7.異国の街並み〈前編〉
「結局、俺の能力は分からないままか……」
太陽が空の真上を少し通り過ぎたころ、紅葉はがっくりと肩を落としていた。
マナの丁寧な教えもあり、杖を使わずとも魔力操作をほぼ完璧に行えるようになっていた。しかし、肝心の彼の能力はまだなんなのかが分かっていない。魔力を溜めては放つ、溜めては放つを何度繰り返しても、紅葉の魔力は魔力のまま放たれるだけだった。
そんな彼に、マナは至って冷静に声をかける。
「分からなかったのは仕方ありませんが、何も得られなかったわけではありません。今回の結果は次に活かしましょう」
「活かすって、どうやってだよ」
「アオキさんは魔力操作を問題なくできるようになっています。それで能力の発動に至らないということは、能力を使うために何か条件が必要となる可能性があります。ですので、次からは条件を定めながら一つ一つ試していきましょう」
マナの言葉に、紅葉はため息交じりに返答する。
「能力を調べるのって、けっこう地道で大変なんだな……。もっとこう、ぱっと分かるような方法ってあったりしないのか?」
「残念ながらありませんね。能力は人によって様々ですから、検証に画一的な調査方法がとれないのです」
「それじゃあ、自分の能力がいつまで経っても分からないやつとかも出てくるんじゃないのか?」
紅葉の一言に、マナは思わず返答が詰まった。
ややあってから彼の質問に答えるマナだったが、その口ぶりはどことなくぎこちない。
「……この世界の人間の中にも、能力を持たない人は確かにいます。その原因がアオキさんの言う通り、能力の検証不足である可能性もけっしてゼロではありませんが……」
言葉を慎重に選びながら話すマナを見て、紅葉は彼女が言わんとしていることをなんとなく察した。
あくまで歴代の英雄達が全員能力持ちだったというだけで、彼には何の能力も持たない可能性も決してゼロではない。もしそうでなかったとしても、能力発動の条件が分からなければ、それは能力なしとなんら変わらない。
もしもそうなってしまえば、あの蛇のような魔物達に丸腰で立ち向かわなければならないんじゃないのか。そう思うと背筋に寒気が止まらなくなった。
「とはいえ、能力のない人はそう多くはありません。それに、能力なしだったとしても何もできないわけではありません。……っと、着きましたね」
マナの声を合図に、二人は目指していた王国、その国境門の前で立ち止まった。
外敵の侵攻を阻むために作られたのであろう、高く立派にそびえ立つ白い壁は、地平線の先からもはっきりと見て取れるほどだった。
そして、その正面にある門には王国のエンブレムが誇らしげに飾られ、入国しようと訪れる人々を厳かに出迎えている。
英雄達に守られ、千年の繁栄を極めた国がどれほどの力を持っているのか。門の前に立つ者は否応なく知らしめられることになるだろう。
他ならぬ紅葉もその一人だ。間近に見る国境門に圧倒され、落ち込んでいた時とはまた違う意味でのため息を漏らしていた。
そんな二人の元へ、鎧兜に身を包んだ二人の兵士が寄ってきた。どうやらこの場で入国審査を行うようで、二人の手には木の板で作られたバインダーと鉛筆が握られている。
「ようこそ、リィン王国へ! 入国前の審査をお願いしてもよろし――」
「構いませんよ」
言葉を途中で途切れさせる兵士達に、マナはフードを取り顔を見せる。
すると、兵士達はまるで見てはいけないものを見たかのように青ざめていった。
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