トーシロと玄人と大蛇

第6話 旅立ちと大蛇

「オロロロロロロロロロロ!、、、、、、ふぅ。うん!オロロロロロロロロロロ!!」


 開幕一発目からゲロである。

「ダンナ。自分から船で行くって提案しておいてその醜態はないよ」


 などとアギトの奴はこっちを呆れ気味に言いながらも背中をさすってくれていた。ちょっと嬉しい。

 あれから丸一日かけて港までたどり着いたのはよかった。正直なところは野郎二人揃ってろくな交通手段を持っていなかったために丸一日徒歩になったのが一番きつかった。

 胃の中を空っぽにすると口を拭い近くのペンチのような場所に座り込むとケータイを取り出し地図アプリを開く。

 現在俺たちは東京に向かうと言うことになっているが、現在のルートは今はフェリーに乗って仙台まで行ったらそっから飛行機に乗って東京まで一直線という

 なんとも変に回らずに行けるようにしてはいるが、本当に船を選んだことは間違いなくダメだった。オレはこのかた人生で一度も船に乗ったことはなかったためとは言え、ここまで酷いとはいやはや予想外。

 しかし、さっきっからなんか人の視線がオレの方に向いている気がする。

 老若男女。遠足かなんかで乗り込んでいる小学生。旅行中の女子大生。よくわからんじーさん。乗組員の兄さんがた。ふぅん。どうやらモテ来、、、、、、、、かっ!。


「ヨレヨレの喪服でゲロ吐いてる成人男性が目立たないわけないでしょ」


「そいつは言わないお約束🎵」


(テンションおかしくなってんなこの人・・・・ほっとこ)


 とアギトはそそくさとどこか船内の方へと消えていく。

 愛も変わらず船は目的地である宮城県の方へと進んでいくが、オレはどうも調子が出ない。朝にコンビニで好物のすじこおにぎりを食べたと言うのにこれっぽっちも足が上がらないのである。

 結局あの後もじいさんはもちろん。マイさんにも連絡はつかない上に、出発する前に村内を走ってきたアギトがどうも人気を感じなかったらしく、調べてみようと各家々に行くともぬけの空。人っこ一人おらず、中にはコンロの火がつけっぱなしだったり、電気はついていたりとまるで直前まで人がいたかのようだと言うのにネズミ一匹見つかることはなかった。結局その時は考えても仕方がないと言う結論に至りそのまま後にしたが、あれから1日ギリたったくらいしか時間が経過していないと言うのに未だ何処か心ここに在らずのような感覚がしこりのように残り続ける。あれだけゲロ吐いてた時だってどこか気持ち悪いやスッキリするような感覚に襲われることなはなかった。どこか悔しい。

 ふと、背負っていたカバンから仮面を取り出す。


「がらがらどんねぇ、、、。」


 がらがらどん。じいさんが残していった唯一と言っていいほどの代物だあれから今のところは再び装着する羽目には至ってはいないが、一体全体コイツはなんなのだろうか。あいつらとの会話でも結局有力な情報は収穫できずじまいで終わっちまう。そんなことを考えながら上を見上げて、船に乗り込む前に買った水を一口飲む。変なもん出し切ったせいか妙なスッキリとした感覚が過ぎると同時に変な気配がしてくる。

 咄嗟に座っていたベンチからガタッ!と立ち上がりあたりを見渡す。が、周りはこれといった変化はなく、風も波も人も船も安定していた。


「気のせいか、しかし・・・・」


 グジュリと右足元から水に浸した肉が潰れたような音がする。

 が、アイが足元を確認する前にその体は先ほど見ていた空の方向へ急速に上昇していく。


「がぁぁぁ!」


 体は宙ぶらりんにほっぽり出されると同時に右足が感じたこともない痛みが襲ってくる。

 いや、この痛み一度味わっている!あの時腹を刃物で刺された刃の冷たさと肉と血の熱さの混じり合ったようなこの感じ、アイは体を起こし掴まれている足の方を見る


「よぉ〜五億の小僧〜」


 そこにいたのは大蛇だ。それも数メートルとかそんなちゃちいものなんかじゃない。見えない範囲を考慮したとしても数10メートルは下らない長さに加えて、その寸胴。人間数十人を飲み込めそうかと言うほどの太さの胴体に赤と青が混じり合ったような色の肌を持ち合わせ、目はないがその頭部には人の顔を模したような仮面が貼り付けられ、そいつはその体に合わない小さな瞳でオレのことを見てきやがった。

 そうするとそいつは噛んでいたオレの足を完全にへし折り、思いっきり首を横に振りアイをすっ飛ばす。オレの体は船体の柵にぶつかると同時に足はちぎれそこから骨と肉が見えていた。


