第4話 スピーカーホン

 警備員は、TVのチャンネルを変えた。


 チャンネル6では、朝のニュースをやっている。


 チャンネル7は株価情報。金髪のキャスターがNYダウの株価だかなんだかを伝えていた。


 と、思った矢先だ。画面が切り替わり、はためくアメリカ国旗の映像になった。


 こういう映像、なにか映画でも見たおぼえがある。


「・・・・・・そうか、緊急放送だ!」


 次にでてきたのは、このアメリカでは有名すぎる場所。


 ホワイトハウスの執務室。重厚な木のデスクに座るのは、もちろんあの人。アメリカ合衆国大統領!


 歴代の大統領より若くて人気な、ルイス・ジェファーソン。その経歴も有名で、三〇代の若さでミシシッピの州知事になった。四〇歳を超えたいまも甘いマスクで、支持率の高い大統領だと聞いたことがある。


 大統領は落ちついた表情で、アメリカ国民を見つめるようにカメラ目線だ。それを見て、ぼくもすこし冷静になれた。


「これより、国家緊急警報をお伝えいたします。現在、ハワイ州上空にて国籍不明の飛行機が発見されました」


 あれが飛行機? どう見ても宇宙船だ!


事態じたい掌握しょうあくするまで、国民のみなさまには秩序ある行動をおねがいします。とくにハワイ州のみなさまは、戸外へでないようにしてください。繰り返します・・・・・・」


 いやな予感がひとつ思い浮かんだ。


「警備員さん、さっきのローカル局にもどして!」


 動転しているのか、警備員は言われるままにチャンネルをもどしてくれた。


 ローカルチャンネルは公共の電波ではなく、ケーブルになるので政府の緊急放送は流れていない。


 映像は、さきほどとおなじだ。巨大飛行船を映しだしている。でも、アナウンサーが緊急放送の内容は伝えていた。


「さきほど、政府より発表がありました。ハワイ島のみなさんは外出をひかえてください」


 だが、それもつかのま、アナウンサーが北東の空に指をさした。


「オアフ島の方角から、なにかきます!」


 カメラがその方向にふられた。ピントをあわせる動作が入り、戦闘機のむれが見える。


「F-14、F-15、いえ、おそらくF-22、F-22! アメリカの戦闘機です!」


 数は10機を超えていた。次々に巨大飛行船にむかっていく。そしてミサイルを撃ちまくった。だがミサイルは、バリアのまえでことごとく爆発していく。


 そして大きさはアリと巨像のようなもので、何発撃とうがビクともしない。


 ぼくはやっぱり、いやな予感がした。


「警備員さん、こういうときって、映画では・・・・・・」


 そうぼくが言うと同時に、アナウンサーが絶叫した。


「あれはなんでしょう! かなり遠くから白煙をあげてきます。戦闘機ではありません。ミサイルのようなものが、まさか!」


 終わった。通常のミサイルが通じない相手。なにを撃つ。核だ。ハワイ島もろとも吹き飛ばす気だ!


 しかし巨大飛行船にむかったミサイルは、とつじょ上に方向を変えた。そのまま上昇し、空のかなたへ消えていく。


 アナウンサーがさけんでいた。


「さきほどの大きなミサイルは、なんだったのでしょうか!」


 おなじTVを見ている警備員も気づいたようだ。


「あれは核ミサイルだったのか。核ミサイルを、ハワイに!」


 警備員は、TVをさきほどのチャンネル5にもどした。


 画面に映っているのは、まだホワイトハウスの執務室だ。大統領に政府の高官が近づいた。なにかを耳打ちしている。


 大統領はそれを聞くと、おどろいた表情をしたが、すぐに冷静な顔を作った。


「ただいま、わが軍の攻撃は失敗に終わりました。しかし、ハワイには大規模な海軍の用意があり、国民のみなさまには・・・・・・」


 そこで、ありえないことが起こった。大統領のデスク。大きくて高級そうな木造デスクの上にある電話が鳴った。


「だれだ、回線を切り忘れたのは。放送中だぞ!」


 大統領が怒っている。すると、カメラの外から声がかかった。


「切っております!」

「ならば、なぜ電話が鳴っている!」


 しばらくして、またカメラの外から声がした。


「回線がハッキングされたもよう!」


 大統領はおどろきのあまり、目を見ひらいて鳴りひびく電話を見つめた。


 このタイミングで「ハッキング」と言えば、相手は現在戦闘中の飛行船しかない。


 どうするんだろう、そう思った。すると大統領みずから、通話ボタンを押した。


 なんと、大統領は電話にでるつもりだ。それも受話器をあげていない。スピーカーホンだ!


 かなり威圧のこもった声で大統領が語りかけた。


「私はアメリカ合衆国大統領、ルイス・ジェファーソンだ」


 大統領は相手の反応を待った。だが応答がない。大統領は言葉をつづけた。


「現在、きみたちは重大な領空侵犯りょうくうしんぱんをおかしている。ただちに退去を命じる。さもなくば」

「だれが大量破壊兵器をつかいやがった、このくそったれが!」


 いきなりの大声に、大統領の顔がこわばった。

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