トイレで転生

Tempp @ぷかぷか

第1話 

 大急ぎでトイレに駆け込むと、パァンとクラッカーが弾けるような爆音と昔懐かしミラーボールのように溢れかえる光に耳と目をやられて尿意が引っ込んだ。

「おめでとうございます! お客様がこの個室の扉の123456798番目の開閉者です!」

「番号おかしくないか」

「順列にすると期待して狙う輩がいるでしょう?」

 トイレに一体何を期待するというんだ?

「そこにお座りください」

 促されて恐る恐る便座に座る。下を脱がずに座る行為はは随分と落ちつかず、ひゅるりと排水口から上がる湿気が気持ちが悪い。

「記念すべきあなたには特典があります」

 先程より声は小さく尻がヒュンとして、やっぱりトイレに行きたくなる。トイレなのに。というか音源はどこだ。見回しても紙吹雪で床が散らかるだけでスピーカーは見当たらない。便座の下? まさか。

 この下に何かいるんじゃトイレできないじゃないか!

「お望みの異世界に転生できます!」

「は?」

「お望みの異世界」

「断る。そんなものに付き合っていられるか!」

 そんなことよりトイレだ。再び訪れた尿意がそろそろ限界だ。隣の個室に入り直そうとドアを開けて呆然とする。わけのわからない光景が広がっていた。よくある異次元エフェクトというか、グネグネと油膜のようなものが広がり煌めき、この向こうにあったはずの手洗いの光景がない。

「困ります! 勝手に開けられては!」

「なんぞこれ」

「転移途中に開けちゃうから! 選択肢が減っちゃいました! 早く希望を行ってください!」

 呆然とグネグネの動きに合わせて呪いにでもかかるように再び尿意が膨れ上がる。もう無理!

「トイレだ! この向こうにトイレがある場所へ!」

「わかりました!」

 その瞬間、扉の油膜はぶうんと揺らぎ草原が現れた。えっトイレって?

「よき冒険を!」

 ここがトイレというなら仕方ない。本当に限界で、我慢できずに飛び出し、とりあえずその辺で致して呆然とする。全方位草原……。どないせいいうねん。

 冒険、始まる?


Fin

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