第15話 真実

4日後、吉永が智達の部屋を訪れた。

葵は智に怪我をさせた事でかなり落ち込んでいるらしく、まだ部屋から出て来ないと告げた。神崎も心配して、ずっと泊まり込んでいて、今日は葵の事を頼んできたとの事。しばらく沈黙が続いた後、吉永が重い口を開く。

「俺と葵はちょっとした裕福な家庭で、俺の所はビルを何個か持ってて、事業をしている。葵の所は親父さんが医院長をしてる医師一家だ。俺と葵は三男で、特に期待もされず、ほぼ放ったらかしで育てられた。それでも、家族の一員として家業の手伝いや、跡目として色々厳しく言われてきたんだ。矛盾してるよな?期待もせずにほっとく癖に世間体とか家業とか・・・」

吉永は苦笑いしながら話す。葵とは境遇が似てるからか昔から仲が良かったらしい。それから葵の高校時代の話になった。

「葵が18の時にある男から言い寄られるようになった。あの容姿だから、昔から男女問わずにモテていたんだが、それを知った葵の親父さんが、事もあろうにその男を咎めず、葵を責め立てた。男が言い寄っている時点で、葵もゲイでは無いかってね。それに酷く傷ついた葵は高校を卒業して家を出た。元々期待してなかった上に、男に言い寄られている葵を家族も疎ましく思っていたんだろう。家を出る事に誰も反対しなかった」

吉永はテーブルに置かれたコーヒーを手に取り、一口飲むとまた話を続けた。

「家を出た・・・それがいけなかった。その男がさらに付き纏うようになった。ストーカーになったんだ。それも、タチの悪い。そいつも少し頭が切れるのか、確信が持てる程の証拠を残さなかったんだ。送られる手紙にも指紋一つなく、夜な夜な鳴らされるインターホンにもない。かかってくる電話はいつも公衆電話だ。だから、警察に届けてもそいつがやっているという証拠がなかった。葵は次第に病んでいった。それを見かねた俺が、一緒に住む事を申し出てセキュリティーのあるマンションに引っ越したんだ。それからはしばらくそいつも現れなくて、葵も元気を取り戻してんだが、俺がトラブルだと言ったあの日、家がばれたんだ」

話している吉永の顔が険しくなる。智と龍は黙ったまま耳を傾ける。

「引越しを考えたんだが、神崎が逃げ回る必要はない。自分がしばらく迎えに行って恋人のふりをするから証拠を掴もうと言い出して、葵は反対したんだが、俺もその方がいいと思って賛成した矢先にコレだ。だが、神崎が写真を撮ってくれたおかげで、葵の傷も写真撮って改めて被害届を出した。これでしばらくは留置所だし、接近禁命令も出た。だから、安心してくれ」

吉永の言葉に智は眉を顰める。

違う・・・あいつは諦めない。だから、あの事が起こったんだ。あいつは必ずまた来る・・・確実に差し迫る未来に智は青ざめる。

「智・・・大丈夫か?」

不意に龍に呼ばれ顔を上げる。しばらく龍を見つめていたが、智は口を開く。

「龍、念の為にって僕の顔の怪我も撮ったよね?まだ、残ってる?」

「あ・・あぁ。それがどうした?」

龍の答えに智は頷き、吉永へと顔を向ける。

「僕も被害届出します。それで、少しでもあの男が凶暴だと知らしめるんです」

「いや、しかし・・・」

「多分・・・まだ終わりじゃ無いです。終わらせるにはこれだけじゃ足りない」

「智、何を考えてるんだ?」

「吉永先輩、もう少し時間を稼ぐ為にも僕も被害届出します。その間に、可能であれば弁護士さんにも相談してもらってください」

「智・・・」

急な話に龍も吉永も言葉を詰まらせる。それでも智は口を開き、言葉を続ける。

「それから神崎先輩には、このまま恋人役をしてもらいましょう。大丈夫、神崎先輩なら、葵さんの傷も癒してあげれるし、守ってくれます」

「何を根拠に・・・」

吉永が呆気に取られながら問うが、智の真剣な顔に頷く。

「そうだな。念には念を・・・ありがとう、智」

「僕は葵さんも吉永先輩も、神崎先輩も大好きです。だから、幸せになって欲しいんです。見えてる幸せを奪われたくないんです。もちろん、龍の事も。僕はもう何も失いたくない」

「智・・・」

「智、お前、大丈夫か?」

心配そうに声をかける吉永に笑って大丈夫と答える。そしてゆっくりと口を開く。

「大丈夫。僕がいます」

智の決意した表情に2人は不安を覚えるが、吉永の携帯が鳴り、神崎から食べ物を買ってきて欲しいと頼まれると、後ろ髪を引かれる様に帰宅していった。

残された智と龍は黙ったまま互いを見つめ合った。

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