#20 仲間 (2)
カリーナは、ベイカーを背中に担いだレオナルドと共にハリー達の待つマークスの家へ向かっていた。
その道中、レオナルドはカリーナに質問をしていた。
「…そういえば、どうしてマークスがデヴィッドの屋敷にいると分かったんだ?」
レオナルドの問いかけに対し、カリーナは「実は…」と切り出した。
「…信じてもらえないかもしれませんが…、エイト君は人の心の声を聞くことができる能力を持っていて、『ソウル』という力らしいのですが…、エイト君はその力を使ってマーティン君の声を聞いたらしいんです。本当の心の声を…」
「…ソウル…、聞いたことがある…。歴史書にも詳しいことは書かれておらず、まだまだ謎が深いというあの能力のことだろう?エイトはその力を使って居場所を突き止めたということか…」
レオナルドは、「ふむ…。なるほど…、分かった…」と納得をしたように言った。
「…信じて…くれるんですか…?」
「…信じないでどうする。医者は『信じる』ことが最も重要な役割だ。…とにかく、今は一刻を争う。どちらの難題も絶対に解決することが最優先だ」
そう言って、レオナルドはカリーナの方を向き微笑んだ。だが、その微笑みからは同時に焦りも感じられた。
「…大丈夫ですか?ヒルトン先生…、辛くないですか?…少し休みます?」
カリーナがレオナルドの様子を気にしながら言うとレオナルドは、「大丈夫だ…」と一言、口を開いた。
すると、逆に次はカリーナがレオナルドに問いかけた。
「…あの…、そういえば私、さっきマークス君の家に『XXXV』って書いてある紙が貼られていたのを見つけたんですけど…、何だか分かりますか?」
カリーナが走りながら『XXXV』と書いてある紙を見せると、レオナルドは走りながら首を傾げた。
「『XXXV』…?何かの暗号か?」
レオナルドが考え込みながら走っていると、カリーナは再び紙を見た。
「…何かしらの私達に対してのメッセージか…、それとも…」
レオナルドもそれに続いて、「もしくは我々に対しての警告か…」と言った。
「…何を意味しているのかは分からないが…、とにかくメッセージ性があることには間違いない。注意しておこう」
「…はい…!」
二人がそう話している間に、マークスの家へたどり着いた。
カリーナが扉を開け、「ハリー君!今、ヒルトン先生を連れてきたよ!」と言いながら家の中へ入ると、中にはベッドの上で気を失っているハリー、そして床に倒れているアニーとナンシーの姿があった。
「ハリー君!…アニーちゃんにナンシーちゃんまで…!…そんな…!」
そう言いながらカリーナは三人の元へ駆け寄った。
「みんな!しっかりして!」
カリーナがと叫ぶも返事はない。レオナルドもベイカーをその場に下ろし座らせ、ハリー達三人の元へ駆け寄った。
「…凄い高熱だ!このままではまずい!死んでしまうぞ!」
そう言って、レオナルドは急いでタオルを水で濡らし、三人の汗を拭く。
「…カリーナ!君も手伝ってくれ!アニーとナンシーを頼む!」
「はい…!」
レオナルドに指示された通りに、カリーナは水で濡らしたタオルでアニーとナンシーの汗を拭き取った。カリーナがアニーやナンシーの体を触ると、高熱が指先に伝わるのを感じた。
「…どうして、こんなことに…!」
レオナルドがハリーとベイカーの汗を拭き取りながら話していると、そこへ、「おーい!」という声が聞こえてきた。アトウッドだった。
「…いたいた…!やっと見つけた!」
息を切らしながら、アトウッドは焦った様子でそう言った。
「…伝えたいことが山ほどあるんだが…、ハァハァ…、何から伝えればいいのか…」
アトウッドがそう言っていると、中の様子を見て驚いた様子で、「おい…!どうしたんだ!みんな!」と叫んだ。
「ニック!どうか助けてほしい!ハリーやアニー、ナンシーを病院まで担ぐことはできないか?」
レオナルドの問いかけに対し、アトウッドは「もちろん大丈夫ですが…」と言った。
「…街の病院は、受け入れてくれるんですか…?」
「なんとか掛け合ってみる。…とにかく今は助けることが第一優先だ!行くぞ!」
レオナルドはベイカーを再び背中に担ぎ、街の病院へ走り出した。
