06 歪な愛



 近所に面倒見のいい女の子がいる。


 その子は、よく小さい子の面倒をみていて、大人たちに褒められていた。


 小さい子供なんて、どこに行くか分からないし、何をしでかすかも分からない。面倒を見続けるのはすごく大変なのに。


 だから、その女の子の事、いつもえらいなぁって思ってた。


 でも、不思議だったの。


 どうしてそんなに、人のお世話をするんだろうって。


 その子はたまに、自分の時間を犠牲にしてまで、お世話してる事があったから。


 やりたい事とか、遊びたい事とか我慢してまでする事なんだろうか?


 私はずっと気になっていた。


 だから、二人きりになった時、その子に理由を聞いてみたんだ。


 私がママからお買い物しておいでって頼まれて、その子が手伝ってくれた時に。


「どうして? うーん、そうね。代わりになるからかな」

「代わり?」

「私、今よりもっと小さかった頃、下の子が生まれてお姉さんになるはずだったの。でも死んじゃったから」


 だから、他の子が代わり。


 その時の私はなんだか悲しいなとしか思っていなかった。


 でも、一年後に状況は変わった。


 私はその子に対して恐怖を抱くようになった。







 その子は、色んな子の色んな情報をなぜか知るようになっていた。


 まるで、ずっと後ろをつけて、見張っていたかのように。


 だから私は怖くて、関わるのをやめたのに。


 行く先々で目の前に現れてお世話を焼いてくる。


 怖かった。


 行き過ぎた親切心が、身代わりの愛が。


 その子には、もう会いたくないし、喋りたくないと思った。


 だから、家から一歩もでないようになった。


 それなのに、スマホに何回も電話が着たり、窓から外を見たらあの子の姿があって。


 夢にまで出てくるようになった。


 どうやったらあの子から解放されるのだろう。


 そう悩まない日はなかった。


 知っている人がいたら教えてほしかった。


 後から見た電話の留守電メッセージには「どうして?」とか「なんで無視するの?」とかの言葉が並んでいた。







 状況が変わったのは、地震があった後。


 大きな揺れがきて家が半壊しちゃったから、近所に住んでいるおばあちゃんとおじいちゃんの家に引越したんだけど。


 そこにも、あの子がおしかけてくるようになったの。


 ずっと部屋の中にこもっていたかったけど、おばあちゃんとおじいちゃんの家にお世話になってる身だからそんな事はできなくて………。


 外でたびたび顔を合わせる事になった。


 そういう時は無視してその子から逃げ出すんだけど、いつも追いかけてくるから。


 私は、怖くなって遠くへ逃げようと思った。


 これ以上つきまとわれたら頭がおかしくなりそうだったから。


 遠くへ、より遠くへ。


 がむしゃらに走った私は、途中やけに多くあった工事の看板や行き止まりの看板を避けて、どこかの高台の上にたどりついた。


 ここまでくれば、大丈夫。


 そう思って息をついたんだけど。


「やっと止まってくれたね」


 背後を振り返ったら、そこにあの子がいたの。


 わたしは驚いて背後に後ずさった。


 そしたら、さっきまでそこにあったはずの手すりがなくなっていて。


 私はまっさかさまに落下してしまった。


 でも、わずかに意識が残っていたみたいだ。


 痛むからだに顔をしかめていると、声が聞こえてきた。


「残念。あの世にいってくれたら、死んだ弟も寂しくなくなったのに」






 病院の中で目を覚ました私は混乱していた。


 どうしてそうなったのかしばらく、思い出せなかったからだ。


 なんで私はケガなんかしてるんだろう。


「何かショックな事でもあったのだろう」と言っていたお医者さんや家族が悲しそうな顔をしていたのが心苦しかった。


 けれど皆が私に、無理に思い出させようとしなかったのは、ありがたかった。


 何があったのか考えようとすると、頭がいたくなるからだ。


 そのまま、平和な時間を過ごしていたから、私はすぐに退院できるようになったんだけど。


 その私の目の前に、あの子があらわれた。


「あーあ、やっぱり生き延びちゃったんだ」


 その顔を見たとたん、私は思い出してしまった。


 あの子につきまとわれ、追いかけられた恐ろしい出来事を。


 私は震えながら、目の前の女の子に指摘をした。


「本当は可愛がってるわけじゃないんでしょ? 自分の兄弟が死んじゃったのに、私達が生きてるから追い詰めて殺そうとしてたんでしょ?」


 そう思わずにはいられないほど、行動が異常だったから。


 女の子は否定せずに、にやにやと笑った。


「どうしてそんな事をするのよ!?」

「どうしてって決まってるじゃない、私の目的のついでに天国にいるかわいそうな弟のために、気が合いそうなたくさんの友達をつくってあげてるの」


 そんな理由で殺されてはたまらないから、私は再び逃げ出した。


 けれど、なぜか目の前に障害物があったり、行く方法が行き止まりになっていたりして、病院の屋上へと誘導されてしまった。


 フェンスを背にして立つ私に、追いついた女の子が近づいてくる。


「たくさん友達を送ったら、私もそっちに行くから、その時はあなたも本当に可愛がってあげるわね。」


 その言葉は、私が聞いた最後の言葉だった。





 とある病院で、生まれた子供は死んでしまった。


 その子供の数は二人。


 双子の姉と弟だった。


 弟が死んだことを知った、双子の姉は、なぜ自分だけが亡霊となって彷徨っているのか分からなかった。


 しかしやがて、姉はその理由を見つける。


 自分より小さな子供たちを見つめている時に。


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