第9話 久しぶりのキャンプ

大学も夏休みに入り、智はサークルのキャンプに来ていた。月一の交流会には参加していたが、龍からバイトを続けたいなら体が慣れるまで、遠出の観測はダメだと念押しされていたので、サークルの活動は久しぶりだった。

「智、嬉しいのはわかるが少し休め。テント張りは俺がやる」

「いやだ。だってキャンプなんて中学以来だよ?楽しみすぎる」

龍の止める手を振り解きながら、満面の笑みでテントのペグを握りしめる。

「言ったでしょ?僕はあの日の星空が忘れられないって。それに、また龍と来れた。今度は体調もバッチリ整えて来たから、また一緒に星を見よう!」

智は張り切ってペグを打ち始めるが、なかなか地面に入り込んでくれず顔を顰める。龍は智からペグを取り上げるとため息を吐く。

「わかったから、ペグ打ちは俺がやる。テントを張る時に手伝ってくれ」

「・・・・わかった。力仕事じゃお荷物だもんね・・・」

「そうじゃない。ペグ打ちにはコツがいるんだ。地面の性質によっても変えないといけない。ほら、しょぼくれてないでペグを手渡す手伝いをしてくれ」

「うんっ!」

智は顔を綻ばせ、龍の側にぴたりとくっつく。そんな智に微笑みながら、龍は地面に何度かペグを差し込んで、ペグが入った袋から地面にあったペグを数本取ると、智に持っててくれと手渡す。

智が手こずっていたペグ打ちも龍にかかればすんなりと刺さり、龍に教わりながらテントを組み立て固定する。

それぞれペアでテントに入る為、それほど大きくないテントは20分ほどで仕上がった。

「おっ、智達は早いな」

仕上がったテントを満足げに見つめていると後ろから神崎が声をかけてきた。

「何の用っすか?先輩のテントは向こうですね?」

智を隠すように龍が立ち上がり神崎を睨むが、神崎はお構いなしに智へと顔を向けると悲しそうな演技をする。

「酷い。俺、今ペアを断られて傷心なのに、桐崎が俺をいじめる。智、慰めて」

身を乗り出して智に近づくと、またしても龍に憚れる。

「何だよ。話くらいいいだろ?智、聞いてよ。何度かお迎えで少しは仲良くなったと思ってたのに、葵ちゃん、俺とじゃなくて吉永とペア組むって」

「葵ちゃん・・・」

いつの間にそんな愛称で呼ぶ仲になったのかと疑問に思っていたら、神崎の後ろから手が伸びてきて、思い切り神崎の頭を叩く。

「気持ち悪い呼び方をするんじゃない」

その声に顔を上げれば、葵と吉永が立っていた。神崎は叩かれた後頭部をさすりながら口を尖らすが、2人は無視を決め込む。

「桐崎、ここ終わったなら女子のテント張りを手伝ってくれないか?」

吉永の言葉に龍は智を心配そうに見つめるが、葵が笑って答える。

「智くんは僕と女子に混ざってカレー作りだ。僕が付いてれば安心でしょ?」

龍はでもと言葉を濁すが、智は大丈夫だよと笑顔で答え、力仕事頑張ってねと逆に龍を励ます。

「あまり無理はするなよ」

「うん。美味しいカレー作るからね」

智は全くない力瘤を作りトントンと叩くと、周りが吹き出す。

「力こぶ、ねぇじゃん」

先に口を開いたのは神崎だった。それを聞いた智は顔を赤らめ腕を下すが、龍がその腕を掴み、みんなに見せる。

「皆さんにはわからないと思いますが、ここに少しあります。バイト始めてから筋肉が付きました」

真剣な眼差しで語る龍に葵と吉永は呆れるが、神崎だけは腹を抱えて大笑いした。智は余計に顔を赤らめて龍の手を振り払い、龍のバカと小さな声で呟く。

「葵、これでも俺はこいつと似た過保護くんか?」

「ごめん。龍くんには負けるわ。えっと、智くん行こうか・・・」

気まずそうに葵は智に声をかけ手招くと、智も気まずそうに側に寄り歩き始めた。その後を神崎が付いて行こうと歩き始めるが、吉永と龍に腕を掴まれテント張りに駆り出されていった。

暑い日差しの中、テント張りをする男集団と女子に混ざりカレーを作る智と葵、妙な組み合わせではあったが、特にやっかみとか違和感もなくスムーズに準備は終わり、賑やかな夕食タイムになった。

智は軽めに食べて少し休むとテントに戻ったが、皿を抱えたまま龍も付いてきて、横になる智の側で黙々と食べ始めた。

「龍、僕はいいからみんなと食べてきて」

「いい・・」

「でも・・・」

「お前がいないとつまらんからいいんだ。それより、夜、星を見るんだろ?後片付けは俺が代わりに手伝うから休んでろ。無理すると夜、寝込むことになるぞ」

皿を持つ手とは別の手で智の頭を撫で、瞼を閉じるように手で促す。

「龍、ありがとう」

「気にするな」

心地良い龍の手と声に安堵して、智はそのまま寝入ってしまった。

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