薄汚れたビルの隙間で

鈴音

ビル

ゴミと死体と薬莢の散らばるビルの隙間。数年前はこんな所までしっかり綺麗にされていたほどに豊かだったこの国も、頭のおかしい金持ちの戦争ゲームとやらの煽りを受けて荒れに荒れていた。


今じゃあ女子供は1人で出歩けず、若い男であっても拳銃をしっかり握りしめておかないといけないほど。そんな国で、いつ壊れるかもわからない、前時代的なクリップ弾倉の拳銃片手に歩く私は、いわゆる自殺志願者の様なものなのだろう。


まぁ、これにも理由はある。大体の人攫いは金持ちの道楽のためのおもちゃをゲットする目的、つまりある程度の小遣いなら懐に忍ばせているのだ。それを狙った誘拐犯狩りもこの国ではよく起きる。


私ももちろん、その1人。父は戦争で死に、母は攫われ、弟は拾い食いで食べた薬物で頭がおかしくなって自殺した。から、生きるためにはこうするしか無かった。


今日は、いつも来ないエリアまで足を運んでいた。よく行く場所で失敗して、顔を覚えられてしまったのだ。


ので、ここまで来た。腐ったなにかのにちゃにちゃした感触と、妙に甘ったるい嫌な匂い。ただ歩いているだけなのに不快感が凄まじい。


そうしてふらふら歩いていると、案の定背後からなにかが迫ってきた。胸元に忍ばせた鏡でちらっと確認すると、いかにもな感じのスーツの男がいた。


やけに仕立てのいいスーツにじゃらじゃらと悪趣味なアクセサリーをつけた男は、歩く速さを変えて徐々に私に近づいてくる。


私も気づいていないふりをしてゆっくり歩き、男が手を伸ばして…きたところで、ビルとビルの隙間のより細い路地に飛び込む。その瞬間に、手に持っていた拳銃を構えて、射撃した。


姿勢の悪い状態での射撃だったけれど、弾はまっすぐ飛んで男の肩を撃ち抜いた。しかし、浅く肉を抉った程度の怪我で、男は軽く怯んだだけ。すぐにポケットから大きな拳銃を取り出し、私に向けてくる。


路地は私1人でもぎりぎりなほどに狭い。狙いをつけるのは簡単だろう。だが、私に生き方を教えてくれたあの人の教えに倣い、すぐさま姿勢を低くし、射線を外す。


そのまま構え直し、男の足を狙う。次はきっちりと命中し、貫通した銃弾が後ろのコンクリートを割砕いた。


男はそのまま崩れ落ち、拳銃を手放す。逆に私は素早く立ち上がり、男から距離を取りつつ首元を狙って2回発砲した。


極度の緊張と興奮で気になっていなかったが、全てが終わって冷静になってから発砲すると、音の大きさに驚いてしまう。


狭い路地に、軽い射撃音がしつこいくらい反射するせいで、耳がおかしくなりそうだった。


だが、それでも私が生きて、男が死んだから気にすることでもないな。なんて考えて、金目のものを漁る。


そうやってまた、この路地の死体とシミの仲間入りをした男を見下ろしながら、ふらふらと家路についた。


今頃、あの人がうちに勝手に上がり込んで酒でも飲んでいるんだろうな。おつまみに何を作ってあげようかな。なんて、まだまだ生きることを考えるのは、とても楽しかった。

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薄汚れたビルの隙間で 鈴音 @mesolem

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