第7話 大海と大蛇
地面。正確に言えば船の床をまるで潜り抜けるようにしてそいつは現れた。
アイがワシを抱えて飛び上がってくれなきゃ今頃あのでかい口の中に一発だったろう。
そのままの勢いでアイは船のてっぺんまで上り上がり、ワシを下ろすとすぐに下の方を見る。蛇のやつはこのままではどうしようないと悟ったのか潜るように何処かへと消えていった。
「ひいたか?」
そうアギトが一言ぼやくとアイは首を横に振る。
「まだ・・・くる・・」
アイは口についた拘束具のようなもののせいで喋りづらそうにしながら蛇のやつが引いていった底を見る。
「奴に・・攻撃・・・・効かない・・・手・・なし」
「どう効かないんだ?」
「すり抜けた・・・・足・・・・が」
イラっとしたのかアギトはがらがらどんの口についた拘束具を両手で思いっきり引っ張ってみると、ゴロリ。という音と共に案外簡単に取れてしまった。
「あっ!喋りやすい!」
「聞き取りズレぇんだよそれ!次からすぐに外せよタコ!ほら!続き続き!」
「あっ、あぁ。アイツのあの[すり抜ける力」。言っちまうが、こっちの攻撃はまともに入らないどころか、かすりもしねぇ。」
「そいつはどういう、、、?」
「要するに物理攻撃の一帯が全部通じねぇ蹴っても殴っても、なんか物を飛ばしても全てすり抜けて打って無しだった。そのくせしてあっちはこっちに攻撃はいくらでもできていやがった。あんなもん無茶苦茶だぜあれ。」
「嘘だろ。んな、、、!。まじかよ」
アイの口から出たのは遠回しに詰みを意味していた。それはアイの肉体を見れば一目瞭然。肉体はボロボロで皮と毛が抜け落ち、体のあちこちに損傷が見られた。
すると、ハッとしたような表情でアイは再びアギトを待ち上げるとその場から離れる。そしてその瞬間に今までいた場所からあの大蛇が再び大口をカッピラきながら打ち上がりやがった。ほぼ無言からの襲撃アイがいなけりゃ今頃アギトは二度は死んでいたろう。
地面に降り立つとアイはアギトを抱えたまま走り出す。
「おいアイ!逃げるにしたって此処じゃ逃げ場はないぜ!」
するとアイな真っ直ぐ前だけ見ながら策を話す。
「アイツの能力自体はかなり厄介だが、さっきやりやって分かった!あの野郎無敵ってわけじゃねぇ、しっかりキチンと弱点がありやがる。」
「まずアイツのスピード自体は大した事ねぇ。うまくやれば逃げて攻撃を避ける事自体は可能だし、アイツが壁なんかをすり抜ける時に微笑だが特有の音が出てくる。それに気づけていれば逃げる事自体は可能だ。」
「ぶっ飛ばす手は?」
アイは無言で足を垂らす。
奴に対して二人の取れる行動は防戦どころか逃げ一択であった。
アイは全力で床が砕けるほどの勢いで蹴り上げスピードを上げる、それに呼応するかのようにまた大蛇も顔を出しながら周りをその強靭な顎とカバの牙のような太さと長さを持ち合わせ、尚且つ数が桁違いに多い牙の二つを武器にこちら側に迫り来る。
「ちょこまかと逃げやがってヨォ!さっさと死晒せ!」
大蛇はそういうと地面から独特な音がする。
「まずい!」
そうアイが呟いた瞬間であった。アイは咄嗟にアギトを投げて逃したその時。
地面から巨大な大蛇の尾がアイの体を激しく打つ。そんな強烈な一撃を受けたアイの体は天井に激しく叩きつけられると、骨と皮が引きちぎれるような鈍い音と色を体に纏って、ドサリとその場に力無く落ちて動かなくなる。
すると大蛇はぬるりとアイの方に近づく、そう。生死の確認だ。現在アイの賞金は五億。しかし、それは生捕での話であって死んでしまっていては意味がない。しかし、アイの肉体は今もがらがらどんの状態を保っている。仮面は通常本人が自ら外すか本体が死亡した場合のみ剥がれて元の人間の姿が見える。
それを確認した大蛇は安心したように再び尾を上に上げるとその仮面を破壊しようとする。
この時アギトはなんとか足りない脳細胞をフル回転させながらその状況を見ていた。
が───気がつく─────
(ワシ、こいつに殺されないじゃねぇか?)
