第4話 私、弱くないですか?
目が覚めた。辺りは木漏れ日の差す森の中だった。ドラゴンと対峙し、謎の魔道士に燃やされた私。
じゃあこれは夢?そう思ったクロティルドは頬を抓ってみる。
痛い、普通に痛い。ってことは現実なのか。
まさか、転生…?あの本にも載っていた、あれ?
有り得ない。有り得ないと言いたい所だがこの身が助かっているということが確固たる証拠であった。
「とりあえず、この森を抜けましょうか。そうしないと何も始まらないわ」
30分程歩いていると小さな町に出た。
その際に、周りの情報を見て回り、元にいた世界と似ていることが分かった。
ダンジョンが存在するということ。
即ち私の昔の第2の家と言っても過言ではない物だ。
今身に付けているのは手に馴染むドラゴンの鮮血と灰の付いた剣とボロボロになった傷だらけの防具だった。
こちらに来ても装備は何も変わらなかったようだ。だがいくらか体が重く感じ、
この身ではどのくらい動けるのかが気になりダンジョンへと赴いた。
「……?弱い、弱すぎるわ、ゴブリンと同等の力…?何が起きたの…?」
かつて元の世界で最強と称えられたクロティルドは、最弱の戦士へと化していた…
恐らく転生によってアビリティが大幅に低下したのだろう。
そんなことを周りの他の冒険者は知るはずもなく、何も気にせず通り過ぎる者、嘲笑う者、色々な冒険者が居た。
このままでは身が危ない。強くなるにもこの弱さだとどうにも出来ない。パーティを組むしか道は無さそうだ。
そう考えたクロであったが、もちろん、そんな弱い戦士と組もうとする者など現れるはずが無かった。
今まではこんな経験を味わった事がなかった。
今まではモンスターを蹂躙していた。
今まで、私は、心の中で言いかけてやめた。
転生当日は何も進展は起きず、ただただ絶望の雨が降り注いだ。
家も泊まるところも無く近くの空き家で雨宿り兼今後どうするかを考えていた。
「今の私はもはや初心者と同等、ましてやそれよりも下になっていた。あの日強くなると誓ったのに…」
ただこうして路頭に迷っていても仕方がない。
また明日にでもパーティを探すとしよう。
そうしてそのまま地面の冷たさを感じながら瞼を閉じた。
今日も頑張って探していこうと重い腰を上げたその時、目の前に少女が現れた。
「私と、パーティを組んで貰えませんか!?」
願っても無いことだったパーティ、だが目の前の少女は私と十歳くらい離れている様に見える。この子とパーティになるべきなのか。
今はそんな事は言ってられない。そう腹を括って言った。
「私も丁度今相手を探していたの。私はクロティルド=スカラフィヌよ。よろしくね」
なんでこの子は一瞬泣きそうになっていたんだろう。辛いことでもあったのかな。でも初対面で聞く訳にはいかないわね。
「あ、私はナタリワ=フィロソワです!よろしくお願いします!お姉ちゃんは、腰の剣を見る限り戦士?」
「え、えぇそうよ。」
「私は魔道士です。今からダンジョンに向かうので一緒にどうですか?」
確かに、初対面同士力量を見た方がいいけれど…昔の私とは遥かに違いすぎる程落ちてしまって、けどここで断る訳には行かないわね。
あ、転生の事はこの子には言っておこうかしらね。
「是非、お願いするわ。後、言い難いことなんだけど」
「なぁに?クロお姉ちゃん」
「実は私は元の世界ではある程度名が知れていた程の戦士だったの。けど、十中八九あの魔道士が原因だけど、この世界に転生したの。それで最弱戦士になったみたいなのよ。おかしな話でしょう?」
「うん、おかしな話だね。けど実は私もそうなんだ」
「え?君も、ナタリワちゃんもそうなの?」
「そうだよ?クロ姉?」
あれ、この聞き馴染みのある、昔懐かしい私の呼び名…
「今、なんて?クロ、姉?まさか貴方シ、シロなの!?」
「せいかーい!こっちの世界に来た時何故なのか分からないけど今は十二歳なんだよ!」
知らない間にこんなに大きくなっちゃって…
「シ、シロおぉぉぉ!あの時、家に戻れなくて、ごめんねぇ…」
「あの時は状況が状況だったし、クロ姉は悪くないよ?それで、やっぱりクロ姉もあの魔道士さんによって、こっちの世界に来たんだよね?」
やっぱり…?じゃあシロもあの魔道士が原因でこの世界にってことかしら。
「ええ。恐らくあの炎魔法が転生の原因なのでしょうね」
シロとはダンジョンには行ったことが無い。
強くなるにはやるしかないでしょう。
「とりあえず、ダンジョンに行きましょうか」
「うん!クロ姉とダンジョンは初めてだなぁ!」
シロに出来るならば、神が許すならば、こんな弱い姿は見せたくないけどね…
「ファイアル!えへへ〜、私小さいけど魔法が打てる様になったんだよ!」
「凄いわね。流石私の妹ね。それにしても…やっぱり私は最弱レベルの剣使いになってるわね」
「うん…クロ姉はこんなんじゃなかったよね。昔サラマンダーを倒した話もグバラシオスの話も聞いたし。」
妹にこんな姿見せたくなかった…見せるなら昔の、元の世界の最強戦士としての背中だったのに…
「あの魔道士は何故私たち"だけ"を狙ったんでしょうね」
「それは分からないよ、クロ姉。けど確かなのはひとつだよね?」
「そうね。せーので言う?」
せーのっ!
「「強くなる!」」
やっぱりそうだ、この状況を好転させるには、強さが先ず大事だものね。妹に気付かされるなんて、まだ心も弱かったのね。
「それじゃあ、これからはダンジョンで訓練をしていきましょう!」
「頑張ろう!クロ姉!」
こうして、最弱戦士となったクロティルドと
魔法を使える様になっただけの魔道士、シロディアーヌ、否、ナタリワの転生生活が幕を開けたのである。
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