第6話 新しい出会い
屋上での天体観測から一夜明け、先日のバイトの面接に向かった智だったが、生憎く既に新しい子が決まったと申し訳なさそうに断られ、トボトボと帰路を歩いていた。
やっぱり以前と変わってる。本当ならあのカフェに龍と一緒に働くはずだった。なのに、龍は急に用事ができて来れなくなり、バイトは面接すら受けれなかった。変わってしまった過去に不安を覚えながらも、昨夜の事を思い出す。
終始ちょっかいをかけていた神崎に対して、葵の態度は冷たかった。あまりにもしつこかったので、葵との間に吉永がピッタリと付いて、神崎を然りつけていた。
その様子をチラチラと見ていた智は、自分にもチャンスがあるのではと強く思い始めていた。
一番仲のいい後輩でいようと思ってた。実際、告白する勇気もなく、ただただ先輩の側で見つめるしかなかった。あの時は男同士だし、こんな気持ちになるのが初めてで、憧れが強いだけだと思っていた所もあったからだ。でも、先輩から葵さんと付き合ってると聞かされた時は、深い奈落に落とされた気持ちだった。そして、これは憧れが強いのではなく、恋なのだと、智にとっての初恋なのだと思い知らされた。仲の良い後輩で終わりたくなかった。
いろんな思いが駆け巡る中、どこからか焼きたてのパンの匂いがして、顔を上げる。
目の先にあるパン屋を見つけ、智は駆け寄ると、ショーウインドウを見つめながら目を輝かせる。
「わぁ、美味しそう。龍にお土産買って行こうかな」
落ち込んだ気持ちもどこへやらで、一変して気持ちが軽くなる。
「龍、体大きいのに、お米よりパンが好きなんだよね」
龍の喜ぶ顔を想像しながらふふっと笑い、パン屋へと入って行く。龍の好きそうなパンをいくつか選び、自分用にチョココロネを選ぶ。
大事そうにトレーを掴み、選びすぎた重みでバランスを崩さないようにそっと歩く。
レジまで無事に運ぶと、レジの横にあるチラシに目が止まる。そして、思わず店員さんへ声をかけた。
「あ、あのっ、バイトはまだ募集してますか?」
急に声をかけたからか従業員が少し驚くが、すぐにニコリと笑う。
「はい。募集中です。でも、高校生ですよね・・・?」
その問いに智は恥ずかしそうに答える。
「僕、18歳です。大学生です・・・」
「あらっ!?ごめんなさい。ずいぶん幼く見えたから・・・」
慌てて謝る店員さんに、大丈夫ですと苦笑いしながら答える。幼く見えるのはいつもの事だった。身体が弱いせいか身長は163で止まり、体も細い。それに比例しているのか、顔付きも幼い。
容姿については仕方ないと、既に諦めていたが隣に立つ龍が背が大きい上に、顔付きも端正で性格も大人びていたので、吉永が言う親子に間違われるのが、本当は少し嫌でもあった。だが、吉永はこの先も智達の事を「オカンと息子」と揶揄い続ける事を知っているので、それも早々と諦めが付いていた。
パンの計算が終わりお会計をしていると、店員からこの後少し時間はあるかと尋ねられ、そのまま面接になり、トントン拍子で働く事が決まった。
店を出て、嬉しさのあまり龍へ電話をかける。
「仕事はいつからなんだ?」
すぐに出た龍は一番先にその言葉を発する。その言葉に智は少し気まずそうに、カフェはダメだったと伝える。
「で、でもね、帰りにパン屋さん見つけて、店員さんがとてもいい人でね・・・あっ、龍にパンのお土産あるから楽しみにしててね!あっ・・・それでね・・」
「少し落ち着け」
「ごめん・・・嬉しくて・・・」
「それで、パンを土産に買ってどうした?」
「うんっ!それでね、パン屋さんで働く事になったの」
「は?」
「ちょうどね、バイト募集しててね、思い切って聞いてみたら、すぐに面接してくれてね・・・」
「おい、待て。大丈夫なのか?そこのパン屋は・・・」
「うん。仕事は接客なんだけどね、僕が体弱い事もちゃんと話したら、無理ないように週3で働きましょうって言ってくれたの。僕、嬉しい。こんな僕の事を理解してくれて、こんな僕でも人の役に立てるんだよ?」
「・・・・お前はこんな奴ではない。いつも一生懸命で真面目で優しい。充分立派な強い男だ」
「・・・龍、ありがとう」
龍の優しい言葉に目頭が熱くなる。泣きそうになるのを必死に我慢して、家に戻ったらパンでお祝いしようと伝え、慌てて電話を切ると、智はじっと携帯を見つめた。
いつも励ましてくれて支えてくれる龍・・・僕、今度は失敗しないからね。龍に愛想つかれないように頑張る・・・
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