第4話 裏取引

 朝日がのぼりしばらく経った頃だろうか、近くの鳥の囀りで目を覚ます。

 起き上がる頃には前日の疲れも綺麗さっぱり取れちまいなんだか頭がスッキリと冴えて正月の朝みたいな気分───────だったらよかったのになぁ───。

 起きた場所は壁ひとつない道路の真ん中で下はコンクリート、布団はなし、衣服は穴だらけのぼろぼろでまともに機能しちゃいない。手元に残ったの奇妙な仮面のみ。ふらりと近くの妙に凹んだ場所があることに気がつく。ふらふらとそちらに向かうと凹みの中に一人男が寝っ転がっていることに気がつく。


「まぁ、十中八九あの鎖野郎だよなぁ」


 男の姿は今の時代にそぐわない昔の文豪みたいな着物に身を包み、足は素足で一目でわかるほどに裸一貫できているのがわかるような風貌である。しかし背がでかい仰向けになっているからよくわかる。オレが160後半だからこいつ多分190は絶対あるぞ。バスケ選手かよこいつ、、、、、、。

 などと感心していてもしゃーないとそいつを窪みから出すと、なんとか背負い上げて家の方まで運ぼうとするが、あまりの体格の差でまとめに運べずなんとか必死で窪みから出すと近くの電柱にかけさせ少し考える。

 できる限り情報は欲しいのでどうにか情報を絞り出すのは決定として、このままで良いのだろうかと思います試しに体を探ってみる。特にこれといったものはでず、出てきたのは財布とスマホだけであった。


(正直。悪いと思うが、覗かせてもらうぞ)


 財布の中身は札もカードの一枚もなく小銭がいくらか入っているだけで、自販機でジュース一本買うだけで空っぽになりそうなほどに入っておらず、ただでさえ財布を勝手にのぞいたことがそもそも悪いのにさらにすまない事をしてしまったと、心の中で謝罪した。


(すまない蠍男)


 スマホにも触ろうとしたが、流石にこいつはまずいだろうと、躊躇していると、スマホの画面が振動音と共に光る。

 画面に映ったのはアップデートの有無を伝える内容であったが、そのホームの壁紙には一人の女性とこいつが写っていた。


「こいつは、、、」


 その時だった、後ろから声が聞こえる。


「ここは、、、、」


 まずい、サソリが起きやがった。すぐさま後ろを振り返り、蠍の方に目をやりながらとっさに携帯をポッケの方へと突っ込んでしまう。

 ヤギの仮面は懐にしまってある。

 少し寝ぼけたように頭を軽く抑えながらゆっくりと立ち上がったそいつはこちらの方を向くと、空を見上げると、一言ぼそりと煙のような声色でつぶやいた。


「そうかぁ負けたんかぁ」


 そう言うとそいつはコンクリの地面にどっしりと構え込むように座ると大きく息を吸い。

「負けたんだったら文句はねぇ!タマでもなんでも持っていけ!」

 とまるで潔く、少しの躊躇の一つも見せずに言い切った。

 その様子にアイは何も反応できなかった。理由は明白だ、仮にも人を殺そうとしてきたような人間だ、碌でもないに決まっている。と決めつけていたアイにとってまさかここまでまるで昔の猛き心を持った武士のように、透き通った言葉を考える素振りもなく言い切ったその姿はそれまでこちら側を小馬鹿にしながら舐め腐った態度で殺しにきた昨夜のサソリとは思えなかった。

 そんな姿にアイは思わず。


「おまえ、昨日のサソリか?」


 とそれまでの緊張感をぶち壊すように言ってしまった。

 それに少しサソリはポカーンとしたような顔をすると、少しため息をつきながら


「あのなぁ、こっちだってあんなのつけてたらそらゃ変なテンションなっちまうんだよ。おまえだって変な気分にになってたろ?」


 昨晩のことを思い出すと、こいつの言っていることがなんとなくわかる。あのお面をつけている間はまるで自分以外の全くの別人になり変わっているような感覚が頭をよぎる。


「確かにな、、、。しかし、にしたってどうしてそんな潔くいられんだよおまえ」


 するとその場に割り込んだまま変な笑みを浮かべて


「下手に抵抗したって、どうせあんさんなら仮面かぶって一撃でのされるしね。まっ。勝てない勝負には出ないってことよ」


 そう言うとサソリは大の字にその場に寝そべると「と、言うわけで」



「さぁ!好きにしろこんちきしょうメェ!!!!」


 と迫真の顔で制空権まで届くかと言う声で叫んだ。

 あぁ。間違いない昨日死闘をした相手は間違えなくこいつだ。絶対こいつだ。オレの腹に何本も検査してきたのは間違いなくこいつだなと確信しているとふと、体の違和感に気がつく。

