第2話 尊敬するクロ姉

 物心がついた頃から母はいなくて父は病弱で、頼れるのはクロ姉、十も年の離れたお姉ちゃんだけだった。

いつもお姉ちゃんは明るく接してくれた。

けどある日、眠れなかった夜に声が聞こえてその声のする方へ向かった。

お姉ちゃんは透明な雫を目から出していた。その姿を見て私は思わず

「どこかいたいの?だいじょうぶ?」と声をかけていた。

「大丈夫よ。シロこそこんな時間にどうしたの?」

「クロ姉の声がして心配で来たの」

「そう…起こして悪かったわね。おやすみ、シロ」

そうクロ姉は微笑みかけてくれた。

だから私も笑顔でいようと幼いながら心に決めていた。

それからというもの、シロは家の雰囲気を暗く落とさないために

お姉ちゃんのように明るく接するようになった。

シロは憧れていたのだ、他でもない姉に。

「クロ姉は今日どんなモンスターを倒したの?」

「ちょっと大きいサラマンダーとかグバラシオスとか他にも色々よ」

そんな何度繰り返したか分からない会話をしていた時

「クロ姉って凄いんだね!」

「ありがとう。でもね、お母さんの方がもっと凄かったのよ」

お母さん、この言葉が出る度にクロ姉の顔が少し歪んで見えた。

そんな顔をして欲しくなかったからどうにか間を作らないよう

「私ももっと大きくなったらクロ姉みたいになりたいな!」

そう笑顔で言った。

そこから何日も何か月も経ったある日。

ダンジョンからモンスターが出てきたという知らせが入った。

以前クロ姉からは、ダンジョンの外と中では結界がはってあってモンスター達は地上には来ないから大丈夫よ、と泣いていた私に言ってくれていた。

だからこの時何かが起きたんだと少ない経験からも理解できた。

父と一緒にその状況を見守っていたが、冒険者であるクロ姉はモンスターの侵攻を食い止める為に集められていて、不安だった。

二人の前に何やら黒い外套を羽織っていた何かが立っていた。

咄嗟に危ないと判断した父はシロを守ろうとしたが病弱の為に立つことも儘ならず、

シロと二人で固唾を飲んで息を潜めていた。

その瞬間、眩い光と共に熱い何かが二人だけを襲った。

そう、黒き魔導士の炎魔法だった。

「最後に、クロ姉に、会いたかった、な…」




目が覚めた。

見たことのない天井だ。私は燃え尽きたはずでは。

「あら、今日は随分と早起きなのね、ナタリワ?その顔は、寝ぼけているのかしらね?ふふっ」

ナタリワ?私のことかな?

「う、うん。なんか今日は目が覚めちゃって」

「そう、今日もダンジョンに魔法の訓練に行くのかい?」

魔法にダンジョン、私には、いやシロには縁のない言葉だ。

おそらくこれは"転生"というものだろう。

以前父の書斎にあった転生に関する本を読んだことがある。

そこには、何かしらの《目的》が存在する。そしてその者には強力な何かが備わるはずだ、と。

今自分が考えるにあたり、もしかしたら強い魔法を打てるのでは?

そう思い立ち言った。

「それじゃあダンジョンに行ってきまーす!」

「いつにもまして元気だねぇ。行ってらっしゃい。気を付けるんだよ」

その返答に元気よく、はーい!と返し、

足は見ず知らずのはずの土地であるのにも関わらずダンジョンへと向けていた。

そういえば私ってこんなに目線高かったっけ?

あっ、ステータス表示なんて出来るんだ。

【ナタリワ=フィロソワ  十二歳  魔導士etc...】

ふむふむ、十二、歳!?私はついこの間まで七歳だったはずでは。

転生と同時に五年も経ったのか、はたまた違う理由があるのか、無知な私では分かりうることはない。

それよりも魔法を打ちに行こう!

「ファイアル!」

あ、あれれぇ…本当は顔よりも大きい炎が打てるはずなのに、

手のひらに収まる程の火の玉しか出来ない…

転生では強力な何かが備わるって書いてあったんだけどな?

せっかくクロ姉みたいに強くなれると思ったのに…

けどどうも1人でダンジョンに行くのはこのままじゃ危ない気がするな、パーティでも組んでみようかな!

そう思ったナタリワはギルドにパーティ募集をしに向かった。

もちろん結果はダメである。誰だって態々弱い魔道士と組もう何て考えるはずがないのだ。

そういえば今、この世ではない別の世界でクロ姉はどこで、何をしているのだろうか。

いったいあの魔導士は何者なのだろうか。

今回の転生に関しては十中八九あの魔導士が原因だと思われる。

果たして父はどうなったのか。

疑問は尽きることなく出てきた。

ただ今こんなちっぽけな私にできることは、強くなる。

それしかないと感じた。

だからこそパーティを組みたい。

他でもない、尊敬し憧れるお姉ちゃん、クロ姉を目指すならば。










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