15 第十五話

 あれから少し経った頃だろうか。

 突然俺の元に名指しで依頼が舞い込んできたのだった。


 その内容はとあるダンジョンの奥底に現れた存在を倒して欲しいというもの。

 しかし妙だった。

 この依頼の対象となっているダンジョンは危険度がそこまで高い物では無いのだ。


 危険度が高ければそれ相応に高ランクの冒険者に依頼が飛んでくるのはおかしくは無いだろう。

 だがそうでは無いのだとしたら、何故俺に直接依頼をする必要があるのか。


 それは、依頼者となる冒険者パーティに直接話を聞くことで解明した。


 と言うのも、その倒して欲しいと言うのがあまりにも強すぎる存在だったのだ。

 それもただ強いと言うだけでは無い。

 明らかに異常な能力を持っているのだとその冒険者たちは語った。またその者が人間であると言うことも。

 

 ……心当たりが無いわけでは無い。

 常識をも塗り替える常軌を逸した力。それは俺の持つ物と一緒だ。


 もしかしたらと言う一筋の希望を胸に、俺はその依頼を受けることにした。

 




「なるほどな。それでその少ない可能性に賭けたと言う訳か」

「ああ。もちろん本当にそんなことが起こるとは思えないけどな」


 頭の中で繋がっているのか、ディアスは俺の考えをだいたい読み取っていた。

 そこまで知られてしまえばもう隠しておくことも出来ないだろうと俺は全てを話したのだが、彼は疑いもせず信じたようだ。

 荒唐無稽な話ではあると思うのだがな……。


 とまあそんなこともあり俺たちはダンジョンを進み続ける。

 ダンジョンの中にいる魔物たちも以前ディアスと出会ったダンジョンにいた奴らに比べれば大したことは無い。

 しかし、だからこそ依頼にあったような怪物が本当に存在するのかが怪しくなってくる。


「……ここか」


 最奥へとたどり着くと、そこにはこれまたディアスがいた所と同じような重厚な扉があった。


「……よし」 


 一呼吸置き、扉を開けた。中には一人の青年が立っている。

 

「……ッ!」


 その姿を見た瞬間、記憶が蘇って行く感覚が頭の中を占める。

 最後に見た彼の姿と、目の前の姿が一致している。


「レイン……なのか?」


 声をかけるも青年は反応を示さない。


「来るぞ」

「くっ……!」


 俺たちのリーダーと同じ姿をした青年は、剣を抜き俺に飛び掛かって来た。

 ここに来てから出会った誰よりも機敏で力強い動きだ。

 間違いなく、彼もステータスの上昇を受けている……!


「ヘルフレイム!」


 そうなってくれば、今までのままの俺だったら勝ち目は無かっただろう。

 しかし俺はここに来てからさらに成長した。

 上級魔法が使える今の俺だったら、レインにも勝てる……。


 だがそれでは駄目だ。駄目なんだ……!


「レイン……あんたが本当にレインなら目を覚ましてくれ!」

「おい貴様死ぬ気か!? 何をしているんだ!?」


 ヘルフレイムの炎が消えると同時にレインへと肉薄する。


「洗脳されているのか!? それとも操られて……うぐっ」


 肩を掴み言葉を投げかける。だがその間もレインは攻撃を止めない。


「き、貴様っそれ以上は……!」

「頼む、もう少し待ってくれ」


 レインを引き剝がそうとするディアスを止める。

 今ここで彼と離れたら、もう二度と会えなくなるような気がした。


 かと言って、俺にもどうすれば良いのかはわからない。

 このまま掴んでいても俺が死ぬだけだろう。


「レイン、どうしてなんだ……」

『アルバートよ、回復魔法を最大出力で使いなさい』


 その時、突如頭の中に謎の声が響いた。

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