第8話 二人と大蛇

 目を覚ます。

 頭がぼんやりして、周りは暗くよく見えない。

 記憶を思い出してみる。さっきは確かあの大蛇にダウンさせられ、何とか意識のあるうちに仮面をその場にアギトに助けてもらう為に変身を解除し、投げおいた。

 あたりを見渡すが、暗く、周りからは独特な油と鋼鉄の匂いが染み付き、かじゃガシャと機械同士が擦れるような音が蔓延っていた。どうにか打開しようと明かりが何かと思い、手持ちのスマホを取り出そうとズボンのポケットを手を入れるも、そういえばあいつにぶっ壊されていたことを思い出し、がくりとうなだれる。

 今になってアイツの顔面を一発殴りたくなってきた。


「んだよ。もう起きちまったのかよ」


 そんな暗闇の中、何処からか飄々した声が聞こえてくる。

 姿形、どの方向からしたのかもわからないが、どいつがしゃべってんのかは一発だ。


「さっきのヘビ公かよ」


 何処からずるりずるりとアイの眼前にぬらりと現れ、その巨大な口から舌をだし、キリキリと笑っていやがった。


「もう少しばかりは気ぃ失ってもらうつもりだったんだかなぁ、まっ!えっか!五億はもう眼前やしな」


 大蛇は最初からオレにかけられた賞金以外には一切興味がないようで、おそらくはオレが今閉じ込められている空間は船の何処かの機関部って言ったところだろう。

 目が慣れてきたからか、少しずつ周りの状況把握ができそうにはなってくるものの、結局はそこまで此処も広くはないようで、壁から壁へ、3歩も横に移動すればすぐに壁についてしまうほどのせない四角形の空間だ。

 何処かに出口があるかとも思ったが、下手な行動などこいつが許すはずがねぇ、オレ一人での脱出は不可能か。

 そう判断するとアイは静かにその場に座り込む。

 しかし、その様子を大蛇はどうやら予想と外れていたようでまたアイの近くへ顔を出し話しかけてくる。


「意外だなぁ、てっきりもう少しばかり反抗くらいすると思っただがなぁ、まっ、報告どうりの飽きらめかいいってのは本当だったってわけか」


 報告?その一言がアイの頭に引っかかる。

 オレの賞金を手に入れる条件は生け取りをのはず。その条件が変わってさえいなければコイツは下手に生身のオレに手は出せねぇ。探るだけ探るのはありかもな。


「おい。さっきの報告ってのはどういう事だ?」


 大蛇はニヤリと笑うと「ケヒヒヒヒ!!」と気持ちの悪いキッショい笑いを浮かべながら、グネグネと体をくねらせながら余裕そうな笑みを浮かべ、口を開く。


「まっ、こっちの勝ち確だしまぁええか。」

「身長175cmで体重は62kgの20歳、趣味は漫画のコミックス集め、誕生日は8月の17日、夜は11時にはとこにつき、朝6時半には目を覚ます生活を送る大学2年生っだったっけなぁ」

 大蛇の野郎は愉快そうにオレの個人情報をバラしていく。嘘みたいだが、見事なまでに当たっていやがる。どうやらこっちの情報を持っとるっていうのはマジらしい。


「テメェの性格、体格、経歴ぜーんぶこっちわかってんだよ下院アイさんよぉ」


 だが、この閉鎖空間で自分よりあっと的なまでのアドバンテージを持つ敵が前にしても、何処か余裕そうな雰囲気を醸し出し、少しも臆する事なく、その場にあぐらを描いていた。

 その様子に大蛇は何処かイラつきを覚えていた。

(なんで五億はの野郎はこんな平然としてられる?もう一人いた壊し屋のアギトってやろうはおそらくは仮面を持っちゃいねぇ様子だったのに────まてよ)


「おい、五億!」


「テメェ!人を金の単位で呼ぶんじゃねぇ!」


「お前まさかとは思うが、壊し屋の野郎が助けに来てくれるとでも思ってんのかよ?」


 此処で初めて座り込んだアイの体が少しばかり前のめりになり、視線を少しばかり逸らすも、すぐにこちらの方を睨み返す。


「残念ながら、そいつはありえねぇ!」

「悪りぃが、やろうにお前を助ける義理の何がある?まずお前はおそらく助けに来てもらうために仮面を落としていきやがったが、それじゃどうしようもねぇだろがよぉ?!」


「どういう意味だ?」


「んなもん簡単よ!壊し屋の何処にテメェを助ける義理があるよ!」

「どういう経緯でテメェらが手ェ組んでるかぁしらねぇが、いくら狭い船内とはいえ此処を見つけ出すことは不可能よ!」

 大蛇は真っ向からアイの希望を否定する。その様子にはただの強がりでもこちらへの精神的は攻撃でもない、おそらくはやつの経験論的部分が織り込まれた、おそらくは本当にあったことをベースとした言葉であった。


「なぜそう此処に辿り着けないと言い切れる?」


「なぜってウナもん簡単よ!此処はなぁに精密機械に囲まれた密閉空間だからよ!」

「テメェはオレの動きに気付けてたよなぁ?あのヤギのやつだどうせ耳が良くなってでもいたんだろうからなぁなんとか突き止めてでももらうつもりだったんだろうがなぁ、此処に入るにはどうにか周りの機械を分解するか、ぶっ壊すかの二択。もし、此処の機械の一つでも壊してみろ!たちま船は大海原のど真ん中で制御不能よ!」


