#23 必ず、戻る
エイト達は、中央街にある総合病院を目指し、ひたすらに走っていた。
人の気配がない街を走り抜け、マークスは弟達の無事を祈るように必死に走った。エイトはボールドウィンを抱え、カミラと共に絶対に助けるという気持ちで走り続けた。そして、カムパネルラのマスターは我が子のようなメグを抱えながら決死に総合病院を目指していた。
それぞれの思いを抱えながら、エイト達はやっとのことで中央街にたどり着いた。
「…ここが中央街よ。総合病院はこの道を真っ直ぐ行けば着くわ」
カミラがそう話していると、エイトは大きな建物らしきものが見つける。すると、マークスは更に走るスピードを上げ、病院まで走り抜ける。
「…頼む…!神様…!俺はどうなったって良い…!ただどうか…!…どうか弟達だけは無事でいてくれ…!」
マークスはただそう祈りながら、ひたすらに走るのだった――。
だが、その時カミラは何かを疑問に感じていた。
「…エイト君…。もしかしたら…、これはただの風邪ではないかもしれないわね…」
「…えっ…?」
エイトが疑問を投げかけると、カミラは走りながら答えた。
「…さっき、デヴィッドさんが『頭がはち切れそうに痛い』と言ってた。それに、咳き込んで苦しそうだった。顔には脂汗も滲み出ていたし…、どうも変だったように感じたわ…」
「…だとしたら…、デヴィッドさんも街の人達と同じ症状が出ていたということですか…?…それって、感染症…じゃないんですか…?」
カミラはエイトの問いかけに頷く。
「…もしかしたら、そうかも…。……だけど…、感染症にしては他の兵士達はかかっていないし、私達にもそういった症状は出ていない…」
「確かに…」
エイトがカミラの答えに納得すると、彼女は焦りを見せていた。
「…ただ考えられることが一つあるわ…」
エイトは、カミラさんの方を振り向く。
「…もしかしたら、これは
◇
――場所は、中央街・総合病院内。
沢山の患者で溢れ返る病院の中は、異様な雰囲気が漂っていた。あちこちで咳き込む声が聞こえるが、誰一人として話そうとはせず、ただそれぞれが椅子に座っている。
話す気力もないほど、この数時間で体調が大幅に悪化していったという証拠だ。
ハーディやレオナルドは、順に診察していき、カリーナも患者の誘導の手助けをしていた。
皆、病を感染してはいけないと思いながら、口元に布を覆い距離を取っている。
そして、彼らは皆不安を抱え、静かに診察を待っていた――。
「…先程診察した人達の熱を測ったところ、三九度と一向に下がる気配がありません…!」
看護師の女性がそう話すと、ハーディは頭を抱え込んだ。
「…うむ…。一旦、解熱剤を使ってみて、そこから対策を練るしかないか…」
ハーディがそう話すと、それを聞いていたレオナルドはすぐさま反論した。
「解熱剤を使っては免疫を下げてしまい、返って逆効果だ。そんなこと医者なのなら分かるだろう」
「だが、一向に熱が下がらないのでは元も子もない。このままでは死んでしまうぞ」
レオナルドはハーディの話が腑に落ちない様子であった。二人が言い合いをしていると、カリーナが仲裁へ入った。
「…とにかく!今は患者さんが安心できるように対応しましょう!それから治療法を考えれば良いじゃないですか!患者さんがあんなに待ってるのに!!…こんなところで争ってるなら、今すべきことは何なのかよく考えてください!」
カリーナは怒りの表情を浮かべながらそう言い残して、その場を離れた。
「…あの子は何なんだ?」
ハーディがカリーナを見つめながらそう言うと、レオナルドはカリーナの言葉に納得した様子をし、静かに答えた。
「…冒険家だ。まだ芽も咲いていない、駆け出しのな」
そう話すとレオナルドは待合室や廊下で待つ沢山の患者を見て、今、何をすべきなのかを考えた。
「…兄さん。とにかく、今は患者達をベッドまで運ぼう。ベッド数が足りるかは分からんが…、迷っている暇はない」
レオナルドがハーディへそう話すと、「…ああ、そうだな」とハーディが答えた。
「…よし、次の患者さんを呼んでくれ!」
ハーディは看護師にそう言い伝え、レオナルドもまた患者を呼んだ。
「次の方、どうぞ」
――その一方でカリーナはベイカーやハリー、アニー、ナンシーがいる病室へ向かった。
点滴を打たれ、酸素マスクを付け眠っている四人の姿を見ると、カリーナは自分の無力さに胸を締め付けられるのだった。
