第2話 依頼
タバコを吸い終え、部屋の中へ戻ると、先ほどの二人が、部屋の中へと入っていた。
「これはこれは。ニューシティ警察のオルガニ対策本部の刑事と対策研究室室長ではございませんか」
俺がおどけるように言うと、二人はあからさまに嫌そうな顔をすると、一人の堅物の顔をした男が、眉間に皺を寄せながら、口を開いた。
「わざとらしいぞ、ヘックス」
男はまさに不快という顔をし、吐き捨てるように言った。
「そんなこといいなさんな、クリス」
刑事であるクリス・オッペンハイマーは舌打ちをしながら口を閉じた。
「今日は遊びに来たわけではないんだ」
初老の男性が口を開き、言った。
「そうですか? いつもあんた達が来るのはお茶を飲みに来ている以外のことだもんな。違います、オブライエン室長?」
オブライエン・S・キンダーは政府が立ち上げたオルガニ対策と研究を行う機関のトップに立つ人間だ。
彼は動じていないのか眉一つも動かさない。
「そういう失礼な口を叩いてもいいのか? ヘックス、お前には今回の器物破損に傷害、オルガニ退治に関するいくつかの法違反が上げられている。本来なら、裁判所がお前を召還し、判決が下るところだ。今からでも、お前が相手している怪物とはまた別の怪物がいる所に送ってやってもいいんだぞ」
クリスは机を叩きながら、言った。
まさに脅しで、俺はこう言われてはさすがに引くわけには行かないが、今回ばかりはぐうの音もでない。
「べつにいいぜ。俺みたいなヤツがいなくなったらこの街がお前のいう怪物で溢れかえるからな」
俺はクリスに笑いながら答えた。
クリスはさらに眉間に皺を寄せ、俺を睨む。
「いい加減にしないか」
睨み合う俺とクリスを止めたのはオブライエン室長だった。
「ヘックス、いい加減にしてくれ。それにクリス君、君もだ。我々も仕事できている。ヘックス、君もプロとして話しを聞いてくれないか」
オブライエン室長は怒るクリスと俺に向かいそう言うと口を固く閉じる。
「だってさ」
俺はひとことだけクリスに言うと、彼は納得しないままの表情で、口を閉ざした。
それを見て、俺は頃合いだと思い、口を開いた。
「じゃあ、プロとして話しましょうか。 仕事ってなんです?」
俺はソファに腰掛けながら、オブライエン室長に問いかけた。
「我々がここに来たのは此についての話だ」
オブライエン室長は持参した鞄の中から、一つのファイルを取り出した。
「また紙のファイルとは珍しい」
俺が茶化すように言うととオブライエンは口を開く。
「ネタが無いかとハッカーを利用して拡張現実の情報を獲ろうとする輩が最近は多いから
それの対策だ」
オブライエン室長はにこりともせずにファイルから紙を取り出しながら言った。
紙をテーブルに置き、それを一枚ずつ並べる俺はそれをのぞき込んでみた。
それは写真や文章が書き込まれていて、読むのには少々、手間がかかりそうな物だった。
「手にとっても?」
「大丈夫だ」
俺はオブライエン室長に問いかけ許可をもらい、手に取り、読んでみる。
そこには見るも無惨な姿で死体となった人間たちの写真と何かの研究の論文らしきものが見受けられた。
俺は資料をさらりと眺めるようにして目を通していく。
「これはまた死体のオンパレードだ。 みんなそろって同じような死に方だな」
俺は軽く口でいうと、クリスは苛立ちながらも、それを抑えながら言った。
「確認できている数だけでこれだけだ」
「マジかよ」
驚く俺を他所にオブライエン室長が続けた。「今回の犠牲者は確認できただけで、二十七人に登る」
俺は口笛を拭いた。
「まぁ、同じような手口で殺されているとなると多い部類になるわな」
俺は資料を捲りながら言った。
「で、此が一体、なんの仕事につながるってんだ?」
俺は資料から顔を上げ、二人に向き直った。
二人は顔色を変えることもなく、オブライエンが口を開いた。
「今回、君には、この犠牲者をうんだ犯人を探して欲しい」
