01 ドールハウス



 たくさんの人で賑わう、大きな都の片隅。


 めったに人が通らない路地裏に、その店はあった。


 店の中には、数えきれないほどの人形。


 男性や女性、子供やお年寄り、天使や悪魔や、怪物。


 様々な品物が置かれている。


 けれどその店の人形達はじっとしていない。


 おしゃべりしたり、遊んだり。


 思い思いの時間を過ごしている。


「この間のお客さんの、髪型がおかしかったね」

「最近店の照明が暗くなった気がするわ。故障かしら」

「隅に埃がたまってるぞ。掃除しないのかだれか」


 店の中には、賑やかだったり和やかだったりする空気。


 そこに音が鳴り響く。


 店の扉が開いた音が。


 リンリンと楽しげに鳴り響く。


 それを聞いた人形達はさっと自分の場所に戻って、静止。


 人形達が自由に動き回る時間は唐突に終わっていた。







 古ぼけたお店の中に、女の子が二人。


 路地裏を探検していたその少女達は、たまたま見かけた人形の店に興味を示した。


 ショーウィンドウには、きらびやかなドレスをきた少女の人形があった。


 どこのお店にもない、美しい人形。


 見とれる理由としては十分だった。


 その人形に興味を示した女の子達は、店の扉に手をかけて中に入った。


 もっと近くで見たい、そう思い店員に頼もうと思ったからだ。


 女の子たちが入った店内には、様々な人形があった。


 宝石がふんだんにあしらわれた人形や、全身が鉄の鎧で覆われた人形。


 子供が遊ぶような簡単な作りの人形に、人を脅かすために作られたような恐ろしい怪物の人形。


 女の子達はショーウィンドウの人形の事を忘れて、目の前の品物たちに夢中になっていった。







 しかし、しわがれ声の店長がやってきて声を掛ける。


 そこで、一心不乱に人形を見つめていた女の子たちは、はっと我にかえった。


「ようこそこんな古びた人形店へ、久しぶりのお客さんはうれしいな」


 にこにこ笑う老婆の店長だった。


「せっかくのお客さんだから、お近づきのしるしに、なんでも一つだけおうちに持ち帰ってもいいんだよ」


 喜んだ女の子はその言葉を疑うことなく、人形を選び始めた。


「ただし、ショーウィンドウに入っている人形だけはだめだけどね」


 しかし、続いたその言葉に少しだけがっかりした女の子たち。


 それならせめて近くで見てほしいと頼んだけれど、


「未練がなくなったらこのお店に次も来てくれなくなっちゃうじゃないかい。何度もお店に足を運んでくれるようになるか、新しいお客さんをつれてきれくれるかしたら、見せてあげてもいいけどね」


 そう言われてしまった。


 落胆しつつも女の子たちは、次もこの店に来る、新しい客も連れてくる、と約束して人形選びを再開した。






 数分後。


 それぞれ可愛らしい西洋人形を手に取った女の子達が店を出ていった。


 その際に店長は、楽に持ち運びにできるようにと紙袋を用意してくれたので、人形をおとすことなく家に持ち帰ることができた。


 その日から女の子たちは家の中に人形を飾り、いつも眺めるようになった。


 初めの内その女の子達の両親は、その様子をほほえましく見守っていたが、次第におかしいと感じるようになった。


 日に日に女の子の生気がなくなっていくように感じられたからだ。


 その代わりに人形から、生きているかのような気配を感じ始めていた。


 不気味に思った両親は、人形を燃やしたり、店に返したりした。


 結果……。


 人形を燃やした所の女の子は次第に生気を取り戻していった。


 しかし、店に返した所の女の子は、とうとう昏睡状態になるほど弱って、そのまま亡くなってしまった。







 女の子の死を受けて両親は、老婆のいる人形店を怪しんで、数日後に訪れた。


 しかし、そこにはもう何の建物も存在しなかった。


 何かが存在した気配も残さず、ただの草地があるのみだった。


 跡地にはただ、玩具のドールハウスが落ちていただけだった。


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