人と喋りたい神様のお話

@kuruugingu

第1話

 我は神である。名前はない。


 信仰心をある程度集められている神は崇めている人間達から敬意と尊敬を込めて名を与えられることがあるが、我には関係のない話だ。…決して羨ましいとは思っていないぞ?


 ある時、我は我が住んでいる世界の下に根を張っている、人間の世界を観察していた。


 理由は単純、暇潰しだ。


 神には暇を潰せる何かが必要なのだ。


 神は長大な寿命を持っている。が、それ故に膨大な時間を過ごすことに対して退屈の感情を抱きやすく、常に暇潰しの手段を模索している。

 我もまた例に漏れず、暇を潰せるような面白い何かを常に探しているのだ。


 ──とはいえ。


 一つの劇を見終わった時、次に見るであろう劇が更に質の高いものであることを切に期待するように、暇を潰せば潰すほど次の暇潰しに求める期待値はどんどん跳ね上がっていく。


 他の神からすれば人間の赤子と同じようなものと認定されるような尻の青い神である我ではあるが、これでも神であるため永い永い時を過ごしている。

 無限とも思える時間に少しでも意味を見いだすため、面白いと思ったものには余さず手をだし、暇を潰すための道具とした。


 そんな中見つけたのが、この人間の世界だ。      

 元々、人間という種族の事は聞いていた。


 神と比べてあまりにも矮小で、吹けば飛んでしまうような信じられないほど脆弱な種族。しかし何故か、とても強い力を持っている存在だと。神に名を付けれるほどに。


 その時から我は既に興味を持っていたが、当時は他の事で暇を乗り過ごしていたため、そちらに意識を割く余裕がなかった。故に、今になって奴らの観察を暇潰しとしてしているのだ。



 しかし、見れば見るほど、人間というものが如何に奇妙な存在だということが良く分かる。

 我ら神は個体差こそあれど、大抵が万能の存在だ。基本的に他者の存在を頼りにせずとも生存活動を維持できる。


 対して人間はどうだ。一人では殆ど何もできず、集団で行動しなければあっという間に野垂れ死にしてしまうだろうと容易に想像できる個としての弱さ。

 繁殖をすることで種を維持することを前提として生まれた種族なのでそれは仕方のないことかもしれないが、それにしても脆い。

 更に不思議なのが、それ程までに生物としての欠陥を抱えていながら、何故か生物としての進化の予兆が一切見えてこないことだ。


 基本、生物というのは環境に合わせて進化を果たす。例えば魚は海で生きるために水中で息をするための術を身に付け、鳥は空で生き抜くために天空へと羽ばたく翼を手にいれた。


 しかし人間は、その身1つでは到底生き抜くことなどできない脆弱な身体を持ち合わせ、進化の余地など幾らでも持ち合わせているというのに、一向にその兆しが見えてこない。


 何故あれほどに問題のある身体を持っていながら進化の必要がないと判断されているのか。


 いや、分かっている。それに関しては答えは出ているのだ。


 人間は、生物としての強さは微塵も持ち合わせていないが、その代わりに、神にも匹敵するほどの頭脳を持ち合わせている。

 その頭脳を遺憾なく発揮し、知恵を絞って獲物を捉え、食を確保し、道具を使って寝床を確保し、夜風を凌ぎ、生き残る。生き続ける。


 神でもないのに、あれほどの知恵と思考。全く摩訶不思議な生き物だ。


 我の人間に対しての興味は尽きない。知れば知るほど、のめり込んでいく。


もっと知りたい。人間のことを。


 我の目線から見れば謎だらけの、あの種族の根幹を既知にしてみたい。


 そのためには、見るだけでは駄目だ。もっと深く、あの者達を理解するためには会わねば。


 会って話さねば。


 あぁ、脳裏に過った思考の何と素晴らしいことか!そうだ、最初からそうすれば良かったのだ!むしろ今の今までその発想が浮かんでこなかった我の矮小な頭が恨めしい。下手をすれば人間の者よりも小さいのではないだろうか。そうではないと切に願いたいが。


 もう、観察しているだけでは足りぬ。今すぐに降りるとしよう、下界に。


 なぁに、他の神もたまに人間と出会い、そして信仰心を貰っているのだ。我がこうしていきなり行動しようとも何ら問題はあるまい。

 そうと決まれば、すぐに行こう。さぁ行こう。さっさと行こう。


 そうして我は下界へと降り、降りた先で出会った人間に対し、一つの言葉を投げ掛けた。


 “我は神である。お前達人間に興味が湧いた故、神の世界より降り立った。さて、お主の名は、なんという?〟


 ……我ながら、なんとも尊大な言葉を吐いてしまったな。


 と、今となっては思うのである。

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