第4話 動き始めた歯車
「ねぇ、龍?」
部屋のベットに横たわりながら、龍を見上げる。龍は体温計を取り出しながら、智に渡す。
「僕、天体観測入ろうかな?」
「・・・・」
「龍が心配してるのはわかる。無理はしない」
智は体温計を受け取り、脇に挟む。だんまりしたまま俯く龍を見ながら、智は話を続ける。
「運動も兼ねてだけど、僕、星は好きだ」
「・・・・星・・?」
ポツリと呟く龍に頷き、智は目を閉じる。
「昔、龍の家族とキャンプに行ったでしょ?あの時、龍と見た満天の星が忘れられないんだ。だって僕、その後、熱が出てそれ以降はキャンプしなくなったでしょ?」
智はゆっくり目を開け、龍を見つめる。星が好きなのは本当だ。確かに先輩に誘われて入ったのがきっかけではあったけど、キャンプ先で見たあの光景が、龍と2人で笑いながら夜遅くまで見たあの光景が忘れられないでいた。実際、サークルで出かけて熱を出したりして、龍には迷惑かけっぱなしだったけど、楽しかった。
身体が辛くても、あの星空を見た瞬間にその疲れが吹き飛ぶんだ。
その経験が、僕の就職先をプラネタリウムにする理由にもなった。
「龍、迷惑じゃなければ一緒に入らない?僕、また龍とあの星空が見たい」
「・・・・」
「ダメかな?」
体温計の音に龍は顔を上げ、表示された数字に眉を寄せる。
「少し熱がある。薬取ってくるから、今日はそれを飲んで寝ろ」
智の頭をひと撫ですると龍は立ち上がる。
「無理はさせないからな・・・早く治せ。入るのはそれからだ」
ぶっきらぼうに伝えると部屋を出ていく。その際に何かポツリと呟いた気がしたが、智には聞こえなかった。
「来てくれたんだ」
2人の姿を見た神崎は笑顔で迎え入れる。部屋に数人のメンバーがいたが、智にとっては見知った顔だった。
「彼が、このサークルの部長さん」
神崎の紹介で人の良さそうな顔をしたメガネをかけた男が立ち上がる。
「
差し出された手を、智達は順番に握る。
「三嶋 智です」
「・・・桐崎 龍です」
少しむすっとした表情で龍は手を差し出す。その表情を見て智はクスッと笑う。前の記憶では吉永と龍はいいコンビになる。やたらに絡んでくる吉永に、嫌々ながらも龍も懐く。2人の漫才コンビみたいなやり取りが智は密かに楽しみだった。
「懐かしい・・・」
そう呟く智に2人は不思議そうな顔をした。
「早速だけど、2人は今日の夜は予定ある?」
不意に神崎が智の肩に手を回し、話かけてくる。その行動に智はドキリっとする。この人はいつもそうだ。距離感が近い。顔を赤らめ俯いていると、龍が神崎の腕を引き離す。
「でた!過保護のドーベルマン」
揶揄うように笑う神崎を龍は睨む。その隣で吉永が嗜めるように声をかける。
「神崎、やめろ」
「だって、面白いだろ?」
「お前の悪い癖だ。それより、2人とも夜は空いているのか?」
ニヤニヤ顔の神崎を無視して、智達に会話を振る。智は龍を見上げ、伺いを立てる。龍はそんな智を見て、少し悩んだ後、吉永に大丈夫だと伝えた。
「良かった。今日はね、ここの大学の屋上で天体観測するんだよ。月一で交流会兼ねてやってるんだけど、来るかい?」
「天体観測という名の飲み会だ」
吉永の説明の合間に、神崎がにゅっと顔を前に出す。龍は智を隠すように前に出ると、吉永に顔を向ける。
「こいつ、病み上がりなんで酒は飲ませません。俺も」
「龍・・・」
「もちろんだよ。神崎は飲み会とか言ってるけど、実際、俺達もだけど、まだ未成年が多くてね。三年生以外はジュースだ」
吉永の言葉に龍が頷く。吉永はこういう所はきっちりしている男だ。実際、以前も酒の場では目を光らせていたし、後輩に無理やり飲ませるなどはした事がない。意外と真面目で筋が通った男だ。だから、龍も懐いていたんだと思う。
「それから、部外者ではあるんだが、俺の従兄弟を1人連れてくる。俺より一つ上だが、色々と事情があってな。俺が世話している。まぁ、おとなしい奴だから大丈夫だ」
吉永の言葉に智は体が強張る。
「あぁ、前に話してくれた子か。一度、会ってみたいと思ってたんだよね。名前、なんて言うんだっけ?」
神崎達のやり取りに胸の鼓動が早くなる。
(まさか・・・こんな早く出会うはずない・・)
そんな言葉が智の頭を駆け巡る。
「あぁ・・葵だ。
その名を聞いた瞬間、智の目の前が真っ暗になる。
(そんな・・・前は僕が2年になってから出会ったはず・・・僕、まだ神崎先輩と仲良くなれてないのに・・・また、あの光景を見なくちゃいけないの?あの結末を迎えなきゃいけないの?)
鳴り止まない鼓動に眩暈がして、そのまま智は気を失った・・・。
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