18.新しい仲間
「そういうわけでマナさんとは話がついているから、カレンは二人と行動をともにしなさい」
「嫌です。黒魔女様のお力になれるのは大変喜ばしいですが、どうしてこのような男と……」
翌日、もう一度医務室に運ばれた紅葉のもとを訪れたアッシュは、昨日のマナとの会話を掻い摘んで説明した後でそう言ってのけた。
反射的に兄の言葉に反駁するカレンは、ベッドの上で上半身だけ起こした紅葉を睨みつける。
彼女の視線に思わず紅葉もたじろいだ。昨日散々追い回され、あげくに次に顔を見せたらただではおかないと釘を刺してきた彼女に、まさかこうも早く再会することになるとは思わなかったのだ。
それも、今後は共に国を救う仲間として、紅葉達と行動を共にするという。
果たして、そんなことはできるのだろうか。紅葉の胸には心配しかない。
なにせ、昨日の一件で険悪になってしまった彼女との関係は、これっぽっちも直っていないのだから。
「おや、昨日英雄様の能力検証の時のことを、カレンはまだ根に持っていると」
「……当たり前です!」
昨日のことを思い出してなのか、やや奇妙な間を空けてからカレンは言った。ぐぬぬと唸る彼女を見て、アッシュはやれやれといった様子で肩をすくめる。
「いやいや、カレンも分かっているだろう。初めて能力を行使するときに事故が起こることなど、よくあることだ」
「それは、そうですが……」
「今回の件だって事故ではないか。彼に悪気はなかった。それで責任がなくなるわけではないが、その責任はカレンを守り切れなかった私にある」
「守り切れなかった?」
アッシュの言葉に、思わず紅葉が反応する。能力検証の時、アッシュは特に何もしていなかったように見えたのだが、実はそうでもなかったらしい。
「私の能力は『不可視の壁を築く能力』で、あの時も英雄様とカレンの間に防御用の壁を張っていたのですよ」
結局、防御壁としての効果はありませんでしたがねと、アッシュは付け足した。
未知の能力を検証する際に最も必要なものは、周囲にいる人物や能力を使う当人の安全確保だ。昨日の件に関して言えば、事故が起きた原因は能力を使用した紅葉ではなく、カレンを守り切れなかったアッシュの力不足にあるとされる。
それが、この国の中での常識らしい。カレンもそのことは理解しているようで、自らを力不足だと口にさせた兄を複雑そうな顔で見ていた。
「それに、結果から言えば、カレンは胸を触られ唇を奪われかけたが、怪我や後遺症といった被害は受けていない。本来なら、笑い話にでもして終わらせるべき話だろう?」
「それは、そうですが……」
「それをお前は、個人的な羞恥心のために、彼を丸一日中追いかけまわした。それこそ、騎士として恥ずべきことではないか?」
アッシュに諭され、ついにカレンは何も言い返せなくなってしまった。本人でも頭では分かっているのだろうが、心の内ではどこか腑に落ちないといった様子だ。
それをアッシュは、騎士としての矜持をもってして彼女を黙らせる。どうやらそれは彼女にとってはとても大事なものらしい。
そしてついに、渋々ではあるが、カレンは紅葉達と行動を共にすることに同意した。
「第一騎士団の別動隊隊長として、カレンを任命する。隊で動くことはマナさんも英雄様も不慣れだろうから、カレンが取り仕切ることで円滑に物事を進めてほしい。必要ならば増員もしてくれて構わないが、そこは君達の判断に任せるよ」
アッシュは笑って、カレンを紅葉の前に押し出した。背中を押されたカレンが紅葉の前に立つ。
何を言えばいいのか戸惑う紅葉に、カレンは体をガチガチに固くなり、顔を少し赤くしながら右手を差し出した。
「よ、よろしく頼む……」
「ああ、こちらこそ、よろしく頼むよ……」
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