04 ホープと船
小さな船。
頼りない船。
宇宙を航海する船が一隻、あった。
その船は進んでいく。
不安に心を揺らす者達を乗せて。
無限に続く宇宙の中を、銀色の船がゆっくりと進んでいた。
その船、宇宙船にはたくさんの生き物たちが乗っていた。
彼らの目的は、
「滅亡した母星の代わりになる星を見つけよう!」
というもの。
なぜならその船に乗っている者達はみな、故郷の星をなくした者達だったから。
噴火や洪水、地震や干ばつ、様々な原因で元居た星が、生き物の住める星ではなくなってしまったため、移動していたのだ。
長く厳しい航海を続けた彼らは、旅立ちから十数年後に移住できそうな星を見つけた。
その星はそこそこに広くて、そこそこに環境がよくて、そこそこに食糧のある星だった。
「これ以上、船は航海できないだろう」
それは幸運な出来事だった。
彼等がのっていた船はボロボロで、あと数年したら完全に壊れてしまうありさまだったからだ。
今でももう、あちこちガタがきていて、修理をしながらだましだまし使っている状態だった。
なので、彼等はすぐに決断した。
「この星で我々は逞しく生きてこう」と。
彼等は、ゆっくりと船からその星に降りて、大切な船を隠した。
その後は、どんな星なのか全くわからないので、慎重にあちこちを探索していく。
新しく見る植物、新しく見る鉱石、様々な「未知の発見」が彼等の前に現れる。
その度に彼等は驚き、危険がないかチェックした。
そんな彼等の前に、生物らしき存在が現れる。
ある程度の文明を築いていたその生物たちは、集まりを作って暮らし、その星の言語を使って意思疎通をこなしていた。
だから、宇宙船にのってきた彼等は、その言語を学習してどうにかコンタクトをとろうと考えた。
これから住まわせてもらうことになるのだから、仲良くしたほうがお互いにいいと考えて。
しかし、コミュニケーションはなかなかうまくいかなかった。
どうしてなのか彼等は、その理由が分からない。
その星の生物たちに嫌われてしまい、それ以上の交流できなくなってしまった。
何とかして解読した言葉は、一つ。
「ばけもの」という言葉だけ。
意気消沈した彼等は、その星の者達と争いをおこす事をおそれて、ずっと船の中で暮らす事になった。
それから長い年月が過ぎた。
そして、最初に降り立った者達が死んでしまった頃、宇宙船の中にこもって生きていた次の世代の者達は、歴史を間違って覚えてしまっていた。
自分たちはばけものだから、この星の住人たちから命を狙われている。
だから隠れて生活しているのだと。
自分たちのことをすっかり悪い生き物だと考えてしまっていた彼等は、いつかこの星の人間に見つかって殺されてしまうのではないかと、おびえ続けていた。
そして、決して船の外には出てはいけないという、固い掟ができあがってしまった。
その掟があるために彼等は、何度かかあった外に出る機会を、全てふいにしてしまう。
宇宙船が壊れて大きな穴が空いたとしても、頑張ってそれをスクラップ品で修理し、内部で食べ物が生産できなくなっても空腹を我慢し、病が流行ってもその船にとどまり続け、食料や医薬品の奪い合いが起きて人の心を捨てた者達が殺し合ってしまっても。
決して誰も、外に出ようとはしなかった。
遠い昔に希望の船として名付けられたホープ号は、血塗られた呪いの船と化していた。
やがて銃数年後、船の中で生きのびた、たった一人の子供達が外に出ていく。
その子供は、船が出発した日に未知の病が発覚してコールドスリープした子供だった。
船の奥の奥、立ち入り禁止区画で眠っていたため、誰にもみつからなかったが、何かの拍子にコールドスリープが解除されたのだった。
外に出た子供は、その星の生き物達と交流を試みた。
飛び交う言語は難しく、解読は非情に困難だったものの、月日がそれを解決してくれた。
一年経つ頃には、その星の人達と会話ができるようになった。
ホープと名付けられたその子供は、それから船に近づくことなく、すくすくと成長していった。
病はその星の物質で治療ができた。
しかし、大きくなって考古学者になるという夢をかなえたその、かつて子供だった青年は真実を知ったのだった。
船の歴史とこの星の歴史、それぞれの言語を調べた青年は、小さなすれ違いに頭を抱えた。
この星に降り立ったころの昔の者達は、解読の間違いをしていた。
十数年前、移住希望者を見たこの星の人達は「なまけもの」と言っていたのだ。
考古学者の青年は、この星の者たちとそう違いない姿をしているが……。
昔の移住希望者達は、その星に住む「なまけもの」という生物にそっくりだった。
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