「ちょっと待ってくださいよ!ヒルトン先生!」
アトウッドはハリーを背中に乗せ、アニーを片手で抱き上げた。カリーナはレオナルドの医療バッグを持ちながらナンシーを背負った。
アトウッドは必死にレオナルドの元へ追いつき、ハリーとアニーを下ろさないよう慎重にバランスを取りながら走り続けた。
「…マークスがデヴィッドさんの屋敷に捕まってるってこと、ご存知ですか?」
「…あぁ、知ってる。カリーナから聞いた」
「それじゃあ…、エイト君がカミラさんと一緒に屋敷へ向かっているということは…?」
「何…!?」
レオナルドは、アトウッドの問いかけに驚きつつも走り続けた。
「エイト君、カミラさんと一緒なんですか…!?」
カリーナも驚きながら問いかけると、「…あ、あぁ…、俺はカミラさんにマークスのことを伝えてくれと頼まれて…。その後、二人はマークスを助けに屋敷へ…」とアトウッドは言いながら、ずれ落ちそうなハリーとアニーを抱え直し体勢を整えた。
「…そんな…、二人だけでなんて…無茶よ…!」
カリーナがそう話すとレオナルドは、「…いや、多分、大丈夫だろう…」と答えた。
「…カミラがいればマークスを何とか助けられるはずだ…!…それに、隣には相手の心を読むことができる強い味方がいるんだからな…!」
レオナルドはそう言って、「…さぁ、私達は病院まで急ぐぞ…!」と鼓舞し、そうして三人は、ベイカーやハリー達を抱えながら病院へと走っていった――。
◇
エイトとカミラは、マークスが捕らえられているデヴィッドの屋敷へ向かうため、細く長く続く木々に囲まれた道を走っていた。
デヴィッドの屋敷は街から少し離れた位置にあり、森を抜けなければ辿り着くことはできなかった。
エイトはカミラさんに導かれながら、ひたすらに走り続ける。
「エイト君、こっちよ…!」
カミラは先に走るがその速さにエイトは驚いた。
「…ハァハァ…、…カミラさん、走るの速いですね…!」
「…ん?いやぁ…、そんなことはないけれど、走るのは確かに得意かもね…」
息切れをするエイトを他所に、カミラはどんどん足を進めていく。そんなカミラの姿を見て、エイトは必死についていった。
「…あの、デヴィッドさんという人はどんな人なんですか?」
ふとエイトはカミラに問いかけると、彼女は静かに答えた。
「デヴィッド・ジャーマン。この街の地区一帯を取り仕切る大商人で、街の中でも有名な富裕層よ。元々、不動産王だった父親の後を引き継ぎ、父親の昔馴染みの貴族・グレイス家との交流を深め、そして金銭面で助力をしてもらい、そうして彼はこの街で失業せずに生き残ったのよ」
エイトは話を聞いて、「なるほど…」と呟いた。
「…だからマークスは家族や街の人達を苦しめた張本人であるグレイス家と、特に関わりが深いデヴィッドさんの屋敷を狙っていたんですね…?」
「多分ね…」
エイトとカミラが話していると、突然彼女は足を止め、「待って!」と小声で言い放った。
「誰かいるわ…」
エイト達は草木の影に隠れ、そっと周辺を覗いた。すると、道の向こうから銃を持ち武装をした人々がこちらへ向かって歩いてきた。
「…あれは何ですか…!?」
「…あ、あれは…!」
エイトの問いかけに、カミラは焦りながら答え始めた。
「…あれは…、グレイス家の手下よ…!もしかしたら…、マークスはかなり面倒なことに巻き込まれたのかもしれないわ…」
カミラはそう言いつつも、焦りを消し去るかのように冷静さを取り戻し始めた。
「…ここを切り抜けるには、ここで気づかれないように手下が遠すぎるのを待つか…、それともあの様子だと、これからこの無防備なまま突入していったとしてもリスクが伴うだけだから、…手下を倒して武器を奪うか、どちらかね…」
「…ぶ、武器を奪う…!?」
カミラの言葉に対しエイトは思わず驚き、「ど、どうやって…?」と問いかける。
すると、カミラはウィンクをした。そして、グレイス家の手下が通り過ぎるのを待ちながら、カミラは身構えていた。
「相手は四人…、楽勝ね…」
エイトはカミラのその余裕な表情に驚く。
「…え、まさか奴らを倒すんですか!?」
「えぇ」