「ひゅ〜。いやあぁここまで待った甲斐があったってもんだぜ!三ヶ月!されど三ヶ月!の言葉を信じたかいってもんだなぁ!五億小僧!」

「知るかよ、んなこと」


 アイは懐に入れてあった仮面が壊れていないことを確認すると即座に取り出す。


「足じゃなくて、コイツを一発目にぶっ壊す事だったな!ミミズ野郎」


 今再び昨日ぶりにアイの肉体は再び荒ヤギのへとその姿を変える。

 すると蛇は呼応するようにその体をくねらせより高く持ち上げ、君の悪い笑顔を愛に向け


「そうこなくっちゃなぁ!地獄で語りな!このインビジブル13様の名をよぉ!」


「うっせぇ!テメェが最後に見る人の名を教えてやるよ!がらがらどん!がらがらどんだ!覚えとけ!」


 二体の獣は己の肉体をぶつけ合った







 かに見えた。

 インビジブル13の肉体を確かに捉えたはずのがらがらどんの健脚は何処にも当たらずに、地面へとぶつかり甲板が割れただけであった。


「一体?こい───────!!」


 その瞬間インビジブル13の尾が豪速と轟音は掻き鳴らしながら上から金槌で釘を打つようにがらがらどんの肉体を打ちつけ、その下の階まで突き落とされてしまう。


「がぁぁ!」


 アイを見下ろしながら二つの口でニタリと気色の悪い余裕の笑顔を見せる大蛇はたっぷりと優勢に立っている側に浸り尽くしながら口を開く。


「悪りぃなぁ。オレらぇぇにそいつはあたらねぇ。」


 蛇の毒牙にかかり、不可逆の死がアイの首に掛かる。





「なぁ?姉ちゃんアイツとなんで契約したんだ?」


 アイの所からしばらく離れた、真反対の方向の船首の先でアギトは姉のリンに電話をかけていた。

 その質問に大した考えもなさそうに、興味も抜いてリンは答える


「なんとなく面白そうだったからだよ。こんな平凡なガキ一人にどうしてこんな大金がかかっているのか?そしてコイツの運命の終わりをちょこっとばかし見てみたかっただけだよ我が弟よ🎵」


 しかし、そんな姉の回答にアギトはしばらく沈黙する。


「おい?アギト?どした?」


「姉ちゃん」


「おっおう!なんだ?」


 アギトの声色が少し落ち着いた。


「ワシはおつむはあんま良くないが、姉ちゃんはオレなんかよりずっと頭はいいだろ?」


「自分で言うのもなんだが、まぁうん」


「姉ちゃんは好奇心旺盛だし、実際アイツは面白そうなやつだ。けど」


「けど?」


「それだけで契約を、あっちが親でやるとは思えねぇ、なんか知ってんだろ?アイツのこと?どう考えたってアイツの周りは碌なものが浮いてねぇ!たった700万じゃぁリスクがでかい気がしてならねぇ。」


「だからって別に今から逃げようとかって訳でもねぇ。全部、話してくれないか?姉ちゃん?」


 普段。アギトはあんまり頭を働かせるのは苦手で、自分から意見したり、何か計画を立てたりはせず、誰か他人からの指示を待って下されてから動くタチである。そんなアギトでも時々人が変わったように、カンが妙に冴える時がある。


「ないよ。そんなもの。」


 嘘はついていない。実際さっき言った言葉は全て本心であっちが親でも良かったのはそうじゃないと納得はしない口だろうあの男は。好奇心で動いたのも。事実だ隠してはいない。


「そうか。まっ!姉ちゃんがそう言うならそう言うことか!」


 勘が冴えてもそれを自覚する脳がなきゃ対して力にはならない。悪いなアイツのアレコレはちょっとばかし待っといてくれ。今話せばお前は逃げちまう。時がくればいずれ話す。その時までその確証が持てるまでお前は待っていてくれアギト。

 そんなやり取りをしているとアギトの頬を何かが掠める。

 なんだと思い、アギトが近くを見るとそこにはうなだれ倒れたオレを昨日ぶっ倒してくれたヤギが横たわっていた。


「おっ、オイ!大丈夫か!?」


 慌てて持っていた携帯をほっぽり出してヤギの元へ駆け寄る。

 がらがらどんの体は肉が抉れ、血が滴り落ちて白い毛並みは真っ赤なっていた。地面には吹っ飛んできた時に一緒になって飛んできた木の破片や金属片が散らばっていた。しかし、そんな状態の中「あ"あ"あ"ぁぁ!」と獣のような声を荒らげながらがらがらどんは立ち上がると一点を見つめ、体勢を低く、足と手を大きく見せるかのように広く見せ、戦闘態勢へと入る。


「くるのか?」


 アギトの問いにがらがらどんはこくりと小さく首を縦に一度振る。

 アギトはそれを見ると、下にあった金属のおそらく何かの柵の一部であったであろうものを拾い、周りを見渡す。

 しばらくの沈黙が続く。波と船のエンジン音のみが響く。


「ガァっ!」


 何かを察知したようにがらがらどんは咄嗟にアギトの体を片手で雑に掴むとそのまま上に飛び上がる。そいつは一切の気配を隠し、俺たちのちょうどいた足ものから飛び上がった。

 法則を無視し、がらがらどんの血と肉がへばりついた蛇がそこにはいた。





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