06 竜
――はじまりのばけもの――
それは、世界に最初に生まれたばけものの事。
他のものとは違ってとても強い力を持ったものの事
そのはじまりのばけものが最初に現れた時、他の生き物達はそんなに興味を持っていなかった。
ちょっと、変わった生き物がいるな、と思うだけだった。
しかし、二番目、三番目のばけものがうまれてきてから、何かもやもやとしたものを抱えるようになった。
「ばけものだ」
「ばけものがいるぞ」
他の生き物達は、「はじまりのばけもの」や二番目のばけもの、三番目のばけものなどをおかしな生物として扱い、距離をとりはじめた。
だからばけもの達は、他の生き物と接する事ができずに、ずっと寂しく生きてきた。
そんな中、その世界の環境ががらりと変わってしまった。
どこからかやってきた、「きょうあくなものたち」が、その世界の者達を支配をしはじめた。
「俺達に逆らった者達は、見せしめに殺してやる。だから言う事を聞け!」
「きょうあくなものたち」は体が丈夫で、とても力が強い。
反対にその世界にいた者達は、体が小さくて力が弱いものが多かったため、抵抗できずに虐げられるしかなかった。
「なぜこんなひどい目にあわなければならないんだ」
「何も悪い事なんてしていないのに」
「私達に力があったら、こんな理不尽な目にあわずにすんだのに」
はむかった者達や文句をいった者達は否応なく、罰を与えられた。
それどころか、処刑される者達もいた。
その際に楽に死ぬ者達は少なく、みな苦しい思いをしなければならなかった。
地獄の業火の中を力尽きるまで走らされたり、ぐつぐつと煮える大なべの中に放り込まれたり。
身も凍えるような寒さの中で凍らされたり、眠る事なく働かされて死ぬより前に狂った者達もいた。
「これなら自ら死を選んだ方がマシだ!」
希望を持てなくなった者達は、自ら命を落とす事になった。
そんな中、ひとすじの希望を求めた「旅人」がいた。
生まれ育った故郷を旅立った「旅人」は「きょうあくなものたち」に立ち向かうために、ばけものの力を借りようと考えたのだ。
様々な村や町を訪れ旅をする「旅人」は、ばけものに助力を求めるために様々な場所へ足を向けた。
そして、何か所目かの村で「ばけもの」に会い、「どうか私達を助けて下さい」と頼み込んだ。
ばけものは渋い顔をして、最初はその頼みごとを断った。
「あんなにもばけもの扱いしていたのに、そんな事も忘れて頼みごとをしにくるとは、なんと厚顔無恥な者達だ」
化け物も、今虐げられている者達と同じだった。
何も悪いことしていないのに、のけものにされていた。
だから、自分を遠ざけた者達を助けたくないと思ったのだ。
しかし、「旅人」はめげなかった。
「勝手なのは重々承知です、しかしこのままでは我々の未来は暗く閉ざされてしまう」
何度も何度も、相手を説得しにかかった。
その必死な姿勢に、とうとうばけものは折れた。
「仕方がない。やつらがこの世界から出ていくまで、協力してやろう。調子にのってこちらにまで火の粉がふりかかっては困る」
虐げられていた者達のために、立ち上がった「はじまりのばけもの」やばけもの達。
彼等は大きな翼を広げて、侵略者である「きょうあくなものたち」を攻撃したり、鋭い爪でひきさいたり、逆に固い鱗で相手の攻撃をはねのけたりした。
その戦いぶりもあって、「きょうあくなものたち」はその世界からすぐにいなくなった。
これまで「ばけもの」達を遠ざけていた者達は、みんな感謝するようになり、「ばけもの」を「ばけもの」ではなく英雄として扱う様になった。
のちの歴史書に長く語られる、英雄的な種族。
彼等は竜と名付けられるようになった。
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