第5話 あの姿ってクロ姉だ!

パーティを募集して早3日、一向に組もうとする人は居るはずがなかった。

諦めて晩御飯でも食べて寝ようと家に帰った。

「ナタリワちゃんお疲れ様。最近は表情が暗いねぇ?何かあったのかい?」

「うん、今パーティを探してて、でも全然組んでくれる人が居ないんだよね…そりゃあ当然組めるなら強い人と組みたいもんだからね」

「あら、それは残念だったね。ほら貴方の好きな鶏肉のジャンブル焼きよ。食べるもん食べれば元気が出るよ」

「うわぁぁあぁ!美味しそぅ…じゅるり、いただきまーす!」

とりあえずパーティの事は今は考えないでジャンブル焼きをたらふく食べちゃおう!

「美味ぁぁい!こりゃ元気がわんさか出てくるってもんよ!」

「貴方なんかおっさんみたいになっとるよ…」

「美味しいんだもん!」

本当に美味しいんだからこればかりはしょうがないよね。

「はいはい、ご飯のおかわりはいるかい?」

「いる!大盛りね〜!」

ご飯と合いすぎて太っちゃうよ…「はいよ。この1杯で終わりなさいよ。太るわよ」

あれ!心の声読まれてる!

「し、失礼なっ!運動してるから大丈夫ですー」

こんな会話、昔も良くしてたなぁ…クロ姉にまた会いたいなぁ。転生ってことは死んでる訳じゃないよね?ならまた会えるかも!

明日もパーティ探さないとだし早く寝よう!

「おやすみ!」

そう言って、布団に横になって数秒で睡魔にとらわれていた。

夢を見る。それはそれは楽しい会話。特に重要でもない、なんてこともない、そんな会話だ。重要ではないけれど、当たり前ではない。世界はそんな物で溢れているのだろう。当たり前なんてものは存在しない。本当は全てが偶然なのかもしれない。あぁ、全てが必然なら、それは

残酷なのかもしれないな。

朝早く目が覚めた。絶好の晴れ晴れとした天気で気持ちがいい。

今日も今日とてパーティ探しへれっつらごー!

ダンジョンで体を動かしてからにしようかな。

行ってきます、と元気良く外へ飛び出した。

いつもと変わらない風景、この世界に来てまだ4日目だけどだいぶ慣れた気がする。けど、見知った顔を見つけた。

なんで?最初はそう思った。だが次の瞬間、涙が溢れそうになって顔を押さえた。

そして、勇気を出して話しかけた。

「私と、パーティを組んで貰えませんか!?」

なんか久々に話そうとするとこうも変な感じになってしまうのか。

あ、ちょっと不審に思っちゃうかな?

「-私はクロティルド=スカラフィヌよ。よろしくね」

やっぱり!クロ姉だぁ…もう会えないかと思ってた…

「後、言い難いことなんだけど。」

なんだろう。

「実は私は元の世界ではある程度名が知れていた程の戦士だったの。けど、十中八九あの魔道士が原因だけど、この世界に転生したの。それで最弱戦士になったみたいなのよ。おかしな話でしょう?」

クロ姉もあの黒い魔道士が原因なんだ。あれ?でもクロ姉はそのままの姿で転生してるのは何でだろう?

私はナタリワとして転生したのに。

というか、クロ姉が最弱戦士に…一緒に強くなれるかな?

こうなったら私って気付かせなきゃ!

「うん、おかしな話だね。けど実は私もそうなんだ」

クロ姉は驚いていた。当然、いきなりそんな事を言われたら誰だって驚くだろう。私だったら怖くなっちゃうし。

だから、ここで何日かぶりにあの言葉を言おう。

「そうだよ?クロ姉?」

目が点になるとはこの事か。そう思うくらいにはクロ姉は静かに驚いていた。ぽかん、って音が鳴りそうだった。

「シ、シロおぉぉぉ!あの時、家に戻れなくて、ごめんねぇ…」

そんな事を謝られても困る。誰も悪くないもん。いや、あの魔道士は悪い。絶対悪い。けどクロ姉は絶対に悪くない。

だからしっかり伝わるように思ったことを言葉に替えて気持ちを込めて言った。

せっかくクロ姉とパーティ?(2人だからこの場合はペアって言うのかな)になれたんだし、早速ダンジョンに行ってみよう!

「とりあえず、ダンジョンに行きましょうか」

「うん!クロ姉とダンジョンは初めてだなぁ!」

やった!初めてのクロ姉とのダンジョンだ!

けどクロ姉は少し困った顔になってるなぁ。弱くなったことが気になっちゃうんだろう。頑張って2人で強くならないと!

「ファイアル!」

いつもと同じ魔法でゴブリンやスムリンを倒していた。

一方その頃クロ姉は初心者冒険者みたいに動いていた。

クロ姉本当に弱くなっちゃったんだ…

どうにかして元の世界に帰るには、恐らく何か目標を達成しなければならないだろう。それも、今の力じゃ到底クリア出来ないような大きなもの。その為にも強くなるしかないんだ。

「あの魔道士は何故私たち"だけ"を狙ったんでしょうね」

それは確かに疑問に思っていた。周りには他の人もいたのにも関わらず、私たち、シロと父の2人だけこっちの世界に来たのは、やっぱり何かしら目的が待ち受けているんだろう。

けどそんな事をいくら考えたって答えは見つかるわけが無い。

「それは分からないよ、クロ姉。けど確かなのはひとつだよね?」

「そうね。せーので言う?」

せーの!勢いよく言った。

「強くなる!」「強くなるわ!」

クロ姉もちゃんと同じ意見だった。当然と言えばそうだけど。

強くなれるようにダンジョンでの訓練を頑張ろう。そう思える様な一日になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る