう何も失いたくないと言ったように俺も失いたくない。お前が何か危険な事を考えているのもわかる。2人が幸せになって欲しいという気持ちもわかる。だが、俺はもう二度とお前を失いたくない。過去に戻った理由があるなら、俺はお前に気持ちを伝えるべきだと思ったんだ」

「・・・・僕は過去に戻ったのは、先輩達を助ける為だと思ってる。それから、龍との関係をもう一度繋ぐ為だとも・・・龍、なるべく危険な事はしない。それは約束する」

龍の目を真っ直ぐに見つめ約束をするも、龍は不安な表情を浮かべるだけだった。智は少し明るい声で、もう一つ気になっている事を尋ねた。

「ねぇ、龍。龍は僕が戻ってきた事を知ってたの?」

「最初はわからなかった。俺は大学の入学式の日に戻ったんだ。でも、お前は昔のまんまだった。ただ、お前の様子が少し変だった日があっただろ?あの日に少し違和感を感じてんだ。その後も気になる話し方してたし・・・確信を持ったのは、先輩に振られた日だ。お前がずっと好きだったと、これで前に進めるといった時にわかったんだ」

「そっか・・・僕も少し龍に違和感感じてたけど、自分の事でいっぱいいっぱいだったから・・・そうか、僕、こういう所がダメなんだね・・・」

ごめんと小さく呟くと、龍はまた智を抱きしめる。智は顔を赤らめながらどうしたのかと尋ねると、耳元でポツリポツリと話し始める。

「なぁ、智。俺、もういい親友のふりしなくていいんだよな?お前を好きな気持ち、隠さなくていいんだよな?」

懇願するような話し方に智は小さく頷く。龍はぎゅっと更に抱きしめるが、智が苦しくないように、壊れ物を扱うかのように優しく包んだ。

「俺、もう逃げない。智が嫌って言っても離れない。ずっとずっと側にいる。たとえお前が俺を好きにならなくても、俺の気持ちは変わらない。昔も今も未来も、お前だけを好きだったんだ。過去に戻れて良かった。お前にまた会えて、こうして触れ合えて、好きだと言えて、本当に良かった・・・」

愛おしそうに囁く龍の気持ちが痛いほどわかった。智も同じように苦しい恋を長年してきたからだ。互いに解けてしまった糸がまた絡み合う感覚に襲われる。

それは怖いとか苦しいとかではなく、暖かくて優しくて心地良い物だった。

この手を、この温もりを離したくない。同じ気持ちになれるかわからないけど、龍がそばにいると言ってくれた言葉が、こんなにも僕を安心させてくれる。僕に力をくれる。何も失わせない。僕も龍も先輩達も・・・・

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