そう。あくまでこいつの狙いはアギトの賞金であってアギトの方は全くのノーマークのどころか興味すら抱いてはいないだろう。
そろりとそろりと後退り────その瞬間、アギトの横にアイを吹き飛ばした尾っぽが激しく叩きつけられる。
大蛇はアイの体を巻き取るように囲み込み、ながらこちらを睨みつける。
「いいこと教えてやるよ和服。いや逆威アギトぉぉ。」
ちっ!、こっちのことは知っとるか、つぅことはヤーさん周りかよめんどくせぇ
ん?しかし、ヤーさんで蛇────!
「ははっ!、思い出したぜ、テメェのツラァ」
「噂程度だが、ちょいと前に小さいが、立派な組が一つ潰れたって話を前にどっかで聞いた」
蛇は動きを少し止めると、ニヤリと笑う様子を見せる。
「一つの部屋の中で組員全員圧死させられたように潰されて死んでいて、周りも荒らされまくってたって話だったな。まぁ、組自体は対してデカくもないちっこいところだったが、そこで話は終わらなかった。」
「組の所有していた一つあったはずの仮面と組員の一人が消えちまいやがった」
「その仮面の名はインビジブル13。そして盗んだと思われるやつの名は───」
「───
大蛇が口開きその名を口にする。
「組み潰して仮面くすねたのはオレだよ!」
「しらねぇよ!ミミズもどき!」
「誰だよ!テメェの名前なんぞ話題にすらなっとらんわボケナス!」
「ちっ」
大蛇は舌打ちを一つするとつまらなさそうな顔をしながらアギトの方を見る。
「話すのはこりゃ無しだな。まっ、テメェには最初から興味ゼロだしまぁええか」
すると大蛇はつまらなさそうに自らの自慢の尻尾をアギトの方へ轟音と共に振りかざす。
尻尾は周りの壁、柱を破壊しながらアギトの方に振るわれるが、破壊しながらきたのが悪かった。その衝撃からかアギトは体勢を崩し、紙一重のところでたんとか攻撃を回避するも、もうそこにアイと大蛇の姿はなく、やつの投下能力のせいで上か下か、どこの方向へ逃げたのかもわからなくなってしまっていた。
(まずい、多分あっちはワシのことなんぞ一ミリたりとも興味がない、あの能力があるんだ、十中八九陸地に着くまで何処かに隠れ潜んでいるに決まってる。)
アギトは手元のケータイから時刻を確認する、出発からすでに1時間と少しが経過している。到着まであと1時間ほどあるが、仮面をつけていられるのは大体ワシが30分だが、あれを使えば適当な空間にいくらでも潜めるし隠れられる。
手はないか────ふと、先ほど蛇のいた場所に何か落ちていることに気がつく。
アギトが恐る恐る近づくと、そこに落ちていたものは一枚の仮面。北欧の王を模ったもの。【がらがらどん】の仮面であった。
おそらくはアイのやつが連れてかれる直前で変身を解除し、此処に落としていったものであろう。
「くっ、かかかか───ふっ」
アギトは何処からか笑い出した。乾いた卵の殻みたいな色の笑い声だ。
するとアギトは両手で思いっきり頬を叩き、喝を入れ込む。
「ちきしょう、やってやんよこのタコ助!」
「さぁ」
「反撃開始だ!」
第2ラウンド──────
─────────────────開幕────────────────
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