君にチョコは渡せない

ShiotoSato

君にチョコは渡せない

 2年前の今日。

––––雪が降っていた。


「お返しはいらないから」


彼女は僕にチョコを渡すために、僕の所まで来てくれて。


びっくりして、けれど僕は何も言えずにそれを受け取る。


…彼女は思い詰めたような表情をしていた。

その理由はなんとなく分かっていたけれど、結局そのまま彼女は帰ってしまって。


胸が苦しくなる。


そう…まだ幼かった頃。


「––––バレンタインデーには私がチョコ渡すから、ホワイトデーにはお返し、ちょうだい」


「うん」


今になって考えてみれば、それが彼女の告白…というか好意の表明だったんだと思う。


僕もその気持ちは同じだった。





 1年前の今日。

––––雲一つ見当たらない晴天。


「…今日はお日様が気持ちいいね」


うん…そうだね。

僕も本当にそう思った。


「はい、これ。…お返しはいらないから」


そして、彼女は僕にチョコの入った小包みをくれた。


「じゃあね。また来るから」


そのまま彼女は立ち去ろうとして。


必死に呼び止めようと声を出す。

けれど、彼女の耳には届かなかった。


…届くはずがない。





 …そして今日。

––––曇りとも晴れとも言い難い、複雑な空。


その下で僕は彼女が来るのを待っていた。


辺りを見回すけれど、人影は見当たらない。

何せここは山の上だから。


それでも僕は––––


「––––元気だった?」


不意に横から声がして。振り向くと、


「今日。何の日か忘れてないよね?」


そこに彼女が立っていた…。


「はい、これ。今年はちょっと失敗しちゃったんだけど」


可愛らしい小包みが差し出されて。

僕はそれを受け取った。


「あ、そうそう。ちょっとビターにしてみたんだ。何てったってもうすぐ大人だからね」


……。


「…それにしても」


……?


「もう、2年半になるんだね」


2年、半…。


「ごめん。何で急にそんなこと言うんだ…って思うよね」


…そんな風に思ったりなんか、しないよ。


「去年もその前もさ…私、"約束だから"っていう理由でここに来てた。でもやっと分かったの。

私が…ここに来る理由」


––––理由?


「––––私、お話をするためにここに来ているのかなって思うの」


……そっか。


「…ねえ。今日は私が話したから––––今度は、色んなこと…私に話して欲しいな」


……。

でも、そんなこと言ったって。


僕は君にチョコを渡せないんだ。

約束、果たせないんだ。


「違うの」


え––––?


「チョコじゃない。私が昔、あんな約束をしたのはそんな理由じゃなくて」


……。


「…たくさん、話したかったの。もっと」


彼女の頬を一筋の涙が伝って。


––––分かった。

僕は君にチョコを渡せないけれど、でも。


きっと、話に行くよ。


だから…泣かないで。




彼女はしばらくして、この霊園を去った。


空を見上げれば…一筋の光が僕の墓を照らしていた。














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