16 第十六話
「だ、誰だ!?」
『話は後です。彼を助けたければ私の言う通りにするのです』
謎の声はそう続けた。
何が起こっているのかはわからないし、声に従って何が起こるのかもわからない。
しかし他に手は無いんだ。もう従うしかない。
「ええい、こうなりゃヤケだ! グランドキュア!!」
声の通り、レインに向かって回復魔法を全力でぶつけた。
「……がはっ」
「レイン!?」
今まで一切の反応を示さなかったはずの彼が、目に見えて苦しそうにした。
声に従ったおかげ……なのだろうか。
ただ、俺は彼を殺したいわけでは無い。このまま苦しみ続けてしまったらどうしようかと言う不安と心配で胸がいっぱいになる。
「うぐっ……はぁ……はぁ……。俺は……確か魔物に殺されたはずでは……」
「レイン……?」
「……アルバート? そうか無事だったのか! 他の皆は!?」
どうやらレインは正気を取り戻したようだ。
全く、一時はどうなることかと思ったが……これは謎の声に感謝をしないといけないな。
『感謝するのはこちらです』
「うわびっくりした!?」
「この声は……?」
俺だけでは無くレインも反応を示した。彼にもこの声は聞こえているみたいだな。
『説明が遅れてしまい申し訳ありません。私はこの世界を管理する女神です』
「女神様!?」
声の主は確かに自身の事を女神と名乗った。
当然信じられる話では無い……が、今の状況を考えると信じざるを得ないのかもしれない。
『はい、とても美しくて慈悲深い女神です。と、それは置いておいて……今この世界は危機に瀕しているのです。……復活した魔王によって』
「魔王……ですか」
聞いたことはある。と言っても俺が聞いたことがあるのは元の世界の物であり、この世界のそれとは違うのかもしれないが。
『魔王は悪逆の限りを尽くし、この世界を蹂躙しています。それを止めるために、私は貴方達をこの世界に呼び出しました』
「質問よろしいでしょうか」
『ええ何でしょう』
「何故、俺たちが呼ばれたのでしょうか。魔王を倒すというのであれば、もっと強い者の方が適任だと思うのですが……」
確かにそうだ。レインの言う事もわかる。
世界の危機になり得るだけの存在を倒すのに、何故最弱と名高い俺たちを……。
『失礼な話にはなってしまいますが……貴方方が最弱だったからです。出来るだけ元の世界に影響を出したくなかったのです。それに丁度皆さん亡くなっていましたので』
「ではやはり俺たちは元の世界では死んでしまっているのですね……」
『まことに残念ながらそうなります』
「……俺からも質問があります」
やはり俺たちはあの魔物に殺されていた。何もできずに呆気なく死んでしまったのは悔しいし悲しい。
しかし今は落ち込んでいる場合では無い。どうしても聞いておきたいことが出て来たのだ。
「貴方方……と言うことは、皆こちらの世界に来ているという事ですね?」
女神様の言葉によれば、他の二人もこちらに来ているのだ。
『はい。ですが正常に呼び出せたのはアルバートさんただ一人だけでした。魔王による妨害によって、レインさんを含めた三人はダンジョン内に暴走した状態で召喚されてしまったのです。今回のように光属性を持つ魔法をぶつけることで魔王の妨害魔法は消え去るのですが、私では下界に直接干渉することが出来ないのです』
「ということは他の二人はまだどこかのダンジョンに……」
「ああ、早く見つけて正気に戻さないとな」
レインも俺の質問から意図を汲み取っていた。流石は俺たちのリーダーだ。
『おっと、もう限界が来たようです。それでは幸運を祈ります。……勇ましい救世主たちよ』
女神はそれ以降声をかけてくることは無かった。限界と言っていたし、魔王の妨害とやらのせいなのだろう。
しかしこれで当面の目標は立った。他の二人がこの世界で生きているという希望もある。
何よりレインも一緒にいるんだ。
俺たち二人ならきっと何とかなる。
「……余のこと忘れておらんか?」
……そうだった。俺たち三人ならきっと何とかなる。
いや、三人だけじゃない。ギルドマスターもメアリーもいるんだ。
どんな困難だって乗り越えていけるはずだ……!
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