 おそらくコイツの言っていることはデタラメなんかじゃない。だが、コイツの言葉も理論もまだ足りねぇ。


「おいヘビ公!」


「うんだぁ?まだなんかあんのかよ?」


「テメェの理論には1つかけてる部分があるんだよ!」


「ほぉう?言ってみろよ五億?」


「アイツには姉がいる」


「─────くっ、がははははははは!!!」

 突然の今までと一切関係のない情報に大蛇の思考は一時、止まるも、すぐにことを理解し、何を言っているのかと思わず吹き出してしまう。


「ごっ、五億さんヨォ、そいつとさっきの話のどこに繋がりがあるってんだよ」

 ぉ」


 大蛇はこちらをケラケラと笑いながら、軽くアイの方の顔を覗き込むが、その顔には少しの迷いもなかった。


「いいこと教えてやるよ」


 アイはその場に立ち上がり腕を組みながら生意気そうな笑いを浮かべてこう答える。


「アイツは重度のなんだよ!姉貴に走れと言われたら一周し!オレを守れと言われたら守る馬鹿野郎さね!」


 その瞬間周りの機械を粉微塵に破壊し、怒号がエンジンルームに響きわたり、そして太陽光の挿す光のバックに、白い体に、金色の2本のツノを携え、道中拾ってきたであろう斧と鉄パイプを握りしめたそいつが現れた。


「元気してたかよ?旦那?」


「おせーよ」


 しかし、その時大蛇はこの時誰よりも早く、愛を掴み掛かりそのまま逃走を図ろうとアイの方に全身をダーツのように垂直に伸びかかろうとするが


「わりーな!蛇!」


 先ほどがらがらどんが蹴り上げた鉄破片が蛇とアイの周りに狙い風を鳴らしながら落ちてくる、完全に予想外の攻撃だったのかその時蛇の体に数個の瓦礫が突き刺さり赤色の液体が吹き出すが、すぐに透過するようになってしまい、さらにアイの方はさっさとがらがらどんに担ぎ上げられその場から二人揃って消えてしまっていた。


(クソが!逃げられたのは問題じゃねぇ、ただ───ただ───よりにもよって

 攻撃が当たる瞬間を見られた!)

(あいつらだけは────)

(あいつらだけは───────)

「生かしちゃいけねぇ!!!!」

 残された臭いを辿りに豪族を奏でながら大蛇、インビジブル13は追跡を開始する。

 しかし、一つ大蛇の中には謎が残っていた。それは【なぜ爆発は起きなかったのか】。それである。


(あの時。確かにやつがエンジン周りを破壊しながらこちらにやってきたのを見たが、一才の爆発は起きていなかった。いったい・・・・。)


 しかし、その答えな意外なほどあっさりと蛇が暗い鉄とオイルの洞窟から出た瞬間に理解できた。

 そしてそれと同時に大蛇は笑いと自分が何と相対しているかを思い出す。


「ついてやがる・・・・・・!」


 そこに写っていたのは、大蛇の想像していた大海原などではなかった。


「いかれてるよ。テメェらよぉ」


 大蛇の視線の先には本来の到着地点である港。

 その港が写っていた─────!


 ちょうどその頃船のあたりをアギトがアイを抱え込みながら走っていると、愛が話しかけてくる。


「しかし、アギト?」


「なんだ?」


「助けてくれたのはありがたいのだが、しっかしどうやって船を動かしたんだよ?少なくともオレの記憶では到着まであと1時間はあったと思うが」

 正直、どうやったってオレがどのくらい気絶していたかは解らないが、あの時の蛇の喋りからしておそらくは数分ほど、とてもこんな短時間で港まで着くなんて不可能だ、そんな事不可能に決まっている。

 するとアギトは自身の足を手で叩く。


「これ使ったんだよ」


「足?」


「コイツで船の後ろをおもいっっっっきり!蹴ったら、軌道操る力だとてっきり思っとったが、どうやら速度もある程度操れたらしくてな、何百発も蹴ってどんどん加速させたんよ!」

「とりあえず、コイツつけたら蛇の動く音がなんとなく感じ取れてただろ」


愛はこの時まですっかり忘れていたが、あの蛇が周りの壁や床を抜ける時に「ぬぽり」とした音が聞こえてきていた。あとはそいつを頼りに逃げていたのだと、思い出す。


「そん音頼りに場所を探ったら旦那がいたのが機関室だってことがわかったが、船員どもが「そこへは入れん!」「下手に今いじれば爆発してしまう!」って騒ぐんで、さっきのやり方で蹴って港までさっさと持ってって、あとはご覧の桃李ってことよ!」

 「は?んな無茶苦茶な──────えっ?ほんとなの?」

 そんな言葉がアイの口から溢れる。否定し難き事実の証拠が残る今、その言葉は本当で、信じる以外に、この状況を説明できない今はどうやら信じるしかないらしい。

何処かでアイはこの仮面を【仮面ライダー】になるくらいの感覚だったが、サイズと善性と神秘性を捨てた【ウルトラマン】になっちまえる道具らしい。


「はっはっ、笑うしかねぇよこんなん」

「これ。結構な事態に巻き込まれたのでは?おれぇ・・・・・。」





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