20 第二十話

「この程度か? 全くもってつまらんな」

「ファイアボール!」

「むぅっ!?」


 魔王が俺たちにハルバードを振り下ろそうとした瞬間、後ろから魔法が飛んできた。

 

「やったか……?」

 

 メリアの放った魔法攻撃は魔王に着弾し、凄まじい爆発を起こした。

 いくら魔王と言えど、これだけの威力の魔法をまともに食らえばただでは済まないはず。


「ほう、中々良い威力だ」


 しかし期待とは裏腹に、魔王は平然と煙の中から姿を現した。


「そんな……全く効いていないの……?」

「いいや、全くと言う訳では無いな。少しではあるが奴の魔力が乱れた」

「ディアス、わかるのか? なら何か手は無いだろうか」


 近接攻撃も魔法攻撃も目立ったダメージにならなかった。

 恐らく真正面からぶつかっても駄目だ。


「ふむ、余もあれほどの強者とは出会ったことが無いのだ」

「そうか……」


 考えてみればそうだった。ああまでしてわざわざ俺に付いて来たんだ。

 今までに俺以上の相手には出会っていないと考えるのが自然だった。


「いや、攻撃が効いているのであればまだ可能性はある。俺とアルバートが奴の相手をしている間に、二人は出来るだけ魔法攻撃を当ててくれ。少しでも火力を上げたいからサポートもいらない」

「でもそれでは二人が危険すぎるのではありませんか!?」

「いや、それしか無い。レインの言う通り、今奴に通用する攻撃はメリアの魔法攻撃だけだ」


 確かに前線で戦うのは危険だ。だがそれは今に限った話ではない。

 今までだって俺たちは前衛と後衛に分かれて戦って来た。

 サポートが無いというのは不安要素ではあるが、今この状況では贅沢は言ってられない。

 限られたリソースを少しでも有効利用するしかないんだ。


「……わかった。絶対に死なないでよね」

「おう、二度も死ぬつもりはないさ」

「行くぞアルバート!」


 俺とレインは再び魔王の元へと向かって行く。


「作戦会議は終わったか?」

「それがわかってて見逃すなんて、随分気前が良いんだな」

「ハンデだとも。そうでもしなければ貴様らは我には敵わないからな」


 随分と舐められたものだが、ハンデをくれると言うのであれば有効利用しない手は無い。


「しかし、それでもなお我に勝てるかはわからんな」

「余裕でいられるのも今の内だ。レイン!」

「ああ!」


 さっきと違って今度は二人同時に斬りこむ。

 

「うぉぉっ!!」


 片方が態勢を立て直している内に、もう片方が間髪入れずに攻撃を行う。

 それを繰り返し続けて魔王の隙を狙う。


「おお、良いぞ良いぞ。これでこそ戦いと言うものだ!」


 魔王はハルバードで攻撃を受け流すが、それでもさばき切れていないようだった。

 だがそれでも鎧に阻まれ致命傷にはならない。


「今だ!」


 レインの掛け声で横へ避ける。

 次の瞬間、魔王に魔法が着弾し爆発を起こした。

 メリアの魔法攻撃だ。彼女の詠唱が終了したのをレインは気付いていた。

 

「次!」


 メリアの声を聞き、俺たちは再び攻撃を開始する。

 また詠唱が終わるまでの時間稼ぎをしなければいけない。


「ふっ……ふははっは! それほどの戦闘技術を持っていながら、最弱の名を払拭することが出来なかった哀れな冒険者よ! そろそろ我も本気を出そうでは無いか!」

「何!?」


 耳を疑いたくなった。

 魔王はまだ本気を出していなかったというのもそうだが、それよりも……。


「何故アンタが俺たちが最弱の名を持っていたことを知っているんだ……?」


 魔王は元の世界における俺たちのことを何故か知っていた。

 そのことが気になって仕方が無い。


「ああ、そのことか。ふっ、今となっては隠す必要もあるまい。何を隠そう、我も貴様らと同じように別の世界からやってきたのだ」

「何だって……?」

 

 魔王の口から出て来たのは想像もしていなかった言葉だった。

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