第2話 懐かしい面影

「おい、今日何か変だぞ」

大学の学食で桐崎キリサキ リュウが、心配そうに見ている。

「うん・・・僕もわからない・・・」

龍にポツリと返事をする。ぼんやりと龍を見つめながらぎゅっと箸を握る。

三嶋ミシマ サトシ。今の僕は18歳で大学に入学したばかりだ。

龍とは中学からの幼馴染で、家が近所なのもあり、何かと智の世話を焼いてくれる。それと言うのも智が少し病弱体質だったからだ。

小さい頃、心臓が弱かった智は幼少の頃の大半は病室で過ごした。

中学上がる頃にはだいぶ良くなってはいたが、激しい運動は禁止されていて、いつも教室の端で静かに過ごしていた。

そんなある日、龍が転校してきて家も近所だったおかげか、龍の方から歩み寄ってくれた。

今では大学まで一緒で、互いの両親が仲良かったのもあり、離れて暮らす智を案じて大学からはルームシェアをしている。

僕は龍が好きだった。大事な親友だった。

だけど、いつの間にか距離が出来て、互いに就活で忙しくなって行き違いが増えて、卒業後は連絡が途絶えた。

未だに何がいけなかったのか、智自身わからなかった。

ただ、とてつもなく寂しかった。その時の日々が思い出され、いつの間にか俯く。

「・・・おい」

不意に呼ばれ、智は顔を上げる。

「どこか具合が悪いのか?」

「何で・・・?」

「お前・・・じゃあ、なんで泣いてるんだ?」

龍の言葉に自分の頬に触れる。ゆっくりと伝う涙を慌てて袖で拭いながら、智は首を振る。

「あぁ・・擦るんじゃない。どこか痛いのか?」

優しい声で智の頭を撫で、指で涙を拭う。

(龍だ・・・あの時のままの優しい龍だ・・・ねぇ、龍、どうして僕から離れたの?僕、寂しかった・・・僕ね、恋をしたんだよ。でも、振られちゃったんだ。きっと龍が側にいたら、こうやって慰めてくれたかな?

先輩が死んじゃったあの日も、きっと龍なら駆けつけて慰めてくれたよね。僕の事、嫌になったから離れたの?)

懐かしい龍の温もりに愛しさが込み上げる。

「今日はもう帰るか?あ、お前そう言えば今日面接だったな」

龍の面接の言葉に、智の動きが止まる。そうだ、僕はバイトの面接に行って先輩と出会うんだ・・・。

「なぁ。無理してバイトする事ないんだぞ?せめて、大学にもう少し慣れるまで控えたらどうだ?」

「え・・・?」

「ほら、無理してまた熱が出たら大変だろ?」

心配そうに智を見つめる龍に、智は少し違和感を覚える。確か龍は僕を応援してくれた。ただ心配するあまり、龍も同じ所でバイトするといい始めて、一緒に面接に行ったはずだ。

僕の思い違いだろうか・・・

「とにかく、面接先に連絡して今日は帰って休め」

頭をポンポンと叩くと、少しは食べろと智のサンドイッチを取り、智の口へと運ぶ。その運ばれたサンドイッチを一口だけ齧ると、俯きながら答える。

「でも、今日行かないと・・・」

「大丈夫だ。事情を説明すればきっとまた別の日に面接してくれる。それとも・・・今日行かないといけない理由があるのか?」

意味ありげな龍の言葉にどきりとする。今日、バイトに面接に行ったらお客として来ていた先輩と出会う。僕はそこで先輩に惹かれるんだ。

でも・・・今日行かなかったら、きっと先輩と会う事はない。そしたら僕は先輩に恋をする事もなくて、もしかしたら龍とも仲がいいまま過ごせるかも知れない・・・

「わかった。龍の言う事聞く。僕、電話してから家に帰るね」

そう言って、立ち上がると、龍は慌ててサンドイッチを鷲掴みにし、席を立つ。

「俺も帰る」

「えっ?龍はまだ1コマ残ってるでしょ?」

「単位は十分足りてるから気にするな。それより、ほら。もう少し、もう少しだけ食え」

そう言って、智の食べかけのサンドイッチを手渡し、残りのサンドイッチを自分の口に運んだ。

そんな龍を見ながら智はふふっと笑う。

「龍・・・」

「ん?」

「ずっと、ずっと僕の友達でいてね」

「・・・あぁ。いつでも側にいてやる」

龍の返事に智は笑みを浮かべる。これで、いい。恋なんてきっとまたいつかできる。今は龍がいればいい・・・

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