05 扉



 あるところに、とても固く閉ざされた扉がありました。


 その扉の向こうには、化け物が一匹います。


 そのばけものは、体のあちこちが傷だらけ。


 痛々しく全身から血を流しいていました。


 それは、なぜか。


 答えは、人間にいじめられていたから、です。


 化け物は長生きです。


 人間よりもたくさんの時間を生きることができました。


 だから人間には、それが奇妙に見えたのです。


「百年も二百年も生きるのはおかしい」


 人間達はみな、そう言い化け物を排除しようとしました。


 たくさんの傷を負ったかわいそうなその化け物に、味方してくれる人はいませんでした。







 ある日、虐められていた化け物は、偶然扉を見つけました。


 何の扉かは分かりませんが、とても丈夫な材質でできていました。


 なので化け物は、見つけたその扉の向こう側へ逃げ込んで、カギを閉めました。


「ここなら誰も入ってこられないはず」


 実際、扉はとても固く、何をやっても壊れませんでした。


 だから化け物を虐めていた者たちは、諦めざるを得ません。


 安心した化け物はずっとそこにとじこもる事にしました。


 人が来なくなれば、化け物はもうこれからは虐められる事がありません。


 誰かにおびえることなくぐっすりと眠れる日々がやってきました。


 しかし化け物は不思議でした。


 この部屋にいたはずの者が、帰ってくる気配がない事に。


 どんな衝撃にもたえられる扉に、自給自足ができる畑。


 ずっと光り続ける電球、なくならない空気。


 ここには、すばらしい環境があります。


 そこに居ようと思えばずっと居る事ができるのです。


 それなのに、そこに住んでいた者は、どうして出ていったのか不思議でたまりませんでした。







 それが分かったのは数か月後。


 化け物は、その部屋が壊れ始めていることに気づきました。


 今すぐ駄目になる事はないけれど、遠からずこの部屋にはいられなくなります。


 だから、住民達は出ていったのです。


 化け物はがっかりしました。


 この場所でもずっと安らぐことはできないのだと。


 ならば、と化け物は自分を鍛える事にしました。


 強くなればいいのだと、思ったからです。


 自分を虐めてくる人間達がいたとしても、力づくでやっつけてしまえば問題ないと思ったのです。


 だから、仕方なく時間をかけて自分を鍛えることにしました。


 いつか扉の向こう側にいる、人間たちをやっつけるために。


 ずっと長い間、一人で体を鍛え続けていました。






 そして、どれだけの時間が経ったのか分からなくなった頃。


 すっかり強くなっていた化け物は、扉を開けて外に出ていきます。


 筋肉のついたたくましい腕をふりまわしながら人間を探しますが、みつかりません。


 おかしいな、と思いながら歩いていると、変な生き物に出会いました。


 目が一つあって。


 手が三つあって、足が三つある生き物です。


 それはどう見ても人間ではありません。


 化け物は、この辺に人間がいないかどうか尋ねました。


 するとその変な生き物は答えます。


 化け物が住んでいたあの部屋の、本来の住人は。


「自分たちとは違う存在を認めようとしない愚かな人間達のことなら、とっくの昔に僕たちが絶滅させたよ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る