第6話 とりあえず、寝床が欲しい

ダンジョンからの帰り道、クロはあることに気付いた。

「私、家が無いんだった!」

そう言うとシロは

「じゃあ、こっちの世界のお母さんに頼んで一緒に暮らす?」

と言ってきたが、そうか、中身はシロでも外はナタリワちゃんだからお母さんが居るのか。

もしそれが出来るなら予定していた野宿を避けることが出来る。野宿すると虫で肌が荒れたり夜風が冷たいことがあって寝付けなかったり、色々辛いのよね。

「もし、出来たらで良いんだけどお願いしてもらえる?」

「うん!どうにかして説得してみる!このままじゃクロ姉なら野宿とかやりだしてお肌の調子が悪くなる未来しか見えないし?」

シロにはお見通しかな…まぁその通り、家が無ければその予定だった。

疲れた体を動かして、そこまで距離もなかったはずだが漸くシロ、もといナタリワの家へと着いた。

「お母さんただいま〜!」

「あらおかえり。…えっと、そちらの方は?ナタリワの知り合い?」

「うん!一緒にパーティを組むことになったんだよ!けどかくかくしかじかあって家が無くて野宿することになっちゃうらしいの。だからうちで一緒に住みたいな〜?」

いきなり知らない人と住むのはハードルが高いわよね…先ずは自己紹介しないと失礼だわ。

「ナタリワちゃんとパーティ、ペアを組むことになったクロティルド=スカラフィヌです。今は戦士として剣を使って戦っています。色々事情があって家が無いので、いきなりで申し訳ございませんが、数日だけでも泊めて頂くことは出来ないでしょうか。よろしくお願いします」

ナタリワのお母さんはまだ眉間に少し皺が寄ってるようですね…無理もないでしょう。

「ナタリワの母のフルール=フィロソワです。少し迷ったのだけれど、ナタリワが選んだ人なら歓迎するわ。いくらでも居てちょうだいな。そのかわり、色々とお手伝いも頼んでいいかしら?」

なんて優しい母なのだろう。フルールのご厚意によって、野宿という選択肢が消えたことはものすごく良い事だ。それにしても外から見た時と同じ様に家の中もお花が飾ってありますね。

「もちろんです。以前料理もやっていまして、大方の家事なら出来ると思います。後、質問なんですがお花好きなんですね」

「えぇ、そうね。子供の頃から花を愛でるのが趣味でね、将来は花屋さんになる!なんて言ってたかしらね。まぁ今では働いているのは夫で、私は家事と趣味の花になってるけどね」

