19 第十九話

「……あれ、ここは……?」


 メリアが目を覚ました。


「何から説明すれば良いかわからないけど……ひとまず無事で良かった」

「アルバート……? そうだ、私たち魔物に殺されて……」


 この世界に来る直前の事を思い出したのかメリアは震え始めた。

 それもそうか。死ぬ恐怖は怖い。俺だってパニックにならなかっただけマシだったんだ。


「レインさん……?」


 どうやらカレンの方も目覚めたようだ。


「ちょうどいい、二人に色々と説明しておくことがあるんだ」


 俺は二人にこの世界の事や女神さまのこと、魔王の事などを説明した。


「それじゃあ、私たちは一回死んだって事なのね……」

「こうしてもう一つの命を授かったのです。女神さまには感謝しないといけませんね」

「はぁ……まさか最弱と呼ばれた私たちが魔王討伐を任されるなんてね」

「でも俺たち四人が揃えば大丈夫だ」


 レインは不安を拭いきれない様子の二人にそう声をかけた。

 

「そうね、今までもそうやって乗り越えてきたんだもの」

「そうですね。どのようなときでも私たちは四人で困難に打ち勝ってまいりました」

「これで四人が揃ったんだ。魔王だろうが何だろうが、俺たちの敵じゃない……!」

『ふっふっふ、随分と大きく出たものだ』


 突然の事だった。脳内に謎の声が響いた。


「何だこれは……!?」

「頭の中に声が直接……!」

『我は魔王。まさかここまでやるとは思ってもみなかったが、それでも我には勝てんぞ』

「それは……やってみなければわからないさ」

『血気盛んなのは良きことだ。ならばその先に進むが良い。そこで我は待っておる』


 それ以降声が聞こえることは無かった。


「魔王……声だけで凄まじい圧を感じたわ」

「まず間違いなく一筋縄ではいかないだろうな」

「ですが負ける訳には行きません」

「ああ、行こう。魔王を倒して世界を救うんだ」


 俺たちは魔王の言う通りに、廊下を進み始めた。





「よく来たな」


 豪華絢爛に装飾された空間の奥に、これまた豪華な玉座に座る一人の魔族がいた。


「魔王……なのか?」

「その通り、我こそが魔王だ」

「一体何が目的で世界を蹂躙しているのです!」

「目的だと? そのようなもの、我に必要は無い。力こそが全てであり、力なき者は力ある者に奪われひれ伏す。それこそが我の掲げる正義だ」


 魔王を名乗る魔族はそれが当然のことだと言うように強く言い放った。

 そんなの、許せるはずが無い。

 力ある者はその力を力なき者を救うために使うべきだ。


「そのようなこと、あってはなりません! 力ある者はその力を、力なき者を救うために使うべきです!」


 先に言われた。


「そうだ。俺たちが女神様の名の元、魔王……アンタを討伐する!」

「面白い。あの忌まわしき女神の見込んだ貴様らを、我自らが滅してくれようぞ!!」


 魔王は玉座から立ち上がり、巨大なハルバードを生み出した。

 あんなので殴られたら体が真っ二つになりそうだ。


「来い! 世界を救う勇者よ!」

「皆、行くぞ!」

「おう!」


 レインの掛け声と共に前衛である俺は前へ出た。


「俺は右から行く。左は頼んだ!」 


 レインに左側を任せ、俺は右側から魔王を攻撃する。

 

「その程度の剣が我に通用すると思うな!!」

「ぐっ……」


 全力の一撃だった。今まで戦って来た魔物はこれで真っ二つになったが、魔王は違った。

 刃は頑強な鎧に阻まれ、返って来た衝撃が腕に響く。


「それならこれはどうだ!」

 

 俺に続いてレインが斬撃を入れる。

 俺と違ってレインは物理攻撃をメインにしている戦士だ。

 ロングソードによる攻撃は重さも切れ味も俺のそれとは違う。


 だが、それでも駄目だった。


「ふぅんっ!!」

「ぐぁっ……!?」

「ぅ゛っ……!」


 魔王がハルバードを横に振り、二人揃って弾き飛ばされてしまった。

 これは少し……いや、かなり不味い状況かもしれない。

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