第5話 無人攻撃
「き、きみは、いったいだれだ。私はアメリカ合衆国・・・・・・」
「さきほど、核分裂物質をつんだ兵器が使用された。許可したのは、どこのどいつだ!」
大統領の首、のどがゴクリと動くのがわかった。
「アメリカ軍の最高責任者は私だ。きみはいったい・・・・・・」
「きさまか、どしがたいマヌケ野郎は! 市民のいるところで科学兵器など使用しおって!」
相手の怒号に大統領が押されている。たじろいで目線をきょろきょろさせた。
そこへ軍服の人物が入ってきた。かなり年配の男性で、頭のはえぎわも薄い。それでも
ギャザリング参謀議長は、電話機のスピーカーにむかって大声で聞いた。
「どこの国の部隊だ!」
「どこの国だと? 国ではない、この星を侵略しにきた軍隊だ!」
「ふざけるな、宇宙人とでも言うつもりか!」
ギャザリングは、テーブルをたたいた。おそらく怒りのあまり、TVで放送されているのを忘れている。
それに対し電話のむこうは、すこしのあいだ無音になった。
「・・・・・・待て、ひょっとして、この星は他星との接触は初めてか?」
「ふざけるな!」
ギャザリングはまた机をたたいた。
「・・・・・・くそ、どこまで
電話の相手はそうつぶやいた。そして、やや口調が変わった。
「あー、われわれは、この星ではない。ほかの星の者だ。地球の代表者と話がしたい」
ギャザリングがさらに怒った。
「地球の代表などいない!」
宇宙人は次になんと言うだろう。見ているぼくらまで静かに待った。しばらくして、また電話のスピーカーから声が聞こえた。
「われわれとコンタクトを取った者の座標を送る。きさまの左側にある機械をひらけ」
TVにも映っているが、ぼくらから見て大統領デスクの右だ。小さなラップトップ型のパソコンが置かれてある。
大統領が、そのラップトップをひらいて電源を入れた。
電話の相手が言った。
「しばらく待て、解析中だ・・・・・・よし、送れたはずだ」
その言葉どおり、ラップトップを見つめる大統領の顔がおどろいている。
ギャザリング参謀議長もおどろいているが、紙を持ってきて書きとめた。そして、すぐにカメラの外へとでていく。
「どうやってこれを・・・・・・」
大統領のつぶやきに相手が答えた。
「どうやら、こちらとそちらの技術には、大きなへだたりがあると言える。忠告するが攻撃はきかない。すみやかに代表者を探したまえ」
大統領がカメラ目線でにらんだ。きっと大統領は、相手もこのTVを見ていると思っている。
「私が代表だ」
「ちがう。銀河憲章七条へもとずき行動せよ」
いま相手はなんと言ったか。銀河憲章、そう聞こえた。国際連合憲章「Charter of the United Nations」と聞きまちがえたのだろうか。でも「Charter of the Galaxy」と聞こえた気がする。
「銀河憲章?」
大統領が思わずといった顔でつぶやいた。やっぱり、ぼくの聞きまちがいではない。
「そうだ。銀河憲章七条、第九項」
電話のむこうが答えた。さらにこまかく分かれるのか。第九項ってなんだ?
「星の代表が存在しない場合には、われわれと最初にコンタクトを取った者が代表となる」
むこうが説明する声に思わず、ぼくは金網から一歩さがった。最初にコンタクトを取った者。ぼくではないのか。
なにがどうなっているのか。さっぱり意味がわからない。でもアメリカ大統領は冷静な顔だ。
「きみたちのねらいが、わからない。だがここに
大統領の言葉を、電話のむこうが最後まで言わせなかった。
「馬鹿か、きさまは。よかろう。いまから1分後に、となりの部屋を無人攻撃する。なかの者を非難させろ」
大統領とカメラが、左にすこし映っていたドアへとむいた。
スタッフの待機室だったのか。そのドアから、スタッフが大勢あわてて飛びだしてくる。
最後のひとりがでてきて扉をバタン! としめた瞬間、ドアの隙間がピカッ! と光った。
だれなのか背広のスタッフがひとり近づいた。おそるおそるドアをあける。
部屋中のいっさいの物が消失していた。壁や床は、なにかが焼けこげたように黒くなり煙がでている。
「わかったか! もし戦闘行為を始めたら、これをきさまのケツにむかって撃つ。代表者との連絡を急げ、以上だ!」
そう言って、電話は一方的に切られた。
カメラのむきが大統領へもどる。だが大統領は、口をあけたまま固まっていた。
そして緊急放送も、とうとつに切れた。
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