第11話 気持ちの行方
「神崎先輩、私と付き合ってください」
通りかかった教室から声が聞こえた。智は慌ててドアに隠れる。キャンプが終わってから何日か経った頃、智は龍と大学に来ていた。龍が教授に用があると言っていたので、先に図書館へ行ってると告げ、校舎前で別れた。
1人になった智は、校舎に入り空き教室を通り抜け、奥にある図書館へ向かっていた際に、偶然声を耳にする。
「あぁー・・・ごめんね。俺、誰とも付き合う気ないんだ」
「先輩が特定の人と付き合わないのは知ってます。だから、割り切った関係でもいいです。私と付き合ってください」
少し涙混じりの声で告白している女性の声に、智は羨ましいと思った。
例え本命になれなくても女性であれば、神崎の相手をしてもらえる。そして何より堂々と好きと伝えられる。それが智にとっては心底羨ましかった。
「んー・・・ごめん。多分、君には無理だよ。流石に人の気持ちの重さ位はわかるつもりだ。だからこそ、君の気持ちには応えられない。それに、俺、今気になる子がいるんだよね」
神崎のその言葉に智の胸が大きな音を立てる。全身が大きく脈を打つのがわかり、胸が苦しくなる。
「その人の事、好きなんですか?」
「うーん・・・正直、まだわからないんだ。今まで考えた事ないタイプだから、俺も困ってる。でも、はっきりわかるまでは誰とも付き合うつもりはない。遊びでもね」
「・・・・わかりました」
鼻を啜りながら扉を開け出てくる女性と鉢合わせをした智は、小さな声でごめんなさいとその女性に謝り、その場を去ろうと足を動かす。女性も気まずそうに小さく会釈して走り去る。
無意識に足の動きが速くなり、目頭が熱くなるのを感じた智は俯いたまま顔を上げれずにいた。
あぁ・・・やっぱり、僕にはチャンスは巡って来ないんだ・・・そんな想いが胸を締め付ける。図書館の手前の階段を上がり、人気の無い踊り場に腰を下ろし、声が漏れないように咽び泣く。
「智?」
いつの間にか階段を登ってきた神崎に声をかけられ、涙を拭うのも忘れ顔を上げる。
「どこか具合が悪いのか?」
心配そうに智の髪を撫でながら、隣に腰を下ろす。智は小さく首を振り俯く。しばらくの間、神崎は何も言わずに頭を撫でてていたが、智が重い口を開く。
「さっき、教室で・・・ごめんさい。立ち聞きするつもりはなかったんですが・・・」
驚いた顔で智を見る神崎は、撫でる手を止め、聞いていたのかと気まずそうな表情を浮かべる。
「・・・ん?で、お前がここで泣いているのと関係があるのか?」
「・・・気になる人って、葵さんですよね?」
「・・・なんだ。バレてるのか」
照れ隠しなのか乱暴に自分の髪をゴシゴシ擦る。智はゆっくりと顔を上げ、神崎を見つめる。
「僕じゃ、ダメですか?」
「えっ?」
「僕もずっと先輩が好きでした。僕じゃ、ダメですか?」
「あー・・・いや、俺、男がoKってわけじゃなくて・・・いや、これは失礼だな。智の事は好きだよ。でも、それは可愛い後輩ってだけで、それ以上の気持ちは持てない」
「・・・葵さんは?」
「うーん・・・俺も初めてなんだよ。こんなに気になるのも、男相手なのも・・・だから、凄く悩んでる。それに、あいつは今、それどころじゃないんだ」
そう返すと神崎は俯く。そして、ポツリと言葉を溢す。
「あいつの力になってやりたいけど、俺のこの妙な気持ちが逆に迷惑になるんじゃ無いかと・・・ハハッ、俺、柄にもなくビビってるんだ」
「・・・・・」
「とにかく、ごめん。智とはそういう関係になれない。でも、大事な後輩だとは思ってる。それだけは忘れないで」
優しく笑顔を向けそう言い放つ神崎の言葉が智の涙を誘う。神崎は少し乱暴に頭を撫でる。
「あぁ・・・泣くなよ」
「先輩・・・知ってますか?気になって誰とも付き合えないって考える時点で、もうその人の事が好きだって事。先輩、その気持ちは本物です。だから、ちゃんと気持ちを伝えてください。僕が保証します。先輩の気持ちは伝わりますから」
「そっか・・・そうだよな。うん、おかげで何かスッキリしたわ。ありがとな」
乱暴な手つきで撫でていた手が、今度は優しい手つきに変わる。智は声を殺しまた涙を流す。
神崎は黙ったままずっと頭を撫でていたが、その後、龍に見つかり一悶着が起こった。
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