カミラはそう言って頷いた。
「…私は手下を必ず倒すから、エイト君は手下達の心を読み解いてちょうだい。あなたのその能力で相手から情報を奪うの…!お願いね」
そう言ってカミラは、「…行くわよ…」と呟いた。
「…ちょっ!待っ…」
エイトがそう言いかけるも、時すでに遅く、カミラさんは四人の武装兵に突っかかっていった。そして、華麗な蹴りで一人の武装兵の顔にキックをお見舞いした。
「おぉぅるぁぁぁぁぁぁああああ!!」
顔面にキックをされた一人の武装兵は失神し、その場に倒れ込んだ。
「な、なんだ、貴様は!!」
一人の武装兵がそう言うと、カミラに銃を向け、その背後にもう一人の武装兵が銃を持ちながら、カミラさんを囲むように立った。しかし、カミラは自分の現状に臆することなく、目に追えない素早さで正面の銃口を交わす。
「…『なんだ、貴様』?……それは…、こっちのセリフよ!!」
カミラがそう言って脚で銃を蹴り上げると、銃口から銃弾が飛び出す音が聞こえた。
その銃弾はカミラの背後に立っていた武装兵の身体の中心に命中した。カミラは地面に落ちた銃を拾い上げ、正面にいた武装兵を銃で殴る。
勢いよく当たった顔からは鼻血が吹き出し、カミラはその後も武装兵の背中を蹴飛ばした。
その光景を見ていたエイトは、カミラの行動に驚きと衝撃を感じていた。
(す、凄い…!!)
エイトはしばらく口を開けて見ていたが、ハッとした様子で、本来の役割である相手の情報を掴むことに専念した。
内なるソウルの力を引き出すように、エイトは最後の一人の武装兵へと意識を集中させる。
――すると、声が段々と聞こえてきた。
『……早く
エイトはその声を聞き、リチャードという名を思い返す。
(…リチャード…?…誰だ…?…グレイス家の手下なら、グレイス家の人間に間違いないと思うけど…、聞いたことのない名だ……)
そうエイトが考えている中、カミラは銃口を残りの一人の武装兵に向ける。
「…さてと…、マークスは屋敷にいるのよね?」
カミラが上から見下ろすような蔑んだ表情をして、武装兵に問いかけた。
「…あ、あぁ!そ、そうだ!いる!…だが、私は何もしていないんだ!だ、だから、お願いだ…!どうか、命だけは助けてくれ…!私が死んだら、家族が…、妻や子供達が路頭に迷うことになる…!」
武装兵が必死になってカミラに頼み込むが、決して表情を変えることなく、カミラは銃を向けながら武装兵へと近づいていく。
「…あなたが何もしていなくとも、あなた達が何か企みを持っていることは確か…。だから、あなたから何を計画しているのかを聞くまで、私はこの銃口をあなたへ向け続ける。…だから、答えて。この街で何をしようとしているの?」
カミラがそう話すと、武装兵は手元の銃をカミラへ向ける。
「く、来るなっ!!それ以上近づいたら、お前を撃つ!!」
「…いいわよ。…撃ってみなさい。だけど、それと同時に私もあなたを撃つ。どの道、どちらも死ぬわ…。私も…、あなたもね」
カミラはどんどん近づいていく――。
だが、その時、一瞬の隙を突いてカミラは素早く武装兵の銃を脚で蹴り飛ばした。
そして、武装兵を脚で転ばせて地面へ押さえつける。そのまま、銃口は武装兵の額に向け、カミラは目を見開いた。
「…あなたに人を殺すことはできない…。さっきから人を殺すことへの恐れが感じられた。だから、さっさと助かりたいなら、早く答えなさいっ!!あなたにも家族がいるように、私達にも大事な
カミラが決して人前では見せたことのない表情や話す様子を見ていたエイトは、彼女の知らない一面を知ったように感じていた。
武装兵はカミラの話を聞いて恐れを感じていた様子だったが、次第に打って変わって笑いだすのだった。
「…フフ…ハハハハハ!!…殺すなら殺せ!!どうせ、この街も!国も!世界までも終わるのだからな!! もうじきお前達は
「…
エイトがそう呟いた時、突然銃声が鳴り響いた。エイトは銃声の鳴った方向へ目を向けると、そこにはカミラと大量の血しぶきが目の前に広がっていた――。
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