第14話 近づく真実
帰宅して龍に手当てをされた智は、そのまま熱を出した。まる二日も高熱で寝込んだ。
その間、夢を見る。神崎達の葬儀に出たあの日だ。
車は崖の下から見つかった。2人は車の中で手を繋いだまま見つかった。
『ブレーキ痕がなかった』、それだけで自殺だと判定させた。車が大破して詳しく調べられなかったのも原因だった。
葬儀に参列している間、いろんな噂が飛び交う。吉永とも会ったが、あの時は悲しさで顔も合わせていない。
想いも伝えられず、突然現れた葵に神崎を取られ、妬みながらも神崎のそばにいたくて、いい後輩で居続けた。何もかもが虚しかった。
2人の葬儀は隣同士の部屋で行われた。神崎の顔だけを見るつもりだったが、最後の時まで一緒だった葵の顔が気になり、顔を見に行った。
そこで、また虚しさが込み上げてきた。神崎の顔も葵の顔も穏やかだったからだ。死を目前にして、2人が穏やかな顔でそれを受け入れた事実が智を深い悲しみに落とした。
雨に打たれ佇む智の目の前が暗くなり、地面がぐにゃりと歪む。立っていられなくなってその場にしゃがみ込むと、今度は目の前が明るく照らされる。
過去に戻ってからの景色が繰り広げられる。葵と智、智と神崎、神崎と葵、どれも笑い合ってる映像だった。
涙が次から次へと零れ落ちる。そして、場面はまた変わり、車に乗ってる神崎と葵が映し出される。
頭から血を流す神崎、泣きながら神崎を見つめる葵、2人で何かを話しながら手を握り、神崎が葵の手にキスをする。
それから車を走らせる。智はその映像を見ながら首を振る。
「ダメだ・・・乗っちゃダメだ・・・」
そう呟いた瞬間、車が急にスピードを上げ崖へと目掛けて行く。スローモーションの様に崖を落ちていく車を見つめ、智は泣き叫ぶ。そしてまた暗闇へと変わる。
「・・トシ・・・智!」
龍の呼びかけに目が覚める。目の前には悲しそうな表情で龍が智を見つめていた。
「智、大丈夫か?」
「り・・ヒュウ・・・」
声が掠れて龍の名前を呼べない。龍は近くにあった水を取り、ストローを智の口元に運ぶ。智はそれを力なく咥えるとゴクンッと音を立て飲み込む。
「熱が高かったんだ。今日、下がらなかったら病院に行こうと思ってた・・・良かった・・・目を覚ましてくれて・・・怖い夢でも見たのか?」
龍は智に手を伸ばし、頬に伝う涙を拭ってやる。その温もりと龍が側にいてくれくれてる事に安堵して、また涙が溢れる。
「ヒュウ・・・」
「まだ、喋るんじゃない」
智の頭を撫でながら龍は智を宥める。智は小さく頷き、布団から手を出す。龍は何も言わずにその手を握りしめる。
僕はもう何も失いたくない。葵さんも神崎先輩も、龍のこの手も・・・
僕しかこの先起こる事を知る人はいないんだ。僕が、僕が変えなくちゃ・・・
強く握り返したいのに、力が入らない。それでも龍は察したかの様に、更に強く握りしめる。
「智、今は何も考えずに寝ろ。俺が側にいてやるから」
「・・・すっと?」
「あぁ。ずっとだ」
「ありはと・・・」
自分でも聞き取りにくい声だと言うのに、龍は一言も漏らさずに聞き取り、答えてくれる。昔から龍はいつも智の言葉全てに耳を傾け、答えてくれた。時々怒ったり、心配したり、それでもいつも笑ってくれてる方が多かったのかも知れない。
それが当たり前になって、龍が何を思い、何に傷つき、智から離れたのか知ろうともしなかった自分に腹が立った。
そして、その当たり前に思えた物がどれだけ自分の支えとなっていたか、改めて知らされる。
「ヒュウ・・・おめんね・・・ご、ごめんね」
何とか絞り出した声で謝ると、龍は少し悲しそうな顔をする。
「なんでお前が謝るんだ。俺が悪いのに・・・」
「ヒュウはあるくない・・・ほくかわるひ・・・ほめんね。すっと、すっとほくのそはに・・・すっと、ともたちていて・・・」
「違うんだ。俺が、俺が悪い。ずっと居るから、約束する」
その言葉に安堵して智はまた眠りについた。龍は智の頭を撫でながらポツリと呟く。
「俺も後悔しない方を選ぶから・・・」
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