第3話 待つ

『で、いい情報はあったかい?』

耳元からはウィンストンの声が聞こえていた。「いや、これといって腹にたまりそうな話はなかったな」

俺はタバコに火を付けて、無線の向こうのウィンストンに言った。

 時刻は深夜を周り、辺りはひっそりと静まりかえっていた。

摩天楼に挟まれた、谷底みたいな場所に立てられたマンションの屋上で俺は対象のオルガニが現れるのを待っていた。

クリスとオブライエンから依頼をうけ、すぐさま、俺とウィンストンはプロらしく仕事に取りかかった。

得られた情報はすくないが、必ず生物としての法則性があるはずと考え、依頼主である二人から協力された資料を元に、事件現場の近くへと張り込みのようなことをしていた。

「しかし、ウィンストン」

『なんだい、ヘックス?』

「こんな寒い中で、本当に対象が現れるかね?」

俺はコートを寄せ、タバコを口にくわえた。

『一応、依頼主の二人から貰った資料を元に、事件現場を参考にして、それを地図に当てはめてみたんだ。それを分析したら、この周辺がオルガニの行動している予測地域に当てはまったんだ』

ウィンストンはうれしそうに言った。

やはり彼はオルガニに関する仕事がすきなのだと実感する。

俺はタバコを左手でつまみ、紫煙をはき出す。「にしても寒空の中で、張り込みとは」

俺は辺りを見まわした。

行動予測といえども、オルガニは予想外の動きをするため、ジッと待っているわけにはいかない。

「なぁ、ウィンストン」

「なんだい?」

「ジッと待っていて三時間以上は、たった」『けれどオルガニが出ってくる可能性を考えたら、短い時間じゃないかい?』

ウィンストンは気が抜けた声で言った。

お前は暖かいバンの中でいるから良いが、俺は外なんだぞと言いたくなったが、それは言わずにおいた。

俺は議論する必要もないと思い、言った。

「たしかに待っているのもそうだが、これ以上何も情報が得られないなら動くしかない」俺はタバコの煙を吐き出し、下顎を震わせながら、ウィンストンに言った。

「それもそうだね。今回もヘックスに任せるよ。何かあれば、指示をくれ。辺りの温度センサーとモニターを見てるよ」

「あいよ」

俺はウィンストンに向けて淡淡と答えると骨伝導式の無線のスイッチを切った。

取りあえず身体を動かさねば。

冷えた身体でオルガニと対峙したら、即死亡なんてことはしゃれでもあり得るはなしだ。オルガニはこの世界に突如となく現れた生命体だ。

映画や、アニメのような大きな事変は起きることなく、突如とこの世界の住人になった。

質の悪いことに人間と共存するものもいて、まるで、野生の動物とかわらずそこにいる存在となった。

だが中には人や何かを破壊するものがいる。

それを俺等、ハンターは狩る。

中には好き者だとか変わり者だと言われるがそんなことは気にしない。

俺は淡淡と依頼された仕事をこなすだけ。

ふと上を見上げる。

高層ビルが巨大な樹木のように建ち並んでいる。

息苦しいったらありゃしない。

タバコを口にくわえ、歩き出した。

屋上を降り、ほとんど人通りのない通りを歩く。

もし若い人間がいたとしよう、ここに現れるのはそういうのを狙う変態の人間か、もしくは両方を襲うオルガニのどちらかだ。

俺はゆっくり、辺りに注意しながら歩く。

特に変化も無く、ただビルから漏れ出る蒸気、排水溝を流れる水の音、遠くを走る自動車の音がこだまし、それにアクセントを加えるように俺の足音がきこえる。

この辺りに、ターゲットに襲われた人間がいたというが、本当だろうか?