オブライエンは真面目な顔をして言った。
「さがして欲しいってどういうことだ。俺、人殺しを追う仕事はしてないぜ。それなら警察に頼んだ方がいいんじゃないのか」
クリスは俺の言葉に額に青筋をたてながら
、此方を睨む。
「私はひと言も、人間の仕業とは言ってなぞ。ヘックス」
オブライエンは淡淡と冷静に口を開き言った。
「今回の犯人は多分、新種のオルガニと思われる」
オブライエンは真っ直ぐに言った。
「どういうことだよ、そりゃ}
「だから仕事の話だと言っただろう」
オブライエンは身体を前のめりにする。
「そこで死体となっている人間達は皆、オルガニの被害者だ」
「ということはなんだ。 アンタたちは見たことのないヤツを犯人と決めつけて、それを俺に追えというのか?」
俺はばからしくお思い、鼻で笑ってしまう。「……そういうことになる」
一瞬、顔を歪めるが、オブライエンは表情をしっかり戻して言う。
「で、それをおれになぜ頼みにきたんだ?」
オブライエンはクリスと1度、顔を見合わせ、此方に向き直った。
「他のハンター達も伺ったが鼻で笑われたよ」
オブライエンは溜息をつきながら言った。
「鼻で笑われて、相手にもされなかったのか?」
「……。相手にはされても、この金額では何もできないと言われてしまった」
オブライエンはポケットから、一つの小切手を出し、目の前に出した。
俺はそれを手に取り、そこに書かれた数字を確認する。
「三百万?」
俺は驚いてオブライエンを見た。
「ちなみにそれは前金だ」
オブライエンは表情を変えることなく淡淡と言った。
「おいおい、これで追い返されたとか本当かよ」
俺は疑い、二人に聞いた。
「他のハンターは、これでは安すぎるし、情報が少なすぎると言われ、金が積まれようと困ると断られ続けた」
クリスは苦虫をつぶすような表情をしながら言った。
「これで前金ってことは実際の報酬はどんなふうになるんだ?」
俺は小切手をオブライエンに返し、問いかけた。
「それは仕事しだいだが、少なくとも今回、支払う前金よりは多くなる」
オブライエンはふざけた調子もなく、言った。俺はなんとなく疑問に思った事を口にした。
「それは分かったが、なんでそこまで気前がいいんだ? 政府の仕事といえど、ニューシティだけの案件だけだと割に合わなくないか? 他の州にも、オルガニによる被害はあるし、仮に一匹の可能性としてもそれをかけるだけに見合う相手なのか?」
オブライエンとクリスは見合い、俺に向くとクリスが口を開いた。
「これはオフレコだが実を言うと、今回の被害者の中に議員の親戚がいてな。 そういう経緯もあり、議員は今回の件が早期に解決することを願い、自費で報酬を出すとのことだ」
警察と議員の癒着かよと俺は内心で毒づきつつ、口を開いた。
「太っ腹なことだな」
「という訳だ。お前にとっても悪くはない話だと思うが?」
オブライエンは手をくみながら言った。
たしかに悪い話ではない。
ただなにかまだありそうな感じがして俺はオブライエンに問いかけた。
「確かに悪くない話なんだな」
最近、金を使いすぎて生活をするのにもこまりそうだからな。
俺はチラリとウィンストンをみた。
彼は、顎に手を当てながら、此方の話を黙って聞いていた。
確かに今は、金銭的にきつい面がある。
それに、オルガニの絡んでいる話は悪くはないはず。
俺はもう一度、ウィンストンを見て、目を合わせた。
彼も、研究について考えているのだろう。
ならば、ここでは引き受けるのがいちばん、良いかもしれない。
俺は下をむいて息を吐き、もう一度顔を上げて、答えた。
「そうだな……。アンタ等の言うとおりだよ」
俺は口を1度閉じ、もう一回開いた。
「分かった。引き受ける」
俺は目の前に座る、二人に向かい首を縦に降った。
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