やっぱりお花が好きなのね。名前のフルールも相まっているのかしら?私もお花は良く育てていたけれど、長持ちしないで枯れちゃうのよね…

お水も適量あげているはずだし、しっかりと管理していたのに何故なのだろう。

「とりあえず、これでクロ姉も帰る場所が出来たし夜ご飯でも食べよう!今日はなあに?お母さん」

「そうねぇせっかくだしクロに作ってもらおうかしら?お願い出来る?」

「はい!是非作らせていただきます」

久々のシロとの食事だし、あの頃食べたあれでも、いや、今はお金がそんなに無いから貧しかった頃作った思い出のやつにでもしましょうか。

あれやこれやと考えていると

「夜ご飯代はクロ、貴方が来た記念として少し高めに払わせてもらうわ。自分の好きな物を作って欲しいねぇ。私も食べてみたいし、実際後者が本音なのだけれど」

そう、笑いながら言ってくれたのでやっぱりシロと父、私との思い出の料理のボア肉のストーにしましょう。

「それではお言葉に甘えて、ボア肉のストーを作らせてもらいます。」

「すとー?聞いたことの無い料理ね。貴方の国の料理かしら?どんな料理が出てくるのか楽しみねぇ」

こっちの世界ではストーという料理は無いのか。それじゃあ是非食べて貰いたいですね。あれはとっても美味しいんだもの。

美味しいからお腹にお肉が付いちゃうのよね。困ったものだわ。

「クロ姉!私も一緒に買い物着いてく!」

「分かったわ。じゃあナタリワも一緒に行きましょう」

「じゃあ行ってくるね!お母さん!」

シロと楽しく会話をしながらお肉と一緒に煮込むお野菜を買った。こちらの世界のボア肉は少し柔らかそうで鮮やかな赤色をしていた。昔よりも美味しい物ができる気がした。

「ただいま帰りました。台所を使わせて貰いますね」

まずは野菜を一口大よりも大きめに切る。

そしてボア肉は煮込むことで、柔らかくなって少し崩れるから大きく切る。

スープには赤ワインやトマトを使う。

ここで少しコクを出すためにバターも加える。

トントンと軽快な包丁の音が、

ザクザクと野菜の音が、

グツグツと肉を煮ている音が、

もわもわと美味しそうな香りが家に広がった。

「へぇ、これが貴方の国の料理、ストーなのね。肉と野菜を一緒に煮たのかしら。この国のシツーと似ているわね。」

どうやらこちらの国にも同じ様な料理があるようね。ストーとシツー、なんだか言葉も似ている気もするわ。

「うん、これは美味しいわ。本当に。ボア肉を使っているから臭みがするのかと思ったら全然しないのね。煮込まれて柔らかく、口の中でほろほろと溶けていく様な感じだわ。病みつきになってしまいそうね」

そこまで褒められると作った甲斐があるってものよね。シロは、少し涙目に見えるわね。思い出させちゃったかな。さて、冷めないうちに私も食べましょうか。

「クロ姉、これ美味しいね!」

「良かったわ。フルールさんにも気に入って貰えたようで嬉しいです。今度はシツーも作って貰いたいですね」

ほんと、シロは体だけじゃなくて心も大きく育ったのね。昔だったら泣きついてきたのだろう。

「また今度、シツーも食べて見てほしいわ。ストーと似ているけれど味は意外と違うのよ。貴方の寝る場所なんだけど、部屋は生憎埋まってるのでナタリワの部屋で布団でも敷いて寝てもらおうかしら。これからもナタリワをよろしくお願いしますね」

「こちらこそ、家に泊まらせて貰う以上精一杯お手伝いさせて貰います。よろしくお願いします」

異世界に飛ばされて、強かったはずの私は初心者と同等、若しくはそれ以下の戦士になってしまった。それに大きな不安を感じていたが、妹のシロであるナタリワに会い、その母に会い、家に泊まらせて頂けるということはありがたいことだ。その感謝の気持ちも込めて、よろしくお願いします、と言った。

「クロ姉、私の部屋はこっちだよ!」

夜ご飯を食べた後、お風呂に入り、寝る為にシロの部屋を案内してもらった。

「ここがナタリワの部屋なのね。窓際には、カランコエ?」

あの花の形は十中八九カランコエだろう。昔枯らした事があるが、綺麗だなと思っていた。

「流石クロ姉、昔枯らしてたもんね?」

「ちょ、今思い出して笑ってたでしょ!」

「だって、クロ姉育てるの下手だったもん」

事実であるが故に何も言えない。しょうがないじゃない…何をしても枯れちゃうんだもの!

「もうっ、早く寝るわよ!明日はダンジョンには行かないで武器や装備を揃えに行く予定でしょ?今日の疲れを取りましょ」

「照れ隠ししてるクロ姉可愛いね〜。よし、じゃあおやすみ〜」

「か、可愛っ…お、おやすみ」

私が可愛いとか、そんな訳ないじゃない。それならシロの方が断然可愛いわ。私なんて愛想が無いって陰口叩かれていたし、美人と言われたことはあっても可愛いなんてシロとかしか言わなかったわ。

明日は装備を揃えるために買い物に行く、何故か転生する前の装備は無くなって、頼りない普通の剣に軽防具になっているからね。

床に敷いた布団に横たわると自然と瞼が重くなり、1分もしないうちにこの世界から夢の世界に転じた。

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