「…ごめんなさい…、何もできなくて…」
そう呟き、カリーナは涙を流すのだった――。すると、カリーナはハリーの腕が上がるのを目にする。
「…ハリー君!」
「…カ、カリーナ…さん……」
カリーナはハリーの手を握り締める。
「良かった…!大丈夫だよ。今、ヒルトン先生達が助けてくれるからね!だから、頑張って…!」
そうしていると、外から何やら騒々しい声が聞こえてきた。
「…ハリー!アニー!ナンシー!みんな!どこにいるんだ!」
マークスだった。
後ろには、エイトやカミラ、アトウッド、マスターカムパネルラ、気を失っているボールドウィンとメグもいる。カリーナは急いで外へ向かった――。
――病院の入口からはハーディや看護師達が出てくると、ハーディは落ち着いた口調で話し始めた。
「…ここから先は、医療関係者以外立ち入り禁止になります。患者さんは急いで中へ」
すると、看護師達はボールドウィンとメグを病院内へ運ぶ。
「…ハーディさん…!」
カミラがハーディを見て驚く。するとマークスは、「…なあ、ハリー達は中にいるんだろ!?」とハーディに向かってそう話した。
「…ああ、そうだ」
「お、おい…!三人とも…、無事なのかよ…?ハリーも、アニーも、ナンシーも…、みんな大丈夫なのか…!?」
ハーディはマークスに静かに伝えた。
「…咳もひどいし、呼吸をすることも苦しそうだったが、今はとにかく安静にしてる。…だが、いつ症状が悪化するか、…分からない…」
エイト達はハーディの言葉に絶句していた。
「そ、そんな……!」
そこへカリーナが中から出てきた。
「…みんな!」
「カリーナ!」
エイトはカリーナの元へ向かった。
「何があったんだ!?一体……何が…!」
「……エイト君……」
カリーナは涙を流しながら俯く。その横で、マークスは頭に最悪の事態をよぎらせていた。
――もし、ハリーやアニー、ナンシーに何かあったら……。
「…お願いだ、ハーディさん…!中へ入れてくれ!」
「どうか、お願いします!!マークスをハリー達に会わせてください!!」
「ダメだ!!今度は君達が殺されてしまうかもしれない!!」
「そんなのどうだって良い!!!……俺は、ハリー、アニー、ナンシーに……、一人一人にどうしても伝えたいことがあるんだよ!!」
「お願いです!!マークス君のためにも、ハリー君達のためにも、どうか病院の中へ入れてください!!」
エイトとカリーナ、マークスは何度もハーディに訴えた。だが、ハーディは一向に病院の中へ入らせようとしない。
ハーディは三人に向かって、「ふざけるなっ!!」と怒号を飛ばした。
「ダメなものはダメだ!!自分がどうなってもいいというのか!?確かに自分達はどうなったって良いだろう!!だがな、君達がもし中へ入り、暴動に巻き込まれてしまい、そのせいで他の人達にも命の危険を拡大させてしまうリスクがあるんだ!!自分達のことだけを考えるな!!」
エイトとカリーナはハーディの顔を見て、口を閉じたまま黙っていた。言葉が出てこない――。確かに考えが浅はかだったと、三人は感じていた。
自分達が危険を拡大させてしまう可能性があるのだということ――。
自分にとって大切な人が凶暴化してしまったら、例え友人や知人、家族であろうと、決して話をすることも、顔を見ることもできないということ――。
三人は突きつけられる現実に対して、なんて残酷なのだと感じた。
ハーディはそんな三人を見て話した。
「…君達の気持ちはよく分かる…!私だって同じ気持ちだ…!会わせてあげたい家族は沢山いる!!だが…、仕方のないことなんだ……」
カリーナは涙を流し、嗚咽をしながら下に崩れ落ちた。
「……な、な、なん……で…!」
エイトは、ただ立ち尽くしていた。
自分には何もできない…、どうすることもできないのだと…。
マークスの目には涙が浮かんでいた。
「……ハーディさん!…ハリー達を頼む!俺も早くこの状況を抜け出す方法を見つける!…だから、だから…、お願いだ…」
ハーディは、マークスの涙ぐむ声を聞いて驚いていた。
「…弟達を……、俺の…家族を…助けてくれ…!!」
ハーディは拳を握り締め、目から込み上げてくる涙を堪えた。
「…大丈夫だ。必ず、なんとしてでも、この現状を乗り越えて、君の弟達を助けてみせる…!!絶対に死なせたりしない…!!」
そう答え、ハーディは決意を新たにしていた。
(私は、必ず…、元に戻してみせる…!)
