第3話 避けられぬ出会い
「はい。すみません。はい、ありがとうございます。では、週末に」
緊張した声で智は携帯を握りしめる。
「大丈夫だったろ?ほら、帰ろう」
電話が終わったのを確認した龍は、智の肩に手を回し、家路へと誘う。
「うん。あ、待って。緊張したら少し喉乾いたから、あそこの自販機で飲み物買ってくる」
智は少し離れた自販機を指差し、龍に待っててと伝える。少し小走りに自販機に駆け寄ると、ポケットから財布を取り出し、小銭を自販機に入れる。
そして好きなココアを押そうと指を差し出した瞬間、後ろからドンっと押され、飲みもしない隣のコーヒーを押してしまった。
「あっ・・・」
固まったままどうしようと悩んでいると、後ろから声をかけられる。
「ごめんね、大丈夫?」
その声に智は胸が大きく鳴り始める。
「もし、もーし?どこかぶつけた?」
鳴り止まない鼓動に突き動かされ、ゆっくりと振り向く。180は超える高身長にサラサラと靡く少し長めの短髪。光に当たるとキラキラ光る明るい茶髪。整った顔に屈託のない笑顔・・・どれも懐かしく、そして愛しかった面影。
先輩・・・神崎先輩・・・目頭が熱くなる。それと同時に体がガタガタと震えだす。
「ねぇ、君。本当に大丈夫?」
ゆっくりと差し出される手にビクッと体が強張る。すると先輩の後ろから、スッと手が伸び、先輩の手を掴む。
「おい、何やってるんだ?」
先輩より少し背の高い龍がぬっと智と先輩の体に入り込む。
「おっと・・・俺は何もしてませんよ?あ、ちょっとよろけてこの子に、ちょっとぶつかっただけ」
先輩は降参とばかりに両手を上げる。龍はゆっくりと先輩の手を離し、智の方に体を向ける。
「智、大丈夫か?」
「う、うん。」
声が掠れるが、何とか場を和まそうと声を絞り出す。龍は自販機の下に目をやり、出てきた飲み物を取り出す。
「お前、コーヒー飲めないのに買ったのか?」
そう尋ねる龍に後ろから先輩が覗き込む様に身を乗り出し、声をかける。
「あちゃー。もしかして、俺がぶつかった時に違う物押しちゃった?」
申し訳なさそうにコーヒー缶を見つめ謝る。
「それ、俺が買うよ」
そう言ってポケットから小銭を取り出して、智の手を引っ張り掌にお金を乗せる。
「ねぇ。もしかして君、三嶋くん?」
不意に名前を呼ばれ、慌ててそうですと返事を返す。
「やっぱり。君、大学で有名なんだよね。小さくて可愛い男の子がいるって。そんで、その隣にはでかいボディガードがいるってね」
先輩はそう言いながら龍を見上げ、ニコリと笑う。龍は少し不機嫌な顔で、体の向きを変え、先輩を睨む。
「おー怖い、怖い。俺、
出会いは違えど、初めて会った時と同じ言葉で智に声をかけてくる。先輩の誰にでも優しく気さくな性格が好きだった。変わらない笑顔で、変わらない声で智に話かけてくる。早かった胸の高鳴りが、今度はゆっくりと大きく鳴り始める。
あぁ・・・僕はまだ、こんなにも先輩が好きなんだ・・・
それを裏付ける様に、ゆっくりと強張った体から力が抜けていく。
「入りません」
急な龍の言葉に智は我に帰る。
「こいつ、体弱いんで、山登りとか無理です」
「ちょ、ちょっと・・」
慌てて龍の服の裾を引っ張る。龍は智を隠すように立ち、先輩をずっと睨みつける。
「過保護だね。心配しなくてもそんなに険しい山は登らないよ。身体が弱いなら尚更、ゆっくりでいいから運動だと思って入ってみたら?」
「いやです」
「ちょ、ちょっと龍・・・」
「三嶋くんは興味あるかな?一度見学に来たらいいよ」
「あ、えっと・・・」
「気が向いたらでいいから。もちろん、ボディガード付きで構わないよ」
龍の存在を無視するかのように、少し屈んで智に顔を向ける。智は小さく頷いて龍の後ろに引っ込む。
「じゃあ、またね」
先輩は手を振りながら歩き始めた。
「智、早くココア買って帰るぞ」
少し乱暴に智の掌にあったお金を掴み、自販機に入れココアのボタンを押す。智は龍に空返事をしながら先輩の背中を見つめていた。
「・・・・いくぞ」
龍は智の手を取ると、強く握ったまま少し強引に歩き始めた。
「龍、早いよ。待って・・・」
いつもは合わせてくれる歩幅なのに、すぐにでもこの場を去りたいかの様に振り向きもせず智を引っ張る。
どうしたんだろう・・・さっきから龍が変だ。
龍に対しての違和感が拭いきれず、智は戸惑う。そして、ふと先輩を思い出す。
避けても会う運命なら、また僕はあの辛さを味わうのだろうか・・・このタイムスリップの意味は何だろうか・・・
答えの出ない不安が智の頭の中を駆け巡っていった。
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