 ハッとしてtシャツを上げるとアイは息が詰まった。

 消えいた。間違えなく胸と腹を貫かれたはずなのにその傷が綺麗さっぱり消えていたのだ。


「おい!サソリ!」


「あぁ?」


「きっ、傷が!傷が消えてる!どう言う事だ?!」


 と思わずサソリに聞いてしまう。するとサソリは少し考えると不敵な笑みを浮かべながら勢いよく飛び起きると愛に近づくと。


「もしかしてだけどあんちゃん全くお面について知らない感じ?」


 悔しいが図星だ。そんな様子ににひりと蠍は笑う


「わしの出す条件を守ってくれんならあんたのわかんない事教えてやってもいいぜ?」


 ごくりと唾を飲む。

 サソリは不敵な笑みの浮かべながらとんでもない条件を出してきた。


「腹が空いたから飯を奢っとくれ」


「・・・・・・いいぞ」


 仕方ないので家にまでサソリを連れてくる。

 なんでもいいと言うので冷やご飯の作り置きの肉じゃがを出してやると犬のように激しく喰らい出す。しっかしよく食うなぁ余程腹が減っていたのだろう。

 ものの数秒で丼飯を平らげるとフヒィ〜と一息つくと


「いや〜食った食った!ごっつぉうさん!」


「飯を食らうのはいいが、約束は守れよ」


 そう呆れたようにアイが言うと、サソリは笑いながら。


「そうじゃったなぁ、とりあえずまぁ名前からでええだろう。わしゃ逆威サカイ アギトじゃ」


 逆威聞いたことのない苗字、おまけに名前の方もアギトとなかなかに攻めている。いやまぁ男でアイもなかなか変だが。まぁどっちもどっちかこんなもん。


「本題に入るが、まずあんた、いや逆威あんたはなんでオレを殺しにきたんだ?」


「そりゃぁ賞金目当てよなんてったってワシらは壊し屋じゃからなぁ」


 ひとつのフレーズが頭に引っかかる。壊し屋?解体業者って訳ではないよなぁ。

 そんなことを考えていると、


「プルルルルル!!!」


 と。着信音が聞こえてくる。みるとそいつの正体はさっきの逆威の持っていた携帯からであった。

 すると逆威はこっちのポッケの方を見ると「けっ、」と軽く笑うと。


「でろよ。」


 一様は敵に情報の塊であろう携帯を取られていた事実にかけら程の焦りも見せずそう言い放つ。

 アイは恐る恐る。「いいのか?」と聞いてしまう。


「うるせぇ。わりぃが姉さんと話したほうが速いんだよ」その言葉に押されてか、唾をゴクリ、と飲み込むと電話を取り出し電話を通話モードに切り替える。

「もしもし、、、。」


「そうか、あいつやられたか」


 凛々しい女性の声が耳に響く。そいつは氷の筒の中で響き渡るような音色であった。そんな事を頭で考えていると「おい」と声がまた聞こえる。


「おい、要求があるんならさっさと言え。と言うかアギトは無事なのか?」


 相手は意外にも冷静を装っているが、こうに少しばかり恐怖がこもっているように感じた。少し考えたが、まぁ聞かせてもいいだろうとアギトの方に携帯を向けると。アギトはヘラヘラとしながら。


「すまねぇ姉さん!負けちったぁ!」


 すると、携帯の方からアギトの姉さんと思われる人がかなり大きい声で


「阿呆か!なんでとーしろに負けてんだよ!それでもウチの弟か!と言うかウチが身内だってバラすな!」


 ギャーギャーとやかましく声を上げる二人の姿を見ながらアイは苦笑いを浮かべながらこう考えていた。


(声がデケェよ。似た雰囲気が声からわかる。本当に兄弟なんだなぁ)


 そんなことを考えながら携帯を自分の耳元へ戻すとアイは呆れたような口ぶりで話を再開させる。


「で?あんたも多分逆威の姉ちゃんだろ?要件はまぁ、こいつの身柄ってところかね?」


 逆威の姉は軽く咳払いをするとさっきのとっ散らかった玩具箱みたいなトーンから元の流氷のような声色に変えると喋り出す。


「まず要件の件は一旦待て。こっち側少し聞きたいことがある。あと弟以外に姉ちゃんと呼ばれるのは気に食わん。「リン」と呼べ。」


「はぁ、まぁなんでもいいが。とりあえずリン。悪いが立場はどちらが上かわかってるよな?」


 正直こんな言葉のデスマッチは生まれて初めて、と言うかドラマ以外にしたこともないはずなのに何故か慣れた作業のような強気に出れてしまう。

 それに少し考えてからリンは「わかった」と小さくつぶやいた。そう言うと一つの疑問をこちらにぶつけてくる。


「私たちが調べた限りでは君はアイ。少なくとも昨日の夜まで仮面について何も知らなかったはずだ。そんな君がなぜアギトを収め込めたんだ?」


 意外な質問だった。


「そもそも仮面は一つの面の力も振るだけでもそれなりの期間のが必要なはずだ。」


「君は一体」


「なにものな「そんなこと聞かれたってわかんねぇよ──────。」」


 アイそれまでの空気をぶっ壊してかつ、抉り込みながらリンの会話をぶった斬った。

 この3人の出会いがさまざまな人々の運命を狂わせ[て/た]とはこの時はまだ誰も知る由もなかった。


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