11.二人の騎士
「黒魔女が次の英雄とともに城を訪れたことはすでに伝えていただいております。あとは数日ほど待機し、相手方の準備が整い次第国王や大臣、有力貴族達との謁見の場が設けられます」
王城に入った二人は、城の廊下を歩きながら、今後の方針について話し合っていた。今は紅葉の能力について調べを進めておきたいというマナの意見で、城の裏手にある訓練場を目指しているところだ。
「いきなりそんな偉い人に会うのか。ちょっと緊張してきたな……」
「謁見の場で話す内容については、基本的にアオキさんの紹介と今後の方針についての二つになると思いますが、対応は基本的に私に任せてくだされば問題ありません」
「ごめん、自信ないから頼らせてもらう」
この世界に来たばかりの紅葉よりも、この世界の住人であり、メイヘルン家の末裔であるマナの方が事情をよく知っているのは明白だ。ぱっと見中学生くらいの、自分よりも幼い少女にそんな会議を任せるのは少々不安だが、自分が下手に口を出すよりはまだマシだと言い聞かせた。
「ていうか、それよりも……」
紅葉は辺りを見回すと、城に住まう貴族達や衛兵達の誰も彼もが、ぱっと二人から目線を逸らすのだ。紅葉が視線を外したところで、彼らは二人の顔を見てはひそひそと声を潜めて話し合い、紅葉達と関わらないよう一定の距離を保とうとしていた。
そんな彼らに聞こえないよう、紅葉はマナにそっと耳打ちする。
「なんか、城の人たちがやけによそよそしくないか?」
「庭園内でも言った通り、英雄がこの世界に呼ばれたということは、この国に滅びの危機が訪れているというとこになりますからね。気が気でなくなるのは当たり前ですよ」
マナの言う事ももっともだが、それを踏まえても彼らの様子は少々異様に見えた。
そいうよりは、彼らは自分達というよりは、マナだけを避けているような……?
「っと、ほら、着きましたよ」
紅葉がそんなことを考えているうちに、二人は訓練場に着いた。視界いっぱいに広がる草地に砂地、奥の方では木々が密集した地帯が見え、多くの環境での戦闘を想定した場所であることがよく分かる。
入り口付近には木製の様々な武器が置かれた倉庫があり、利用者はそれぞれ好きな武器を手に取って訓練を行っていった。
「この訓練場内では能力の使用も認められています。王城に着いたばかりではありますが、さっそくここで検証を進めていきましょう」
「そういうことでしたら、私どもがお力添えいたしますよ」
入り口で話し込む二人に話しかける声がして、二人が同時に振り向くと、軽鎧に身を包んだ男女の二人組がこちらに向かって歩み寄ってきた。
男性の歳は大体二十台半ばくらいだろうか。綺麗に磨かれた銀色の鎧には王国のエンブレムがデザインされ、腰には一本の長剣が下げられている。短く切り揃えた茶色の髪の彼は、柔和な笑みを浮かべにこやかに二人に声を掛けてくる。
女性の方は紅葉と同じかもう少し年上くらいで、身につけている革の脛当てや胸当ては、隣の男性の鎧よりも無骨な印象を与えている。栗色の長い髪は後ろで一つに束ねられ、切れ長の目はまっすぐに紅葉達を捉えていた。
「黒魔女様が王城に来られたとお伺いし、英雄様の能力の詳細がまだ判明していないとお聞きしましたので。お話を立ち聞きしていた無礼についてはお許しいただきたい」
「そうですね。世間一般には黒魔女と呼ばれている者で、現状はあなたがお話しした通りですが……、あなた方は?」
「これは失礼。私はアッシュ=ファン=リグレット。リィン王国第一騎士団隊長を務めている者です」
「どうも初めまして。妹のカレン=ヴェッキ=リグレットです」
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