オルガニがでそうな気配など、微塵もない。

「はずれを引いたかな……」

俺は一人後散ると、タバコの火を地面で消す。かがんでいた俺はゆっくりと立ちあがると目の前には大きな水たまりがあった。

「雨が降ったのか」

ふとそんなことを考え、もう一つ先のみずたまりに目をやった。

水たまりには、辺りの街灯の光、ネオンが鏡のように反射していた。

そのときだった。

水たまりが風もないのに波紋が出来る。

俺は目を見開き、拡張現実を目元につけた。

できるだけ声を抑えながら、無線を付けた。

『おい、ウィンストン』

『どうしたんだい?』

ウィンストンが間の抜けた声で返事した。

「ターゲットかも知れない。 拡張現実とリンクしてくれ』

「分かった」

彼が短く答えると俺の片目の視界は一気にサーモグラフィーになった。

目の前には緑やら、青、赤などの色彩で覆われた世界になり、辺りの温度が分かるほどまでになった。

そしておれの目の前に姿を表したのは妙な姿をしたヤツだった。

「なんだコイツ?」

俺の目の前には犬のような身体をもちながら、顔はまるでゼリーのようなわけが分からないヤツだった。

「ウィンストン、此どう思う」

ウィンストンがいる車と俺が付けている拡張現実の映像はリンクしており、彼も状況を目にしていた。

『僕も初めてみるやつだ』

「コイツがターゲットだと思うか?」

『どうだろう? 確かに人をおそえそうな図体はしているし、前足のような所にはかなり鋭い、爪まで着いていそうだね』

ウィンストンは淡淡と言い、無線の向こう側で何かブツブツと言っていた。

こうなるともう手が付けられない。

俺は腰からハンドガンを取り出し、短く言った。

「分析頼むな」

俺は目の前で、何かを探しているように辺りを見まわすターゲットへ慎重に近づいていく。向こうも俺の存在に気が付いているのか、一歩ずつ後ずさりをしているようにも見えた。

「よしよし、良い子だから、動くなよ」

俺は取りあえず、麻酔の弾丸を使い、状態を見てみようかと考えた。

ヤツを一気に討伐したいのは気持ちとしてはあるがいきなりマシンガンを街中で乱射したとなると被害がかなり大変なことになる。

まずは安全策からだ。

俺はハンドガンを慎重に構えた。

その瞬間、ターゲットとおぼしきオルガニはいきなり、姿を消した。

「マジかよ!」

『サーモグラフィーからも消えた!』

無線の向こう側で、ウィンストンが驚くのがきこえた。

俺の方が驚きは大きいぞと思いながら、直ぐさま辺りを見まわした。

「どこだ」

俺は何がなんでもヒントになりそうな所を探した。

すると、地面の水たまりを波紋が移動しているのが見えた。

「あれだ」

『見つけたのかい?』

無線の向こうから興奮した声が聞こえた。

「多分な!地図との記録を忘れるな」

俺はウィンストンに指示を出し、走って足を止めることなく、波紋が続く方向へ着いていく。

意外とこちらの様子を伺っているのか、一気に駆け出して逃げる様子がない。

それともなにか、あるのか?

オルガニはときどき、人間と同じような知性を持っていてそれにはまるとかなり厄介だ。

此方が警戒しながら、駆除しなければ、確実に此方が、狩られる対象になる。

俺は適度に距離を保ちつつ、波紋の方へ近寄っていく。

近づいて行くにつれて、サーモグラフィーの状態も変化している。

姿がさっきと同じように見えかけているが、どこかボンヤリとしたように見え、なんだか気持ち悪くてしょうがない。

俺はハンドガンをしっかりと構えながら、姿が見えない標的を追いかける。

今度は水たまりがないからか、ピシャッという水が付着する音だけが聞こえ、その音を頼りに俺は近づいていく。

サーモグラフィーにヤツの姿が現れた瞬間、俺はハンドガンを勢い良く構え、引き金に手をかけた。

それと同時に標的はゼリー状の顔を此方に向けた。

標的の顔はゼリー状かと思いきや、急に姿を変えた。

俺は唖然としながらも引き金を引くことをやめなかった。

銃弾が発射され、ターゲットの姿が変身するのと同時に、弾丸が当たった。

ターゲットの頭の姿は鹿のような獅子とも言える不思議な状態になった。

その頭が首を後ろにもたげ、銃弾が威力を発揮したのだと思った。

が、それは間違っていた。

標的は、首を元の位置に戻すと、此方をむいた。

ジッとこちらをみて、ふり向きまた駆け出した。

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