02 ビックリハウス



 うちのお父さんはすごいんだ。


 遊園地のアトラクションを作った人なんだから。


 お父さんは人を楽しませたり、驚かせたりするのが大好きだから、きっと遊園地に自分が考えたものを建てられるってなった時は喜んだんだろうな。


 お父さんの友達も「あいつが生きていたら泣いて喜んでたに違いない」って言ってたし。


 今日は、ようやくそんなお父さんのアトラクションを楽しめる日。


 家の中にあるお父さんの写真に「行ってきます」して、お母さんと出かけるんだ。






 遊園地に入った僕たちは、まず他のアトラクションを楽しんだ。


 僕もお母さんも、楽しみのものは後にとっておく性格だから、一番最後にしようって決めたんだ。


 その遊園地は、全国で五本の指に入るくらいの知名度があるところだから、かなり人でごった返していた。


 混んでる時間についちゃったから、後でゆっくり見るために後回しにしたっていう理由もあるけどね。


 その後、夕方になってからが本番。


 僕達は、お父さんが作ったアトラクションの前にやってきた。


 名前はビックリハウス。

 

 びっくりさせるための家だからビックリハウス。


 お母さんは係員の人と話をしてるうちに盛り上がっちゃったみたいで、なかなか終わりそうにない。


 だから「先に楽しんでおいで」って言われた。


 本当は一緒に入りたかったけど、お母さんはおしゃべり好きだからね。


 しょうがないや。


 一足先に中へ入る事にした。


 入口からビックリハウスに入る前、一度振り返ったら遠くの方にお父さんの友達がいたような気がしたけど、見間違いかな。






 ビックリハウスの中は、人を驚かせるための仕掛けがいっぱい。


 急に雷の音が鳴ったり、冷たい風が足元に吹いてきたり、壁や天井からお化けの模型が飛び出てきたりもした。


 急に不気味な音楽が鳴り出して、包丁を持った怪人が現れた時は思わず全力で逃げちゃったな。


『……ヲツケロ』


『コワイヒトがイルヨ』


 その時に、耳元でそんな声が聞こえたから、なおさら驚いちゃったよ。


 そのせいで、何も考えずにでたらめに進んだから、迷子になっちゃった。


 どっちに行けば出口なんだろう。


 悩んでいると、声をかけられた。


 その人はお父さんの友達だ。


 やっぱりさっきのは見間違いなんかじゃなかったんだ。


 それで近くに来て頭をなでながら「やっぱり、君のお父さんはすごいな」って言って、ビックリハウスを褒めてくれる。


 なんだか自分が褒められたみたいな気分だな。


 心があったかくなってくる。


 けれど、足元で急に何かが動いて転んじゃった。


 ビックリハウスの仕掛けで、虫の模型が飛び出てくるってやつ。


 膝を擦りむいちゃったけど、でもそれで良かったんだ。


 だって、お父さんの友達が包丁を突き出していたから。


 僕はびっくりして、その場から逃げ出した。


 後から追いかけてくるその人は、「俺のデザインが採用されるはずだったのに!」って言いながら、怒っている。


 必ず選ばれるよう偉い人にお金も渡したのにって。


 そんなの選ばれなくて当たり前だよ。


 ズルしようとしたって事なんだから。







 ビックリハウスのあちこちを逃げて出口まで行ったけど鍵がかかってて、出られない。


 外から係員さんとかお母さんの声が聞こえてくるけど、扉が分厚いからなのか、ぜんぜん声が聞き取れない。


 なんとか扉を開けられないか考えてたけど、時間切れだ。


 後ろから追いつかれちゃった。


「あいつの大切なものを奪ってやる!」


 もうダメだ。


 鬼のような形相をしたその人が、包丁を振りかぶった。


 けれど。


『俺の息子に手を出すな!』


 お父さんの声が聞こえたと思ったら、入り口に立っていた包丁を持った怪人が倒れこんできた。


 それで、お父さんの友人だと思っていた人が下敷きになってしまう。


 でも、この人形もっと入り口付近にあったような気がするけど、同じ姿の別の人形かな。


 呆然としていると、やっと出口が開いて、お母さんと係員さんが飛び込んできた。


 たっ、助かった。





 その後、人形の下で気絶していた人は、おまわりさんに捕まって刑務所にいったみたい。


 事件が起きた場所だからってビックリハウスは、何週間か閉鎖されちゃったけど、また再開することができた。


 でも、次に行った時あの怪人の人形がなかったんだよな。


 係員の人に聞いても、「そんな人形あったかな」って言ってて、ちょっとモヤモヤ。


 ひとりでに動いてどこかに行っちゃったとかかな?


 まさかね。


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