――その時、どこからか嘲笑うような声が聞こえてきた。
「何が助けるだよ…!笑っちゃうぜ」
一同は、声のする方を向いた。
そこには、マークスの友人であったマーティンの姿があった。
「…マーティン…!!!」
マークスはそう呟くと勢いよくマーティンの方へ飛び掛かった。そのまま二人は地面に倒れ込み、マークスはマーティンの胸倉を掴んだ。
「マークス!!」
エイトがマークスを止めようとするが、それをカリーナが止める。
「…ど、どうして…?早く、止めないと!」
「…待って…。心を読めるエイト君なら分かるはずだよ。今、私達が何をすべきで、何をさせるべきか…」
カリーナの言葉に、エイトは勢いを止める。
マークスは依然として、今にも殴りにかかろうとしていた。
「…なあ…、お前…。…お前がアイツらにバラすわけないよな…?…そんなことするはずねぇよな…?だって…、お前は……、俺の……」
マークスがそう話をしている途中、マーティンは突然、「アハハハハハハハ!!!」と笑い始めた。
その様子にエイト達は驚き、恐怖を感じていた。
「…ど、どうしちゃったんだよ…!お前…、本当にどうしたんだよ…!?」
マークスの言葉に対し、マーティンは笑いを止め、無表情になる。そして、マーティンは何も喋らず、ただマークスの目を真っ直ぐ見つめる。
その光景に周辺は静まり返り、エイト達も何も喋らず、ただその場に立ち尽くしていた。異質な空気が漂う中、エイト達はただただ静かに時が過ぎゆくのを感じていた。
するとマーティンは、「…フッ…」と吹き出す。
「アハハハハハハハ!!!」
再び笑い始めたマーティンを見てマークスは驚く。
「…アハハハハハハハ!!!…俺、こういう静かな空気耐えられないんだ!!!アハハハハハハハ!!!」
そう話すマーティンを見て、マークスは怒りが込み上げてきるのを感じた。すると、マークスは怒りを抑えきれず、マーティンに向かって拳を振り下ろした。
「…ドン!」
鈍い音が耳に鳴り響く。
「…おい!!マーティン!!答えろ!!お前じゃないよな!?お前が俺のことをバラすわけねぇよな!?…なっ!!?」
マークスがマーティンに訴えるも、マーティンは尚、笑い続ける。
「アハハハハハハハ!!!」
すると、ふと笑いを止め、マーティンは静かに答え始めた。
「…俺だよ。お前のことバラしたの。おーれ!!アハハハハハハハ!!!」
マークスはマーティンの言葉に絶句した。
「…あのクソ野郎達がお困りの様子だったから、手助けしたやったんだよ。…勿論、情報は金と引き換えにな」
マーティンは見下すような口調で話を続ける。
「…なあ。さっきさあ、俺はお前の何だって言おうとしたんだよ?」
マークスは、マーティンの胸倉を左手で掴み、右手で殴りかかろうとしていた。
「…待て!当ててやるよ。まさかお前、『俺の友達だろ?』って言おうとしてたんじゃねぇのか?アハハハハハハハ!!!」
殴りかかろうとしていた拳の力をマークスは弱める。
「…んなわけねぇだるぉお!!ばーーか!!アハハハハハハハ!!!俺のことを助けようとしていたそのお前の思いが、俺の心を踏みにじってたの分かんねえのかよ!!?あぁ!!?じゃあ何や!!?俺のことを友達として信じてたってのか!!?お前は散々コケにしてたんだよ!!!俺を!!!」
マーティンがマークスに向かって胸の内を叫んだ。その瞬間、マークスは再び拳に力を込める。
涙を浮かべ、マークスがその拳を振り下ろそうとした次の瞬間、誰かがマーティンの顔面を殴った。
――エイトだった。
エイトはマーティンの胸倉を掴み、「…ふざけるな…!……ふざけるな!!」と涙を浮かべながらそう繰り返した――。
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